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不機嫌な君と
しおりを挟む猫の一件で距離が近づいた(?)かに見えた俺とスバルだが、喧嘩をしてしまった。
……いや、これは喧嘩なのか?厳密に言うと、あいつがなぜ怒っているのか俺にはよく分からない。
哀子のいるキャバクラに行った帰り道、家までの道をぼーっとあの夜のスバルのことを考えながら歩いていたら、うかつにも思いが通じてしまったのか、着信がきたのだ。無視することもできたが気が向いたので出てみることにした。
「もしもし?」
「優也!なにしてたの~」
「いや、お前仕事は?」
「仕事中だよ。今ね、女の子見送って、外でタバコ吸ってたんだ。そんでふと、優也は何してるかなって思って」
デビルジャムの入っている雑居ビルの吹き抜けのところで、柵にもたれてタバコをくゆらす美青年の姿が脳裏に浮かんだ。
あいつが一服するところなど見たことがないのに、なぜか鮮明に思い描ける。
「俺は、いまから帰るとこだよ」
「こんな時間に?飲み会だったの?」
「そう。お前の店の近くにはいたんだ。けど一人になったから、まあ、帰ろっかなって感じで」
「そっかあ。楽しめた?」
前半はそこそこ楽しかったが、後半はまさに徒労だった。なぜか感情もぐちゃぐちゃになるし。
「…全然。付き合いでキャバクラとか行くはめになったしさ、今日は参ったよ」
「え、キャバクラ行ったの?」
スバルの声がわずかに固くなったような気がするが、気のせいだろうか。
「ん?うん」
「ふーん。女の子可愛かった?」
「いや、ちゃんと見てな」
「楽しかったみたいで良かったじゃん。俺、仕事戻るから。じゃーねっ」
ブチッ。
「いや、ちゃんと見てないよ、俺哀子としか喋ってないし」という俺のセリフに思いっきり被せて、スバルは語尾強めで言い切り、一方的に電話を切ってしまった。
あのクソガキ……
やっぱりぶち殺してやる。
◆
勝手に電話を切られてから、ムカついたので一週間ほど連絡をしなかった。俺からしないのは今に始まったことじゃないが、スバルからこんなに連絡が来ないのも、最近じゃ珍しいことではあった。
電話以外で、本当にどうでもいいような内容が、二日に一度くらいは気まぐれに送られてきていたのだ。
【水曜日。週中なのに、今日はけっこう忙しかったよ。今から寝ます】
という連絡が木曜日の昼過ぎに来たり、
【美容室に行きました。アッシュが抜けてきたので入れ直した!いい感じ】
という写真付きの報告だったり、
【優也はまだ仕事忙しいかな。今日は姉ちゃんが来て、猫たちを連れて行きました】
という寂しい話だったり、まあ、九割くらいはくだらない話が多かった。一割の重要な話はもちろん猫の件だ。
俺はそのときの気分で返事をしたりしなかったりして、なんとなーくお互いの生活パターンをぼんやり把握しているかな、くらいの関係性で。
その連絡がなくなったからといってどうということはないが、なんとなく気分が悪い。俺が何をしたと言うんだ。
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