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猫を抱いた君と
しおりを挟むあれから二週間で、スバルから二回電話がかかってきた。嫌いなわけではないがちょうど仕事が忙しかったのと、うっとおしいなという思いから二回とも無視した。
そして三週目、二匹の猫と戯れている写真がいきなり送られてくる。
「か…!」
俺が無類の猫好きと知っての所業だろうか。
写真に写るのは両方ともまだ子猫だ。一匹はスバルの膝に、もう一匹は腕に抱かれて、目を細め、なんとも心地好さそうな顔をしている。喉を鳴らす音が今にも聞こえてきそうだ。
「かわいすぎる…!」
あまりの尊さに思わず光速で保存をし、目尻を下げてデレデレと見つめてしまった。
猫を愛しすぎるあまり、つい沈黙を破って返事なぞ送ってしまう。
優也【待て、それはずるいだろ。かわいすぎる】
スバル【僕?】
優也【猫】
そこからなぜか俺が既読無視をされて、さらに一週間が経とうとしている。いったいなんなんだ、こいつは。もっと猫の写真送ってこいよ。
スバルはこちらの苛立ちも知らずに、写真の中で猫を抱き、八重歯をちらりとのぞかせるあの人懐こい笑みを浮かべている。
◆
だからと言うわけでは決してない。決してないが、また哀子に誘われたので渋々、俺は飲みに出かけた。そしてもはやお決まりのように、朝、デビルジャムに流れ着く。
「夕陽!あたしにシャンパンちょうだい」
「愛衣さん、いつもありがとね」
俺の隣では肩出しミニワンピース姿で今にもパンツが見えそうなくらい酔っ払った哀子と、そんなことを物ともせずてきぱきと相手をする夕陽くんが仲良く会話している。
今日はスバルが全然やって来ない。指名をしていないのだから、人気者のあいつがフリーで卓につくことなどそうそうないのだろう。分かってはいる。分かってはいるけど、なんだよあいつ。電話二回も掛けてきやがったくせして。
指名すればいいのだが、それではスバル目的で来たようでなんか癪だった。決して指名料をケチっているわけではない。あくまでこちらからアクションを起こすのが嫌なのだ。あいつが一瞬でも卓にやってきたら、そのまま指名してやってもいい。
しばらく経った後、奥の席からスバルと女の子がやってきて、店の外に出て行くのが見えた。見るつもりはなかったけれど、視界の端に映ってしまったのだ。お客さんを見送りに行くのだろう。女の子の白くて華奢な肩を抱くスバルは、いつもと違って男らしく見える。
アイドル営業とか言ってたけど、見送りのエレベーターでちゃっかりキスとかするんだろうな。ああいうやつは。
彼女はいないが羨ましいわけじゃない。あいつは俺とは違う人種だとしみじみ感じただけだ。
俺は好きな相手にしかそういうことはできないし、そもそもホストのように、たくさんの人に輝きを届けることもできない。いや、たった一人にだって届けることはできないかもしれない。
酒を飲む以外にすることもなく、俺は暗い店内でキラキラと光る高そうな照明をぼんやり見つめていた。
こんな朝方に、ホストクラブで、俺は本当に何をやっているんだ。
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