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君と日常を
しおりを挟むある日のこと、近年稀に見る大雪で客足がぱったりと途絶え、デビルジャムは早じめをした。台風や雪など、天気によってこういうことはままある。僕はチャンスとばかりに急いで帰り支度をすませ、ある場所へ向かった。
とはいえ雪の影響で、同じように閉店時間を早める店や、そもそも臨時休業にする店が多いため、ふだん賑やかな歓楽街には人影がなかった。僕の向かう店もその例に漏れず、もう閉めた可能性が高い。賭けではあったが、とりあえず行ってみようと思ったのだ。
雑居ビルの地下へ続く階段を降りると、意外なことに、まだ看板が出ていた。閉店作業中だったら出直そうと思いながら、ドアを押し開ける。
「いらっしゃい。あら、スバルちゃんじゃない」
カウンターの中から、ママが笑いかけてきた。僕は例のmix barに訪れたのである。
◆
「久しぶりに顔が見られて嬉しいわ」
「こちらこそ。外、すごい雪だね」
店内はボックス席は無人なものの、カウンターの端にはキャストの男装女子に夢中のおじさんがひとり座って酒を飲んでいる。
横目でその様子を伺い、ふいにデジャブを感じた。以前来たときにいた人と同一人物な気がする。よほどあの子に入れ込んでいるのだろう。
苦笑いしたくなったが、あのおじさんが帰らないおかげで営業中だったかもしれないので、心の中で手を合わせておいた。
「ハイボールでいいの?」
「うん。ママもなにかどうぞ」
「ありがとうね」
ママはてきぱきとお酒を作りながら、僕の顔をまじまじと見て微笑んだ。
「なにがいいことがあったの?」
「え?」
「幸せオーラが出てるわよ。ますますいい男になったわねえ」
僕は照れたが、気を取り直して、ママに会わなかった間に起こったことを手短に報告した。前に来たとき話した片思いの年上の彼と、あろうことか両思いになれたということ。今でも信じられないということ。付き合っているわけではないけれど、でも、それでもすごく嬉しいということ。
ママは目を輝かせ、自分のことのように喜んで聞いてくれた。
「こう言っちゃなんだけど、この店のお客さんは悲しい恋愛をしてる子も多いから。ほんとよかったわあ。これからもっと幸せにならなきゃだめよ」
「ありがと。なかなか来られないけど、ママには話したかったんだ。僕の本当の部分を見抜いた、ただひとりの人だったから」
「そう言ってもらえて光栄よ。最高の一年の幕開けになったわ。おかげさまで」
最高の一年の幕開け。本当にそのとおりだ。ちなみに夕陽くんは、勇気を出して愛衣ちゃんをデートに誘ったらしい。OKをもらえたと、泣きそうになりながら報告してくれて、こっちまで泣きそうになってしまった。
グラスを傾けたら、氷がカランと音を立てた。幸福感で満たされている。こういう夜はいつも以上に、優也の声が聞きたくなる。
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高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
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