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君と本音を

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少し上がっていけよ、と促されて、僕はいま優也の部屋の中にいる。予想通りの、いかにも独身男性ひとり暮らしというような室内だ。ものすごく散らかっているとかものすごく不潔だとか言うほどではないが、ものすごく綺麗ではない。そういうわかりやすい雰囲気が微笑ましくて、よくないと思いつつぐるりと隅々まで見回してしまう。


優也はというと、僕をこのまま帰してはいけないと思って勢いで誘ったものの、どうしていいかまるでわからない、という気持ちがその表情にありありと映し出されていた。気まずそうに話しかけてくる。


「あー……なんか飲む?」
「ありがとう。なんでもいいよ」


未開封の水のペットボトルを差し出された。そういうところもなんだかイメージ通りで、キャップを開けて水をひと口飲んだ僕はすっかり嬉しくなった。もはや恐れるものなどなにもないような気がして、つい、本音を口に出してしまう。僕から核心に迫らなければ、一生このままのような気がしたのも事実だ。


「僕、優也のことが好きだよ」
「うん」


もっと驚かれるかと思ったが、優也はいたって冷静だった。僕の方がそれに驚いたが、平静を装って続ける。


「……ガチ感出したら嫌われると思って、ふざけ半分で言ってたけど、本当ははじめて会ったときからずっと気になってた」
「うん」
「一緒に過ごすようになったら、気になるだけだったのがどんどん好きになっちゃって。でも、優也には言わずにいられると思ったんだ。ふつうに今まで通り、友達として、平気なふりして……」


キスをされたときのことを思い出す。あの瞬間、僕は悟ったのだ。自分で思っている以上に、優也のことを好きになってしまっていたのだということを。
好きじゃないふりなんて、もう絶対にできないくらいに。


「……なに言ってんの? 冗談やめろよ、男同士だぞ。……とか、俺だっていつもみたいに言いたいんだけど、なんつーかさ」


優也の言葉の続きに怯えて、肩がびくんと反応した。拒否されるのではないかという不安に押しつぶされそうになっている。好かれるわけない、友達でいい、というのはしょせん予防線だった。僕は自分が思うほど強い男じゃなかったのだ。本当はずっと願っていた。好きになって欲しい、友達のままでは嫌だ、などと。


「……俺も好きになったかもしんないわ。だから言えない」


その言葉が耳に届いた瞬間、僕は目の前で小さな爆弾が爆発したかのように、勢いよく壁際まで後退った。なによりも欲しかった言葉のはずなのに、いざ口に出されると信じられなくて、パニックに陥ってしまった。


「え、は、何、だれ、っ、なんのはなし」


優也は呆れ顔で頭をがしがしと掻いている。相変わらず素っ気ないがひょっとすると、照れたり、しているのだろうか?


「いや、だから俺がお前を。わかんねーけど。自分でもまだぜんぜん整理ついてないから」


……優也が僕を。
……好きになったかもしんない、と。


身体がわなわなと震えた。どうしていいかわからなかった。嬉しいのに、込み上げてくるものが多すぎて言葉にならない。


「つーか昨日キスしたの俺からだろ。いまさらなんでそんなにビビってんだよ」
「そうだけど……だって……!」


優也が立ち上がり、僕のいる壁際まで寄ってきた。これ以上ないくらい心臓が早鐘を打ち、あと少しで止まってしまいそうだ。


「頭ではお前男だし、普通に考えて好きになるわけねーじゃんって今も思ってる。そんなこといままで一回もなかったし。でも、スバルが男だとか女だとか、好きだとか嫌いだとか、頭で考えるより先に行動しちゃう時があるんだよな、わかるだろ。昨日のもそう」
「……わかるよ。僕、本当に嬉しかったから」
「だから性別とか置いといて、人間として好きかもしんないって思った。……でも、いまはそこまでだ。だからどうするとかない。はっきり言うけど、両思いだとして、俺絶っっっ対お前で勃たねーし。期待させて傷つけるのも嫌だから、そこはやっぱ、正直に言っておきたい」
「じゅうぶんすぎるよぉ……」


怒涛のように押し寄せる幸せに耐えられなくて、両眼から涙がこぼれ落ち、頬を伝った。僕はひざを抱いて、しゃくり上げながら吐露する。
別に恋愛感情じゃなくてもいい。
別に僕で勃たなくてもいい。


「優也の、今だけの勘違いでもいいんだ……。一瞬でも、僕のこと好きかもって思ってくれただけで」


心からそう思った。優也が気持ちを言葉にしてくれたことが、世界中のどんなことよりも嬉しい。

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