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君とアフターを

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結局、居酒屋には2時間ほど滞在した。ほんとうは二度と家に帰りたくないくらい優也といる時間は楽しかったのだけど、いつのまにか太陽がのぼって外は完全に朝になってしまったため、渋々帰ることにした。
道をゆっくりと歩きながら、優也が呟く。


「あー、なんか、ほろ酔い」
「そう? 優也ってあんまり顔に出ないよね?」
「そうかな。スバルもじゃないか?」
「僕は、いまはちょっと赤くなってるかも。仕事中は気張ってるからほとんどならないけど」
「たしかに、そう言われてみればほんの少し血色がいいような気もするな」


朝の道を歩きながら、優也が僕の顔をまじまじと見つめてくる。なんの気もないのはわかっているのに、ついどぎまぎした。心臓に悪いからやめてくれ、と思う一方で、嬉しくもある。あと少しで別れないといけないのが本当につらい。もうすぐ大通りに出るので、タクシーはすぐにつかまってしまうだろう。


ほんとに帰りたくないなあ、と心の底から思ったら、つい口から出ていた。


「ほんとに帰りたくないなあ」


そんな僕の呟きを優也はてっきり受け流すものと思ったのに、さらりと意外な提案をしてくる。


「じゃあコーヒー買って一服でもするか?」


ほんとうに何気ない調子で切り出すので、今度は僕がその顔をガン見してしまった。


「え、いいの?」
「帰りたくないんだろ? 別に俺もまだ眠くないし。ちょっとくらいなら」
「ほんと? 嬉しい! やったー!」
「いちいち大袈裟な」


苦笑いしているが、優也もきっとまんざらでもないはずだ。でなきゃこんな提案をするはずがない。


コンビニに寄ってコーヒーを買い、歓楽街の真ん中にある小さな公園のベンチに座った。ふと思い出したことがあって、そういえば、と僕は切り出した。


「優也は愛衣ちゃんと幼馴染なのに、好きだったこととか一度もないの?」


これはあくまで夕陽くんのための質問であり、僕の好奇心および嫉妬心による質問では断じてない。念のため。


「あるわけがねーだろ」
「ふーん、でも、あんなに綺麗なのに」
「お前は実の姉ちゃんと恋愛できるのか? そのくらいあり得ないね、俺にとっては」


僕は実の姉であるアカネのことを思い出す。


「うえ。できるわけない。いくら美人でも」
「だろ? 向こうも同じこと言うぞ、絶対」
「そっかあ。じゃあ、愛衣ちゃんって夕陽くんのことどう思ってるのかな?」


いくらなんでも単刀直入に聞きすぎたな、と思ったが、まあいいか別に、と開き直った。僕は口がかたいほうでもないし、秘密にしてくれとも言われてないし。夕陽くんはどうやら奥手すぎるので、こうして本人以外のところからバレるくらいがちょうどいいかもしれない。


「さあ? そういう話しないからなあ。なんで?」
「夕陽くんが好きなんだってさ」
「は、まじ!?」
「うん。まじ」
「趣味を疑うよ夕陽くん……」


優也が遠い目をして、僕は笑った。さわやかないい朝だ。この世の中に存在するすべての人の恋愛感情が、ひとつ残らず報われる日が来たらいいのになんて、つい壮大なことを考えてしまった。

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