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君を強引に
しおりを挟む「あ、はい。時々」
頰を掻きながら視線を微妙に逸らしてしまった。あれ以来、連絡を無視されているのだ。動物園行きはまだ確定したわけではない。むしろ返事が来ないということは、事実上断られているに等しいではないか。
「最近あたしより仲いいよね? なんかよかったなー、あの日あいつをここに連れてきて。彼女もいないし、スバルくんと友達になれて楽しいんじゃないかな、優也も」
“友達”。
本来ならうれしいはずの言葉が、なぜか心の中に重く沈み込む。
「優也さんってあの、愛衣さんが時々連れてきてるかっこいい男の人ですよね?」
ヒカルくんも目撃したことがあったらしく、自然と話に入ってきた。そういえば前回優也が来たときに近くの席に彼もいたなあと、記憶の糸をたどる。
「えーあたしは長く一緒にいすぎて、かっこいいとか全然思わないけど。でも無駄に背高いし、スタイルはいいよね」
「俺ちらっとしか見てないけど、顔もかっこよかった気がしますけど」
「そお? 整ってるけど薄くない?」
「最近はそういう男性のほうがモテるという説もありますよ。SNSで見ました」
真偽が定かではない話を持ち出すヒカルくんに、僕は歯軋りをしたくなった。彼は絶対ノーマルだからライバルではないとわかっている。……わかってはいるのに。大人気ない。
そのとき、微笑みながら話を聞いていたルミちゃんが、可愛らしい声を上げた。
「ええ、哀子ちゃん、そんなにかっこいいお友達がいるの?」
「ルミちゃん前に一回会ってるよ。店に来てくれた幼なじみのあいつよ。よかったら紹介しようか? 彼氏しばらくいないって言ってなかった? かっこいいかはさておいて、いいヤツだよ、優也」
はあ!?!?!?
絶対口から出てしまっていると確信したその叫びが実際には心の中だけに留められていて、自分が現実ではまったく涼しい顔をしていると自覚したとき、僕はなんてホストの鑑と呼ぶにふさわしい男なんだろうと激しく自画自賛した。
それにしても。
くそ、ライバルがこんなところにも……。
「あの、僕」
せっかくプロ意識で動揺を押さえ込んだのに、やっぱり感情を100%コントロールすることはできなかった。嫉妬や劣等感、”優也をこのカワイイ女の子にとられてしまうんじゃないか?”という焦りなどから、僕は謎のマウントをとりにいってしまう。気がついたら、真っ直ぐに手を上げて宣言していた。
「僕、日曜日、優也と動物園に行ってくるんで。」
◆
あのときはあんなことを言ってしまったが、いまだ優也からは返事が来ない。あの嘘が現実になることはなさそうだ。
寝ていたら、着信音で起こされた。うるさいなと思い止めようとしたとき、画面に優也の名前を見つけて飛び起き、すぐに通話ボタンを押す。
「優也? どしたの……?」
『別に? ちょっとお前の声が聞きたくなってさ。そんなことより』
一瞬、聞き間違いかと思った。聞き間違いに決まってると思った。でも、確かにそう聞こえた。
「へ………ちょっ、あの、何言ってるの? ……えっと、これ、夢かな……?」
言いながら、実感する。優也は僕の声が聞きたくなったと、今、そう言った。……うれしい。寝ぼけていた頭が、一瞬にして覚醒していく。
「でも! ……あの、僕も、同じ気持ちだったからっ」
男同士で友達同士でも、声が聞きたくなることはあるのだろうか。僕は優也を友達だと思ったことがないから、その気持ちはわからない。
万が一、いや、億が一にもあり得ないけど、優也もほんの1ミリくらいは僕に、好意を持ってくれていたりするだろうか。一緒に動物園に行ってもいいと、思ってくれたりするだろうか。
電話の向こうで優也が、照れたような、動揺したような声を出す。
『わ、わかったよっ、じゃあなっ』
そう言って通話を切られたスマホを、いつまでも置くことができない。胸の高鳴りが、静まらなくて。
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