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君と不機嫌に

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その日の僕は同伴の約束があったので、18時にはヘアメイクを済ませ、19時半をまわる頃にはもう歓楽街で女の子とお酒を飲んでいた。


僕の隣にいるのは沙彩ちゃんといって、低身長ロリのぶりっこな女の子である。優也とデビルジャムで初めて会った日にその隣の角席に座っていた、内勤の悠人くんが僕が見惚れているのは彼女だと勘違いした、例のあの子だ。あの後も何度か店に訪れてくれて、実は僕と同い年ということがきっかけになり、紆余曲折を経て指名されるに至ってしまったのだ。


「スバルくん、そろそろ21時になるし、これ飲み終わったらデビルジャムに行こっか?」
「あ、そうだね。ごめんね、楽しくてぜんぜん時計見てなかったよ。確認してくれてありがとう」


そう言って微笑むと、沙彩ちゃんも顔をふにゃりととろけさせて嬉しそうに笑った。


「ううん。人気者のスバルくんと同伴できて嬉しいもん!」
「僕も沙彩ちゃんと早い時間から会えて嬉しいなあ」


キャラが被っているため、沙彩ちゃんのぶりっこは残念ながら僕には通用しない。でも、健気な子だなとは思うし、そんな気持ちもわかるので、同志にも似たある種の連帯感のようなものを持ってしまう。悪い子ではないのだ。


そのとき、マナーモードにしている僕のスマホが通知でぴかぴかと光っているのを沙彩ちゃんが見つけた。


「あれ? もしかして電話じゃない?」
「え? あ、ほんとだ。でもいいよ、今は」
「よくないよ! 大切な用だったらどうするの? とりあえず出てきて! 待ってるから」


促されるまま、僕は困惑して店の外に出た。沙彩ちゃんと話しているうちも、電話は何度か切れて、またかかってきていた。店か、それともお客さんの女の子だろうか? こんな時間に電話をしてくる人は、他には……


考えながら画面を確認すると、そこには信じられない名前が表示されていた。慌てて電話に出る。


「優也!? どうしたの」
『うるせ。腹減ったからラーメン喰いにいくぞ』
「へ?」
『お前いま何してんの? 仕事? なんでもいいけど、来るまで待ってるから、ぜってー来い』
「ちょっと待」
『南口で待ってるからな』


ブチッ。


一方的に話して切られてしまったが、高揚感というのか、嬉しくて嬉しくて頭がどうにかなりそうだった。でも、行けるわけない、とも思っていた。仕事があるし、何より僕にはお客さんがいるのだ。


席に戻ると、沙彩ちゃんが心配そうにこっちを見上げていた。


「なにかあったの?」
「いや、ぜんぜん大丈夫。心配しないで。デビルジャムに行こう」
「うそだよ。声が上ずってるし、いつものスバルくんじゃないよ?」
「……そんなこと」
「ねえ、なにかあったなら、私のことはいいから行ってきて。お店に電話して休むってちゃんと伝えて。当日欠勤、罰金あるなら私が払ってあげるから」


彼女の言葉に胸が痛んだ。僕は今までインフルエンザ以外で仕事を休んだことがない。でも今日は、大人失格だとわかっているけれど、仕事なんてしていられない、と思ってしまった。


「……本当にごめん、沙彩ちゃん。お金預けるから、店に持っていってもらってもいいかな? 電話は僕からしておく」


気づけばそう言って頭を下げていた。ホストとして最悪な行動だと自覚してはいるが、プロ意識に従って店に行ってしまったら一生後悔すると思った。


「ううん、いいよ。もし理由を話したくないなら、体調悪そうだったから帰したって、私、言おうか?」
「そんなに全部頼んじゃっていいのかな」
「いいよ。いつもスバルくんに幸せにしてもらってるから、私もスバルくんの助けになりたいの」


彼女はとてもいい子だ。優也と出会っていなかったら、タイプじゃなくても、キャラが被っていても、少しくらいは心惹かれてしまっていたかもしれない。


僕は財布から一万円札を五枚取り出すと彼女に渡し、もう一度お礼を言ってから店を出た。タクシーに飛び乗る。


別に今日行ったからといって、優也との関係が発展するわけじゃない。でも、好きな人が僕を待ってくれているというこの状況では、なにもかもかなぐり捨ててでも、駆けつけないわけにはいかなかった。

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