【BL】ゲイ向け風俗店で働くNo. 1の俺が、不覚にも客のイケメンに恋してしまった話。

ゲイ向け風俗店の日常。

「シュウさんって本当に綺麗な顔してますよね」


次の予約で使う、オプションのおもちゃを持ってきてくれたスタッフの秋穂ちゃんが、しみじみとした声を出す。髪のセットを直していた俺は、鏡越しにこちらを見つめる彼女と目が合って、思わず笑ってしまった。


「そうかな？　スタッフの中でもかなり可愛い秋穂ちゃんに言われると照れるんだけど」
「な……！　こっちが照れますよ。あの、ずっと気になってたんですけど、シュウさんって本物のゲイなんですか？」


秋穂ちゃんの言わんとすることはわかる。ゲイ向けヘルスだと言っても、働いているキャストが全員ゲイとは限らないからだ。


男も女もいけるいわゆるバイもいるし、男に身体を売ることに抵抗のないノンケだって中にはいるだろう。俺がどの部類に該当するのか、秋穂ちゃんは気になるらしい。


「たぶんゲイで間違いないね。学生の頃、遊びで女と寝たこともあったけど、萎えて最後までできなかったし。今思うと、あれは恋愛としての好意じゃなかった気がする」


「え、でも……そのとき勃ったんですか？」


客と俺の精液が付着したシーツを回収するために畳みながら、秋穂ちゃんはぎょっとした表情を浮かべた。


男女の大人が真顔でこんな会話をするなんて一般的には信じられないかもしれないが、この店ではスタッフとキャストの恋愛等の問題をできる限り防ぐためにあえて女性スタッフだけを採用しているため、こういうあけすけな会話も日常茶飯事だ。今さら恥ずかしいという感情はない。


俺は、使用していたヘアワックスのふたをぱちんと閉めた。


「それが勃たなくてさ。どうしようって焦ってるうちになぜか、いつも窓から眺めてた、二個上の先輩の走ってる姿を思い出して」
「走ってる……」
「そう。陸上部の先輩だったの。めちゃめちゃかっこよくてさ、長距離走ったあと、汗だくの顔をこう、Tシャツのすそで拭うんだよ。そんときな、腹筋がチラッと見えるわけ」
「はあ」
「そのときの真剣な表情と、汗の滲んだ身体を思い出したら……いつのまにかめちゃくちゃ勃ってたんだよ」


思い出すと今でも下半身がむずむずしてくる。あの先輩の姿がまだ純粋だった頃の俺の性癖に刻み込まれてしまったせいで、細身で筋肉質、そしてしっとりと汗ばんでいるイケメンには未だにめっぽう弱い。


「なんだぁ。じゃあやっぱり、女性に性的に興奮した訳じゃなかったんですね」
「そうなるね。だから俺は、ゲイだよ」


男同士で寝る行為に生産性はまるでない。でも俺は、無意味な時間をただ無造作に積み重ねていくことが嫌いじゃないのだ。幸い容姿にも恵まれているので、ゲイであることに引け目を感じることは、これまでもこの先もないと思う。