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7.憂鬱
しおりを挟むあれから二十日ほど経つ。
クロエは一度も部屋に現れず、ユダは夜な夜な訪ねてくる女をためらいもせず帰してばかりいた。
どうしてかは自分でもわからない。ただ気がつくとクロエのことを考えていて、そうするとそういう気持ちはすっかり息を潜める。ある意味では不健全な毎日を、また、送っていた。
はじめて結ばれた日は、1ヶ月ぶりだったこともあってかやはり一度ではおさまらず、あのあと二回もしてしまった。無理をさせない方がいいか、と一瞬頭をよぎったものの、己の欲望には抗えず、結局彼女を思い通りに扱った。
とはいえクロエは二回目にはすっかり快楽の虜となり、寝室のシーツをぐっしょりと濡らしてしまって困らせたくらいだったので、心配は杞憂だったかもしれない。ユダはファーストキスも、女性の身体をあんなに優しく抱きしめたのも、愛撫をしたのもされたのも、すべて初めてだった。
ふたりの身体の相性はたしかに良かったが、他の女を抱けなくなるほどかと言われたらそうではないような気がする。けれどクロエ以外の女を抱く気には、なんとなくなれないのだった。どうしてかはやっぱりわからない。
三度目に果てたあと、しばらく身じろぎもせず抱き合って呼吸を整えてから、クロエは帰り支度をしはじめた。夜伽は王族の部屋に泊まることを許されていない。どんなに朝方近くになろうとも、必ず眠らずに帰らなくてはならないのだ。
「ユダ様、私……またこうしてお会いできる日のためだけに、毎日つらくても、頑張って生きます」
夜伽の女は基本は昼まで休んで、午後からは王族とは顔を合わせない場所での召使いとして、繕い物をしたり掃除をしたりと雑用を任されこき使われている。体力も要るし決して楽な仕事ではないのだ。
そんな日常の中の希望の光が、淫奔に抱かれるこんな夜のひとときだと嬉しそうに話す。なんて奇妙な娘なんだ、とユダは驚きつつもしみじみと思った。
「クロエ、ひとつ聞いてもいいか?」
口にしたあと、夜伽の女に質問をすることなど初めてだと気がついて、これもまた奇妙だと思う。
「はい、なんなりと」
クロエが恥ずかしそうな顔のままこちらを見て、目をぱちくりさせる。ついさっきまであんなに乱れていたために、まともに顔を合わせるのが恥ずかしいらしい。いじらしく感じる。
「俺にもお前の好きな色を教えてくれ」
その質問を受け取ったあと、じっくりと噛んで含めるような間を置いて、やわらかく微笑みながらクロエは答えた。
「私は昔からずっと、黄色が好きです。幸せの色だから」
覚えておこう、とユダが小さく返し、あの夜、ふたりは別れた。
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