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ホストで……らしい。1
しおりを挟む以下は、スバルに「付き合おう」と持ちかけた日に、俺があいつの家に向かう道すがら、考えていたことの復習である。
『あいつはどこからどうみても男だ。綺麗な顔をしていても、華奢な身体をしていても、女々しくても、完全な男だ。だから絶対に勃たない。ちょっとエロいことしたいとかもたぶん一生思えない。じゃあ俺の、スバルに対する好きってなんなんだろう?でも、そもそも女の子を好きになるときだって、エロいことしたいから付き合いたいとか、それだけじゃ絶対にないはずだし。』
……そう、俺はあの日、自分がタクシーの中で考えていたことをしっかりと覚えている。そして、その考えに確固たる自信があった。
俺はあいつとエロいことをしたいと思わない。
それでもあいつに会ったら、なぜかわからないけれど好きだという気持ちが込み上げてきた。
俺はそういうことをしなくてもスバルのことを愛せると思ったから、告白したはずだった。
まさかそれが覆る日が来るなんて、夢にも思っていなかったのだ。
俺、スバルで勃ってしまったんだよな……。
◆
「それにしても、相川さんとスバルくんが知り合いだったとは、ほんと驚きました」
月島さんが急にスバルの名前など引っ張り出すものだから、俺は飲んでいたコーヒーをパソコンの画面に吹き出しそうになってしまった。
「……ああ、この前の」
「世間って狭いですよねえ」
俺とスバルの関係を知るよしもない月島さんは、原稿をまとめながら悪気なく微笑んでいる。
「スバルって高校時代、どんなやつだったんですか」
無意識にそんな質問が口をついて出ていた。聞いたからどうというわけでもないのだが、やっぱり少なからず、俺が出会う前のスバルのことを知っている月島さんに、嫉妬や羨望の気持ちがあったのかもしれない。
「うーん、そんなに変わってないですよ。本当、髪の毛が派手になって雰囲気が華やかになったくらいで。当時から、人目を引いてましたし」
「まあ、凄まじい外見してますもんね。あいつ」
「女子からはすごく人気ありましたね」
そう言って笑う月島さんはあまりに自然で、スバルが自分に好意を抱いていたことになど微塵も気がついていないのだろう、と思った。
「あいつ、昔いじめられてたって言ってました。……そんなとき、月島さんが仲良くしてくれて嬉しかったって。すげー感謝してるみたいです」
こんなことを言うべきじゃなかったかもしれない。でも、当て付けで口にしたわけではない。スバルが月島さんに伝えることができないであろう感謝を、俺が代わりに伝えなければいけない、という気持ちに、なぜかなっていた。余計なお世話に違いないのだけれど。
俺の言葉に、月島さんは目を見開いた。
「……そうなんですか。スバルくんがそんなことを」
その表情はなんとも言えず、俺はなんだか泣きたくなる。繰り返すが嫉妬ではない。月島さんはきっと、自分へ向けられたスバルの好意にぼんやり気づいていたのだろう、と思い直したからだ。
高校時代のスバルの孤独が、それで少しは報われたような気持ちになって、第三者であるはずの俺は、なぜかひどく感動していた。
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