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〈番外編〉ホストなのになぜかお客さんに恋をしてしまい困ってます3

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愛衣さんに出会った日のことは今でもよく覚えている。


あれは僕がまだホストになって間もない、仕事に慣れていない上にろくにお客さんもついていないような時期だった。当時も今と同じくキャバクラで働いていた愛衣さんは、ある日の深夜二時過ぎに店の女の子と二人でデビルジャムにやって来た。どちらも初来店で、酔ったノリで適当に入ってみたらしい。僕は先輩の後ろについて、おどおどしながら彼女たちのことを出迎えた。


愛衣さんはというと、仕事が終わって私服に着替えてはいたものの、一眼でキャバ嬢だとわかる見た目をしていた。派手な女性はあまり得意ではなかったのに、彼女を見て思わず、すごく綺麗な人だな、と驚いてしまったのを覚えている。歓楽街にはこんな人がいっぱいいるのかな、と、ぼんやり考えた。冷たさすら感じさせるその美しさは、近寄りがたいのに目が離せなくなるような、不思議な魅力を周囲に放つ。


「ねえ、名前なんていうの?」


愛衣さんの隣に座れてラッキーだ。僕は酔って赤らんだ横顔にどぎまぎしながら、しかしホストたるものこんなことで緊張していてはいけないと自分のことを奮い立たせ、なるべく何気なく見えるように努力して「夕陽です」と自己紹介をした。


「君、なんかホストっぽくないね。見た目はいいんだけど、雰囲気がさ」


バカにしたふうでもなく、あっけらかんと愛衣さんは笑った。デビルジャムに来るのは初めてだと言っていたが、おそらく他のホストクラブには行き慣れているのだろう、と思った。


「僕、まだ入ったばっかりなんです。だから板につかないっていうか……」
「そうなの?学生?」
「違いますけど」
「そっかあ。ホストなんてろくなもんじゃないからさ、辞められるうちに辞めた方がいいよ。それか、頑張って最高のホストになるか、二つに一つよ」
「え?」


よくよく見ると、来店の段階でまあまあ酔っていた彼女の目がいつの間にか据わっている。酔いがさらに進んでしまったらしい。その向こうで、連れの女の子は潰れてテーブルに突っ伏している。先輩が介抱しているのが見えた。


「……あの、大丈夫ですか?水飲みます?」

僕も恐る恐る愛衣さんに声をかけたら、一蹴された。


「大丈夫なわけないじゃん!」


そう小さく叫ぶと、突然泣き出してしまった。勘弁してくれ。理不尽だ。あまりにも情緒不安定が過ぎる。


わけもわからず僕はその背中をさすり、他のテーブルのホストや客からは白い目で見られた。事情を知らない人からしたら、僕が指名客を泣かせているように見えているのだろう。しゃくり上げる彼女は、気がついたら僕のジャケットの袖で涙を拭いている。ああ、なんてことだ。


違うんです、泣かせたのは僕じゃないんです。彼女とはさっき初めて会ったばかりで……。


心の中で弁解するものの、その言葉を皆に伝えることはできない。
一体なんなんだ、この人は。


見た目はいいくせに、まるで台風みたいな女性だ。うんざりしながら僕は思った。
この人は頭がおかしいに違いない。さっさと帰そう。どうせもう会うことなどないのだし。
泣くほど酔っているからには、今日ここに来た記憶だって残っているか怪しいものだ。
それだけを自分への慰めにして、嫌々面倒を見た。いかなる場合であっても、男は女の涙に弱いものなのかもしれない、と苦々しく思いながら。


しかし僕の予想は外れ、一週間と経たずに愛衣さんと再会することになる。
ホストになった僕を初めて指名したのが、彼女だった。

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