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好きな人の好きな人

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「リュウくん、手配は全部俺がするから、二泊三日くらいで旅行でもしてきたらどうかな?」


食器を洗っている最中に近づいてくるので一体なんの用かと思ったら、わけのわからない提案をされた。泡だらけのスポンジを握りしめたまま、俺は眉をひそめる。


「はあ? なんすか、それ」
「別に。365日休みなく恋人をさせてるから、たまには君にも休暇をあげようかなって思っただけだよ。ひとり旅もよし、昔の仲間を誘うもよし」


軽薄そうな笑顔の、その横っ面を思いっきり張り倒してやりたい。


過去の俺ならそんなこと、いとも容易くできたはずだ。でも今はできない。……惚れた弱み、というやつだろうか。


「いりませんよ、休暇なんて」


吐き捨てるように言って、勢いよく水を流した。排水溝に吸い込まれていく泡を見つめながら、むしゃくしゃした思いをなんとかおさめようとする。


たしかにこの関係は、黒瀬さんに言わせればただのお遊びに過ぎない。そんなこと分かっているけれど、恋人をさせているだの休暇だの、そういう打算じみたことをあえて口に出されるとなんだか腹が立ってくる。俺はなんのためにここにいるんだよ!と、大声で叫びたくなる。そんな権利なんかないし、俺はただ、彼の孤独を紛らわすための道具に過ぎないと頭では分かっているのに。


それにしても、この大人は本当に俺のことを馬鹿にしているな。そんな胡散臭い理由で騙されるとでも思っているのだろうか。







仕事で人と会ってくる、という黒瀬さんをさっさと見送ったあと、仕事部屋に忍び込んだ。罪悪感はまったくない。最低の人間のプライバシーを侵害したところで、俺の良心はまったく痛まないようにできている。


「それにしても、物が全然ないな」


思わず独り言まで呟いてしまうほど、探し甲斐のない部屋だった。物がほとんど入っていない引き出しをざっと確認した後で、デスクの上に置いてある卓上カレンダーにふと目が止まる。


二泊三日が具体的にいつなのか、黒瀬さんは言っていなかったが、二十日後のスケジュール欄に、0と書かれているのを見つけた。嫌な予感がする。これはきっと、数字の0。


……レイコだ。あの女が来るんだ。


なぜか確信した。疑いの余地はなかった。
こういうとき、どうして俺の勘はよく働いてしまうんだろう。なにも気づかずに、突然与えられた休暇を有り難がって楽しんで帰ってくれば良いものを。


黒瀬さんはレイコと会うために、俺を厄介払いしようとしているのだ。


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