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52話(完)
しおりを挟むその夜はカナタと抱き合って眠った。一緒にいるのにすれ違っていた期間も、会っていないけれどお互い求め合っていた日々も、すべてが溶け合って一つになるような、胸がしめつけられる感覚があった。
私は私自身の、本当の感情を手に入れたのだ。それが嬉しかった。
◆
「昨夜、待ち伏せしたときもそうだったけど……カナタとこうして外にいると、なんだか不思議な感じがするよね」
「なんで?」
「だって、ふたりで外を歩くことなんてほとんどなかったじゃない。いつも、あの部屋の中に一緒にいたもん」
カナタの家からほど近い川原に来ていた。わがままを言って、有給をとって会社は休んでもらった。私も学校とバイトを休んだ。大人としてどうかと思ったが、こんなことは一生のうち今日だけということで許してほしい。明日からはもっと頑張って生きることを約束するから。神様に、そう弁解したい気持ちだった。
「それは確かにそうだよなあ。俺も、美琴とこうして外を歩ける日が来るなんて思わなかった。美琴が誰かの目にうつるのすら嫌なのに、絶対に外に出してなんかやれるわけないって思ってたんだ」
自虐的にカナタが笑う。美琴は小さく首を振った。
「でもカナタは変わったよ。それに、過ぎてみればあの毎日も大切だったと思えるから、もういいの」
それは本心だった。出会い方や愛し方を間違えてしまっただけで、ふたりはまだこれからやり直すことができる。
「俺、美琴に聞きたいことがあったんだ」
「え?」
「俺が美琴のストーカーだった頃。街の外れにある公園で、何時間もしゃがみこんでいたことがあったよな」
「……ああ、カナタ、知ってたの」
驚いたけれど、今更怖いなどとは思わなかった。カナタからやりかねない。遠くを見つめたまま、美琴はそっと呟く。
「あそこはね、お姉ちゃんが自殺した場所なの」
「……そんな気はしてたんだ。ごめん、こんな話をして」
「大丈夫。……お姉ちゃんはね、あそこの木で首を吊ったの。私、お姉ちゃんが自殺するほど思い詰めていたのに、なんの助けにもなれなかったことがずっと悔しくて。悲しくて。それで、投げやりに毎日を生きてた」
あの日の自分を、カナタは見ていてくれたんだ。その事実を知った途端、なぜかほっとするような、安心するような、あたたかいものが心に満ちてくる。
「両親は、お姉ちゃんのことがすごく可愛かったの。私が可愛くないとかじゃないけど、娘が死んだショックで、もうひとりの娘のことは二の次になってしまった。仕方がないことだとわかっていたのに、私にはそれが受け止めきれなくて……」
カナタは俯いている。監禁されたばかりの頃、美琴のもとに親からまったく連絡が来なかったことを思い出しているのかもしれない。
「でも、前を向いて生きたいと思ったから。両親にもそうして欲しいから。私には私の幸せがあるって胸を張れるようになりたいの。いつか、この人が私の彼氏ですって、カナタのことを紹介したいよ」
気が早すぎるのはわかっていたけれど、つい言葉にしてしまった。照れながら隣を見ると、カナタが泣きそうな顔でこちらを見ている。
酷いことをされたし、自分もしてしまったし、そういう紆余曲折を経た先に、どうして私は彼を愛してしまったんだろう。
その答えはわからないが、好きになってしまったのだから仕方がない、と、今なら開き直れるような気がする。美琴は誰よりも一番近くで、カナタに寄り添っていたい。
求めてくれるから、でも、愛してくれるから、でもなくて、自分が彼を求めていて、愛しているから。
歪んでいた自分たちだけれど、これから少しずつ、真実の愛を模索していきたい。
終わり良ければすべて良しだよね!と、明るくて大好きなお姉ちゃんに、いまは笑って欲しい気持ちだった。
そして新しい毎日が始まる。
(完)
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