26 / 60
25話
しおりを挟む「みこ~、これ、プレゼントだよ」
「なになに?」
「高いものじゃないけど。定期入れなの、おそろい!」
そう言って右手を差し出し、姉は屈託なく笑った。妹の美琴が憧れるほど、可愛くて明るい理想の女の子。共に成長する中で、美琴はずっと姉の琴音のことが大好きだった。
「かわいい!ありがとう」
その定期入れには姉が好きなウサギのキャラクターが描かれている。自分なら絶対に選ばないようなファンシーなものだ。もう大人なのに、そういう趣味は子供の頃から変わらない。
よく似てる姉妹だねと誰からも言われたけれど、並べて見比べればすべてにおいて少しずつ美琴の方が劣った。まつげも姉の方が長く、目はこぼれ落ちてしまいそうなほど大きく潤んでいて、頰は桜色で、唇はいつもやわらかそう。
でも嫉妬なんて気持ちは微塵もなかったし、過去にも一度もしたことがない。美琴は姉が大好きで、いつも、いつまでも、幸せでいてほしい大切な家族だったから。
◇
「だるい? 大丈夫?」
「んん、いまは少しぼーっとするだけ」
「痛み止めが効いてきたかな」
「カナタ、ありがとう……」
「なにが?」
「あの……買ってくるの、恥ずかしかったでしょう?」
生理が来たのだった。
きのう予兆で子宮がしくしくと痛んだので、察した美琴はすぐにナプキンを買ってきてくれるように頼んだ。男性が一人で買いに行くのは恥ずかしいから嫌だろうなと申し訳なく思ったが、カナタは顔色一つ変えずに了承して即出かけてくれたし、帰ってきてからも、身体が冷えるといけないからと服を着させてくれ、痛み止めも飲ませてくれた。
「ぜんぜん恥ずかしくないよ。必要なものだろ。痛みが引いたみたいで俺も安心した」
「カナタは優しいね……」
「ダメだよ、気も効かないし。こういうとき、男って何してあげられるか分かんないんだもんな」
充分すぎるほど色々してもらっているのに、カナタは自嘲気味に笑った。
「俺からはなかなか動いてやれないから、困ったこととかしてほしいことがあったらすぐに言ってよ」
「……充分だよ。ありがとう」
なぜか涙が出そうになる。生理中は情緒不安定になってしまうのだ。カナタの優しさに心が揺さぶられる。
「やっぱり、ぎゅーってしてほしいかも……」
「そんなことでいいの?」
「カナタにとってはそんなこと、なの?」
涙で視界が滲んだ。普段ならなんてことない言葉なのに、こうやって言葉尻を捉えて悲観的になってしまうのも悪い癖だ。めんどくさい女になっているなあと内心では思うのに止められない。世の中の女の子の多くがそうであるように、自分もまた子宮に振り回されているのだ。
呆れられるかと思ったが、予想に反してカナタは迷いなく抱きしめてくれた。顔は見えないが、余裕たっぷりの様子で薄く笑ってすらいるのが声でわかる。
「んーん、ちがうよ。そんな当たり前のこと、って意味。俺と美琴がぎゅーってするのは当たり前のこと、だよね? いつもしてんだからさ」
「……うんっ」
ドキドキしてしまった。いかにもカップルみたいだ。
「素直でかわいい。うわーつらいな、こうやって甘えられるとかなりクるのに」
「わ、私も」
抗議したくなり、抱きしめられたままわずかに身を離して、精一杯のするどい眼光でカナタを睨みつける。
「私も我慢してるんだよ!」
「……えー、うそ、かわいいまじで」
美琴の眼光は貧弱すぎたらしい。睨んだつもりだったのに、上目遣いと評して軽くあしらわれてしまった。
「美琴、身体つらくなかったら、ちょっとだけエロいことしよっか」
問いかけにみせかけた強制に、心臓が異常なほど跳ねた。
11
お気に入りに追加
593
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる