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第二章 婚約破棄編
日常
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カチャ……リン
そぉーっと扉を開け、小さく鳴るベルに刺激を与えないよう、音もなく閉める。
ここの配置は頭にある為、軋みが少ない板の上を忍び足で進む。
たどり着いた扉の鍵穴に、スペアキーの複製を差し込み回す。
ようやく目的地に着き、ホッとため息を吐いた。
よしっ!と、冷凍庫を目指して一歩進んだその時、予想外の出来事が起こった。
パッ パッ パッ
と、明かりがついたのだ。厨房、ホール、カウンターと続けて明るくなったことに思わず声が出た。
「えっっ」
次いで、ガチャ…バタン!ダダダダッと、耳にしたくない音が上から聞こえて来た。
「あなたという人は何故、毎週のように来るのですか」
呆れたように言うのは、寝間着姿のカイト・セルヴォ。
「ところで、そちらの少女は?」
厨房の入口で丸くなる少女に目をやり、風魔法でふわふわと浮く水色の髪の彼女に聞いて見た。
「みーちゃんのこと?」
「師匠ー!私はミーナですよー!あっ、初めまして!あの、平民のミーナと言います!」
気の弱そうな少女が、自己紹介をしながら、ペしぺしと彼女を叩いている。
「カイトさぁ~ん、早いですよ~」
上着に腕を通しながら少年が駆けてくる。
「あ、おはよう。シュウ君」
「早いですね、アクロさん。新作を狙いに来たんですか?」
その言葉にアクロ・グランツは素早く反応した。
カイトの方はその言葉を聞き、スパァンとシュウ少年の頭を叩く。
「ねぇ!今、新作って言った?!言ったよね!どこ?どこにあるの?!」
鬼気迫る勢いのアクロをシュウ少年から引き剥がすカイトは、昔と変わらない彼女の姿に微笑んだ。
アルバ王国に向かって魔物の大量発生が起こった年から三百四十六年…アースが神界に戻ってから三百年が過ぎている。
カイトとアクロがエルフ族のように長く生きられているのは、アースから与えられた”不老”スキルがあるからに他ならない。カイトがアースに、「一生仕える」と言い、アクロは「アースが好き!」と告白した為に得たスキルなのだ。
四人がいるのは、自宅兼飲食店『食の棚』。平民にとっては安くて美味しい店、貴族にとってはスイーツ発祥地、王国にとっては憩いの場、アルバ王国民にとって、いつも変わらない場所として有名で知らない人はモグリと言われる程。
アルバ王国初代国王のアルシオン・フォン・アルバと、初代王妃のミューズ・トラスク・アルバ。更に、二代目国王アルト・フォン・アルバの署名入りでアルバ王国がある限り『食の棚』の営業と権利が保証されている。
二人の元国王だけでなく、王位を退く際に記念として送られてもいる。なので、署名入りの紙が束になってケースで保管されている程。
「さっ、アクロさんは放っておいて朝食にしましょう」
「ミーナも手伝えよな」
「えっ、わ、私も??」
「ミーナさん、食器棚から人数分のお皿を取って下さい」
「は、はい!」
今日も彼らは穏やかに過ごしていた。
そぉーっと扉を開け、小さく鳴るベルに刺激を与えないよう、音もなく閉める。
ここの配置は頭にある為、軋みが少ない板の上を忍び足で進む。
たどり着いた扉の鍵穴に、スペアキーの複製を差し込み回す。
ようやく目的地に着き、ホッとため息を吐いた。
よしっ!と、冷凍庫を目指して一歩進んだその時、予想外の出来事が起こった。
パッ パッ パッ
と、明かりがついたのだ。厨房、ホール、カウンターと続けて明るくなったことに思わず声が出た。
「えっっ」
次いで、ガチャ…バタン!ダダダダッと、耳にしたくない音が上から聞こえて来た。
「あなたという人は何故、毎週のように来るのですか」
呆れたように言うのは、寝間着姿のカイト・セルヴォ。
「ところで、そちらの少女は?」
厨房の入口で丸くなる少女に目をやり、風魔法でふわふわと浮く水色の髪の彼女に聞いて見た。
「みーちゃんのこと?」
「師匠ー!私はミーナですよー!あっ、初めまして!あの、平民のミーナと言います!」
気の弱そうな少女が、自己紹介をしながら、ペしぺしと彼女を叩いている。
「カイトさぁ~ん、早いですよ~」
上着に腕を通しながら少年が駆けてくる。
「あ、おはよう。シュウ君」
「早いですね、アクロさん。新作を狙いに来たんですか?」
その言葉にアクロ・グランツは素早く反応した。
カイトの方はその言葉を聞き、スパァンとシュウ少年の頭を叩く。
「ねぇ!今、新作って言った?!言ったよね!どこ?どこにあるの?!」
鬼気迫る勢いのアクロをシュウ少年から引き剥がすカイトは、昔と変わらない彼女の姿に微笑んだ。
アルバ王国に向かって魔物の大量発生が起こった年から三百四十六年…アースが神界に戻ってから三百年が過ぎている。
カイトとアクロがエルフ族のように長く生きられているのは、アースから与えられた”不老”スキルがあるからに他ならない。カイトがアースに、「一生仕える」と言い、アクロは「アースが好き!」と告白した為に得たスキルなのだ。
四人がいるのは、自宅兼飲食店『食の棚』。平民にとっては安くて美味しい店、貴族にとってはスイーツ発祥地、王国にとっては憩いの場、アルバ王国民にとって、いつも変わらない場所として有名で知らない人はモグリと言われる程。
アルバ王国初代国王のアルシオン・フォン・アルバと、初代王妃のミューズ・トラスク・アルバ。更に、二代目国王アルト・フォン・アルバの署名入りでアルバ王国がある限り『食の棚』の営業と権利が保証されている。
二人の元国王だけでなく、王位を退く際に記念として送られてもいる。なので、署名入りの紙が束になってケースで保管されている程。
「さっ、アクロさんは放っておいて朝食にしましょう」
「ミーナも手伝えよな」
「えっ、わ、私も??」
「ミーナさん、食器棚から人数分のお皿を取って下さい」
「は、はい!」
今日も彼らは穏やかに過ごしていた。
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