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第五章 両国と『神の島』
第五話 ユウトとアイリ
しおりを挟む厨房からやって来たのは、ユウトさんと、父上が十九だから早いと言っていたアイリという人だった。 その後ろからは、台車に載ったウエディングケーキが運ばれてくる。 後ろで母上が「やっぱり」と呟くのが聞こえた。
「今日は僕の結婚祝いに集まって下さり、ありがとうございます。 知らない方がいるので紹介させてもらいます。 先王陛下の娘で僕の妻になった、アイリです」
「アイリ・トルテ・ファジールから苗字を変えました、アイリ・サトウです」
先王陛下の子という事に驚いた。 父上から聞いた話では先王陛下は今年で七十二歳だから、五十三歳の頃ということになる。 王太后陛下の歳も近いだろう、そうなると高齢出産でよく育てたものだと言える。
配られたケーキはフレッシュケーキと言うらしく、生ケーキなのでこの場で食べるらしい。 パティスリーで食べるケーキより、美味しく感じられたのは気のせいか、と思った。 何故なら僕の中でケーキと言えばパティスリーだからだ。 だけどこの考え方は、パティスリーの職人の言葉で覆った。
「やっぱり、マスターのケーキの方が美味しいな」
「うちらも結構やっとるけど、まだまだ追いつけそうにないわ」
パティスリーの職人が唸るとはどういう事だろうと思い、父上に尋ねてみた。
「ケーキと言えばパティスリーですよね? 何故パティスリーの方々は、ユウトさんが運んで来たケーキを食べて唸ってるんですか?」
「なんだ、メテオールは本を読んでいたのに知らないのか? パティスリーのケーキの発祥地は、カフェシエルだぞ。 ケーキだけじゃない、公開されてるレシピの革命パンもハンバーグも全て、カフェシエル……ユウトさんが広めたんだ」
その後、祝いの言葉を伝えて解散となった。
◇
帰りの馬車内で、ずっと気になっていた事をメテオールは尋ねた。
「父上、何故色々な方からガリムと呼ばれていたんですか」
「話してなかったか……昔、カフェシエルで働いていた事があってな、身分がバレない様に偽名を使っていたんだ。 その時の名前が、ガリムだ。 キオラールはシャーノアだったな」
「そのキオラールさんって平民ですよね? カフェシエルで働いていたから仲が良いんですか?」
「キオラールは元々、王族だ。 先王陛下の三人目の子供だったが、平民の女性と結婚して王族から離れたんだ」
なるほど、と頷くメテオールを横目に見ながら、今度は祖父が尋ねた。
「テオシウス陛下と話していた、稲刈りとはなんだ?」
それも聞きたかったと、言わんばかりのメテオールの表情に苦笑しながら、ガリュー厶は話始めた。
十二年前に、ユウトさんがもち米を量産すると言った事から始まったらしく、手伝いに行くと遠くまで続く米の壁と一心不乱に鎌を振るう先王陛下達の姿を見て、「これから自分達もやるのか」と思ったのはいい思い出だと話していた。
テオシウス陛下と最後に会ったのはそれから二年後で、予想以上の消費に慌てて作ったもち米の稲を刈っていると、休暇にやって来たらしい。 父上がキオラールさんから後で聞いた話によると、陛下が来るタイミングに合わせて同じ苦労を味合わせてやろうと、ユウトさんと計画したと言っていたそうだ。
その話を聞いて、祖父と母上は笑っていた。
「カフェシエルで過ごした時間は良い思い出だし、良い友を見つけるきっかけにもなった」と、呟く父上は少し寂しそうだった。
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