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17.トッド
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「そうだな、まずは街を見に行こう」
道幅も馬車が四台くらい通れるくらい広いし、荷物を運んでいる獣人も多い。
やはり、ここは倉庫街で間違いなさそうだ。
「ロクロの住んでた街と、この街は結構違う?」
前を歩くロゼッタがこちらに振り返って聞いてくる。
「そうだな、この街というかこの世界の方が生きやすいと思うよ」
「生きやすいってどういうこと?」
首を傾げるロゼッタ。
「息苦しさがないというか、奴隷は別として、みんなが生き生きとしてる気がするんだ」
「そうですか?男の人はなんだかワイルドさがないですよ」
「我が国は女尊男卑ですから」
「俺の元居た国の方が文明が進んでいて、食べ物には困らないし水だって使い放題なんだっていわれているんだけど、当たり前の話し、それだけで人間が幸せになれる訳はないよね」
「実体験ですか?」
「そうだよ」
「で、文明が進んでいるということは、周りの人が知っていることは自分も知っていなきゃいけないし、周りの人が持っているものは自分も持っていなきゃ無意識でも劣等感が生まれる。
そうなると、知識も物も持っている人、特に金持ちはそういう気持ちを経験することなく生きていける一方で、知らないだけで、持っていないだけで卑屈になる人がいるし、それを笑って蔑む人も生まれる。そんな世界が元居た世界だよ。皮肉なものだね」
「そんなこともあるんですね。ロクロは辛かったのではないんですか」
ロゼッタが心配顔でそんなことを聞いてくる。
「どうなんだろうね。俺は俺以外の何者にもなれなかったし、受け入れるしかなかったよ」
「話しの途中で悪いが、商業区についたぞ」
先頭のエルザの声で武器屋や防具屋、道具屋が並ぶ商店街に来ていたことに気づいた。
「ロゼッタはなにを見たいんだ?」
「街も人もすべてです。私に王族としての使命はありませんが、それでもこの国を治める一族に違いはないのです。いつか、この国の未来を決める日が来るかもしれません。その時になにも知らないのでは、いい笑いものです」
「ロクロは、姫のためにいろんな景色を見せてくれているのだな」
商店街に連れてきただけなのに、エルザは反応が過剰だ。
「いやー、そこまで考えてないよ」
そんなことを話しているうちに道具屋へやってきた。
「お綺麗ですね、お嬢さん。オレと一緒にお茶しませんか?」
冒険者風の茶髪の若い男がロゼッタにナンパしてきた。
「ねぇねぇオレ、イケてるっしょ!アイアン装備だぜ?最近新調したんだよ。オレはFランク冒険者のトッドだ」
聞いてもいないのに、ペラペラと口説き文句をいうトッド。
「おい貴様、姫に気安く話しかけるなよ」
フルフェイスのエルザが、トッドの肩を掴む。
「なんだよ、妙な恰好しやがって。お嬢さん、お名前は?」
「ロクロ、姫、行きましょう」
しつこく食い下がるトッドを無視して、エルザに引っ張られるように道具屋から出た。
「待ってくれよー」
「エルザ、あの人はなぜ付いてくるのですか」
店の外まで追いかけてくるトッド。
「ロクロ、電撃で気絶させろ」
エルザが物騒なことをいう。
「この世界ではそういうもんなのか?」
念のためにエルザに確認する。
「ああ、問題ない」
追いかけてくるトッドと向かい合う。
「俺の連れにちょっかいを掛けるのは、やめてくれないか」
「あぁん?いい女連れてるからって、調子に乗ってんじゃねえよ!」
今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。
仕方なく俺はトッドに触れる。
「なんだよ、オレは男になんか興味な、いぞ……」
トッドは体を痙攣させて倒れた。通行人はそれを気にする素振りも見せない。この世界では、こんなことも日常茶飯事なんだな。
トッドをその辺の壁に、もたれ掛けさせて街を歩く。
「正直いって、いい気分じゃないな」
俺はトッドに魔法を使って気絶させたけど、話し合いで済むならそれに越したことはない。
「しつこい奴には相応の仕打ちだ」
「エルザの持論か、この世界の常識か知らないけど、俺は好きじゃないよ」
「ロクロは私を守ってくれたのですから、誇ってください」
空気が悪くなるのを察したロゼッタが、場を収めようとする。
「まあ、今回はあの男が悪かった。それでいいよ」
「わかってくれればいいのだ」
「二人とも、防具屋さんに行きましょう!」
ロゼッタが明るい声で手を牽く。
「らっしゃい!」
店内は、防具屋という割には服も置いてある。
「エルザには、これが似合いそうです」
色鮮やかな花柄のワンピースをエルザの体にあてるロゼッタ。
「私に、こんな女らしいものは似合いません」
照れた声が、フルフェイスの奥から聞こえてくる。
俺は冒険者の一般的な装備を勉強するついでに服も見てみる。鎧立てやハンガーには、革の鎧や肘当て、なぜか学ランが掛かってある。
王城に居た兵士たちは白い鎧を身につけていたけど、冒険者は革やアイアン装備が多いみたいだ。
「すみません。ちょっといいですか」
俺は店のおばさんに尋ねる。
「なんだい?服でも買うかい」
「いえ、この服のレース生地を売って欲しいんですが」
俺は、バラの刺繍が入った黒いレースのついた服をおばさんに渡す。
「レース部分だけかい?あったかな……」
おばさんは店の奥に入って行った。
「ロクロは女物の服に興味があるのですか」
ロゼッタが引き気味に聞いてくる。
道幅も馬車が四台くらい通れるくらい広いし、荷物を運んでいる獣人も多い。
やはり、ここは倉庫街で間違いなさそうだ。
「ロクロの住んでた街と、この街は結構違う?」
前を歩くロゼッタがこちらに振り返って聞いてくる。
「そうだな、この街というかこの世界の方が生きやすいと思うよ」
「生きやすいってどういうこと?」
首を傾げるロゼッタ。
「息苦しさがないというか、奴隷は別として、みんなが生き生きとしてる気がするんだ」
「そうですか?男の人はなんだかワイルドさがないですよ」
「我が国は女尊男卑ですから」
「俺の元居た国の方が文明が進んでいて、食べ物には困らないし水だって使い放題なんだっていわれているんだけど、当たり前の話し、それだけで人間が幸せになれる訳はないよね」
「実体験ですか?」
「そうだよ」
「で、文明が進んでいるということは、周りの人が知っていることは自分も知っていなきゃいけないし、周りの人が持っているものは自分も持っていなきゃ無意識でも劣等感が生まれる。
そうなると、知識も物も持っている人、特に金持ちはそういう気持ちを経験することなく生きていける一方で、知らないだけで、持っていないだけで卑屈になる人がいるし、それを笑って蔑む人も生まれる。そんな世界が元居た世界だよ。皮肉なものだね」
「そんなこともあるんですね。ロクロは辛かったのではないんですか」
ロゼッタが心配顔でそんなことを聞いてくる。
「どうなんだろうね。俺は俺以外の何者にもなれなかったし、受け入れるしかなかったよ」
「話しの途中で悪いが、商業区についたぞ」
先頭のエルザの声で武器屋や防具屋、道具屋が並ぶ商店街に来ていたことに気づいた。
「ロゼッタはなにを見たいんだ?」
「街も人もすべてです。私に王族としての使命はありませんが、それでもこの国を治める一族に違いはないのです。いつか、この国の未来を決める日が来るかもしれません。その時になにも知らないのでは、いい笑いものです」
「ロクロは、姫のためにいろんな景色を見せてくれているのだな」
商店街に連れてきただけなのに、エルザは反応が過剰だ。
「いやー、そこまで考えてないよ」
そんなことを話しているうちに道具屋へやってきた。
「お綺麗ですね、お嬢さん。オレと一緒にお茶しませんか?」
冒険者風の茶髪の若い男がロゼッタにナンパしてきた。
「ねぇねぇオレ、イケてるっしょ!アイアン装備だぜ?最近新調したんだよ。オレはFランク冒険者のトッドだ」
聞いてもいないのに、ペラペラと口説き文句をいうトッド。
「おい貴様、姫に気安く話しかけるなよ」
フルフェイスのエルザが、トッドの肩を掴む。
「なんだよ、妙な恰好しやがって。お嬢さん、お名前は?」
「ロクロ、姫、行きましょう」
しつこく食い下がるトッドを無視して、エルザに引っ張られるように道具屋から出た。
「待ってくれよー」
「エルザ、あの人はなぜ付いてくるのですか」
店の外まで追いかけてくるトッド。
「ロクロ、電撃で気絶させろ」
エルザが物騒なことをいう。
「この世界ではそういうもんなのか?」
念のためにエルザに確認する。
「ああ、問題ない」
追いかけてくるトッドと向かい合う。
「俺の連れにちょっかいを掛けるのは、やめてくれないか」
「あぁん?いい女連れてるからって、調子に乗ってんじゃねえよ!」
今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。
仕方なく俺はトッドに触れる。
「なんだよ、オレは男になんか興味な、いぞ……」
トッドは体を痙攣させて倒れた。通行人はそれを気にする素振りも見せない。この世界では、こんなことも日常茶飯事なんだな。
トッドをその辺の壁に、もたれ掛けさせて街を歩く。
「正直いって、いい気分じゃないな」
俺はトッドに魔法を使って気絶させたけど、話し合いで済むならそれに越したことはない。
「しつこい奴には相応の仕打ちだ」
「エルザの持論か、この世界の常識か知らないけど、俺は好きじゃないよ」
「ロクロは私を守ってくれたのですから、誇ってください」
空気が悪くなるのを察したロゼッタが、場を収めようとする。
「まあ、今回はあの男が悪かった。それでいいよ」
「わかってくれればいいのだ」
「二人とも、防具屋さんに行きましょう!」
ロゼッタが明るい声で手を牽く。
「らっしゃい!」
店内は、防具屋という割には服も置いてある。
「エルザには、これが似合いそうです」
色鮮やかな花柄のワンピースをエルザの体にあてるロゼッタ。
「私に、こんな女らしいものは似合いません」
照れた声が、フルフェイスの奥から聞こえてくる。
俺は冒険者の一般的な装備を勉強するついでに服も見てみる。鎧立てやハンガーには、革の鎧や肘当て、なぜか学ランが掛かってある。
王城に居た兵士たちは白い鎧を身につけていたけど、冒険者は革やアイアン装備が多いみたいだ。
「すみません。ちょっといいですか」
俺は店のおばさんに尋ねる。
「なんだい?服でも買うかい」
「いえ、この服のレース生地を売って欲しいんですが」
俺は、バラの刺繍が入った黒いレースのついた服をおばさんに渡す。
「レース部分だけかい?あったかな……」
おばさんは店の奥に入って行った。
「ロクロは女物の服に興味があるのですか」
ロゼッタが引き気味に聞いてくる。
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