いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

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最終話「静かな帰郷」①

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    八月も終わり、九月も半ばを過ぎたある日の夕方、また、俺はこの町に戻ってきた。
    大学の近くで一人暮らしを始めていたが、何か動きがあれば教えてほしいと父に頼んでいた。その父から今朝、電話があったのだ。それはたった一言だけの、短いものだった。

「千鶴さん...戻ってるみたいだ...」

    電話の向こうでそう伝える父の声は、心なしか沈んでいた。俺は俺で、父の様子と、志保ではなく『千鶴さんが戻った』と伝えられたことで、それが何を意味するかを察した。

    とにかくまずは会って話を聞きたい。すぐに新幹線に乗って故郷を目指した。電車の旅を終えて、あのバスに乗る。傷だらけのそのバスに、今の心境を重ねた。
    早く着いてくれとも思ったし、いっそこのまま着かないでくれとも、いつかのように願う。そんな思いをよそに、バスは予定時刻通りに停留所へと俺を届けた。


《ギギー》

    鈍い音とともにバスの扉が開き、俺はそっとバスを降りた。たった数ヶ月の間に、見慣れたはずの停留所が随分と懐かしく見えた。

    いつか見た志保の姿を、そこに思い浮かべる。一度深呼吸してから、すぐそばにある駄菓子屋へと足を進めた。

    父の言った通り、店のシャッターは開けられていて、引き戸の前に立つと、中に人のいるような気配がした。心臓がやけにうるさい。もう一度深呼吸して、ガラガラと引き戸をあけた。

    そこにいたのは、座敷に座る千鶴さんと、そのそばに立つ多佳子さんだった。直前まで何か話しこんでいる様子だったが、俺が入ると同時に話を止めてしまった。あたりを見回して、志保の姿を探す。やはり、どこにもその姿が見当たらない。

「お久しぶりね、樹君。元気だった?」
    そう言って、疲れたように微笑む多佳子さんは、少し痩せたように見えた。
「お久しぶりです。俺、親父から店が開いてるって聞いて...それで...」
    そう言うと多佳子さんは、俺から視線をそらした。そして、もう一度俺を真っ直ぐ見つめると、こう言った。
「あなたに、言わなければいけないことがあるの」

(ああ...やっぱり...どうして)
    頭の中に霧がかかったように、思考がかすんでいく。たまらず、千鶴さんに視線を移した。
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