49 / 56
第17話「待つことしか」②
しおりを挟む
そんなこともあって、日中は内心穏やかではなかった。授業の内容もなかなか頭に入らず、誰の呼びかけにも反応は鈍かった。
「.......やま...」
「高山っ!」
隣の席の西野が俺の肩を揺らすまで、教科書の一点を見つめて手術の結果のことばかり考えていた。
「高山!呼ばれてるって!さっきから」
「え?」
「高山ぁ...いいご身分だなぁ?俺の授業は聞くに値せんか?それとも、大それた夢は諦めたのか?あ?」
「いえ、そういうわけじゃ...」
古文の飯田先生は生活指導も受け持っていたが、何かにつけて俺の進路に難癖をつけては『現実を見ろ』『身のほどを知れ』と、そんなことばかり言ってくるので、あまり好きになれないでいた。
「なら、ここ!現代語に訳してみろ!」
「......わかりません...」
恐らくそれほど難しいようには感じなかったが、今は兎にも角にも志保のことで頭がいっぱいだった。飯田先生はそら見たことかと鼻をならして授業を再開した。
「ふん...いいかおまえら。こいつみたいに上の空で授業を聞いて、受験がうまくいくなんて思うなよ?あまちゃんは一人で充分だ」
そう言って俺を一瞥した。正直悔しかったが、その通りだとも思ったので俺は何も言い返せなかった。席に座り直すと、西野が制服の肘のあたりを引っ張りながらひそひそと話しかけてきた。
「高山、気にすることないよ。あいつ、学年主任になれなかったからって、周りにあたり散らしてるって噂なんだから」
俺と同じ陸上部に所属する西野は、そう言って口を尖らせた。気持ちの真っ直ぐなところがある彼女にしてみれば、飯田先生のああした湿度のあるもの言いも受け入れがたいものがあるのだろう。
なだめようと口を開きかけたが、こちらに気付いた飯田先生の咳払いでそれも止めることにした。
学校が終わると一目散に千鶴さんの店に急いだ。途中、飛び出してきた車に危うく轢かれそうになって、寿命が縮んだかと思った。
「ばかやろう!どこに目ぇ付けてやがんだ!」
「すみません!」
怒声とクラクションを背中に受けて、休むことなく足を動かす。ようやく店が見えてきた。滑り込むようにして、店の前に自転車を止める。足が重い。息を整えて、店の引き戸を開けた。
「.......やま...」
「高山っ!」
隣の席の西野が俺の肩を揺らすまで、教科書の一点を見つめて手術の結果のことばかり考えていた。
「高山!呼ばれてるって!さっきから」
「え?」
「高山ぁ...いいご身分だなぁ?俺の授業は聞くに値せんか?それとも、大それた夢は諦めたのか?あ?」
「いえ、そういうわけじゃ...」
古文の飯田先生は生活指導も受け持っていたが、何かにつけて俺の進路に難癖をつけては『現実を見ろ』『身のほどを知れ』と、そんなことばかり言ってくるので、あまり好きになれないでいた。
「なら、ここ!現代語に訳してみろ!」
「......わかりません...」
恐らくそれほど難しいようには感じなかったが、今は兎にも角にも志保のことで頭がいっぱいだった。飯田先生はそら見たことかと鼻をならして授業を再開した。
「ふん...いいかおまえら。こいつみたいに上の空で授業を聞いて、受験がうまくいくなんて思うなよ?あまちゃんは一人で充分だ」
そう言って俺を一瞥した。正直悔しかったが、その通りだとも思ったので俺は何も言い返せなかった。席に座り直すと、西野が制服の肘のあたりを引っ張りながらひそひそと話しかけてきた。
「高山、気にすることないよ。あいつ、学年主任になれなかったからって、周りにあたり散らしてるって噂なんだから」
俺と同じ陸上部に所属する西野は、そう言って口を尖らせた。気持ちの真っ直ぐなところがある彼女にしてみれば、飯田先生のああした湿度のあるもの言いも受け入れがたいものがあるのだろう。
なだめようと口を開きかけたが、こちらに気付いた飯田先生の咳払いでそれも止めることにした。
学校が終わると一目散に千鶴さんの店に急いだ。途中、飛び出してきた車に危うく轢かれそうになって、寿命が縮んだかと思った。
「ばかやろう!どこに目ぇ付けてやがんだ!」
「すみません!」
怒声とクラクションを背中に受けて、休むことなく足を動かす。ようやく店が見えてきた。滑り込むようにして、店の前に自転車を止める。足が重い。息を整えて、店の引き戸を開けた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。
BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。
だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。
女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね?
けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる