いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

文字の大きさ
上 下
40 / 56

第14話「邂逅」⑥

しおりを挟む
「血圧を測るから、ちょっとそこを空けてもらえんか?」繋いだ手をチラッと見て、樹にそう言った。
    すると、ちいちゃんが咎めるような口調で割って入った。
「あなた?血圧はさっき測ったって、そう言ってなかった?それに、樹くんには言うことがあるはずよね?」
    厳しい眼差しで祖父を一瞥すると、ちいちゃんは祖父に何か催促するように、頭を樹の方へくいっと傾けた。ちいちゃんがこうなっては、誰も逆らえるものなどいない。祖父は素直に従った。

「あー…そのー…なんだ。あれだ、昨日は志保をよく連れて来てくれたな」
    そうじゃないでしょとばかりに、ちいちゃんは眉をひそめて祖父を睨みつけた。
「わかっとる…悪かったな。殴って…」祖父は頭をかきながら、小さくぺこっと頭を下げた。
「えー!おじいちゃん、樹のこと殴ったの!?」今度は私が怒る番だった。
「そうなのよ。この人ったら、何を勘違いしたのか、樹くんがあなたをしょっちゅう連れ出してると思ったみたいなのよ」

「仕方ないだろう!病室を抜け出しては次の日に寝込んでの繰り返しで、その原因がこいつかと思ったら…」
「こいつですって?」すかさず、ちいちゃんが割って入る。そして、続けて言った。

「未来のお婿さんになんて言い草なんでしょうね?」
「む、む、婿だと!?そんなこと、聞いとらんぞわしは!志保!お前!」私と樹を交互に見ながら、狼狽うろたえている。
    私と樹は顔を見合わせたが、どちらともなく目をそらした。

「まあ、とにかくだ。手術を受けるというのなら、先方にも話をせねばならん。転院の準備もな」そう言って祖父は、逃げるように病室を出て行った。

    ちいちゃんは、ため息まじりに言った。
「まったく、あの人は…。孫娘のこととなるとすぐああなるんだから…。ごめんなさいね?樹くん」
「いえ。勘違いも無理ありませんから」
「あら、本当に素直でいい子ね。逃しちゃダメよ?志保ちゃん」
「ちいちゃん!」耳まで熱くなっている。きっとまだ、体調が本調子ではないのだ。そういうことにしておこう。

「じゃあ…今日はもう帰るよ」樹が立ち上がった。
「え?」引き止めたい気持ちが、思わず口をついて出る。
「何?まだ手繋いでて欲しいのか?」樹がニヤリと笑った。
「そういうわけじゃ…!また子ども扱いして……ばかばーか!」ふくれる私の頭をぽんぽんと叩くように撫でて、樹は出て行った。父と同じだった。

「それじゃあ、私も店に戻ろうかしら。明日また来るわ、志保ちゃん」そう言って、ちいちゃんも帰って行った。

「何か気を遣わせたようね」二人が出て行った後に母が言った。
「そうなのかな」本当のところはわからないが、そうしたことを自然にするくらいには、二人が優しいことは知っていた。

「今日と明日は休みにしたから、今日はここに泊まろうかしら」母が言った。
「本当!?」
    仕事の鬼のような母にしては珍しいことだったが、それだけ心配をかけたということだろう。申し訳なく思った。

「ええ、だから…貴志の…あの人の話、もっと詳しく聞かせてちょうだい」そう言って母は、樹の使っていた椅子に腰掛けて、私の手を握ってくれた。もう、何も怖いものなど無かった。
    そしてその日は、夜遅く、私が疲れて眠るまでずっと、二人でいろんな話をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

婚約者

詩織
恋愛
婚約して1ヶ月、彼は行方不明になった。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

【完結】4人の令嬢とその婚約者達

cc.
恋愛
仲の良い4人の令嬢には、それぞれ幼い頃から決められた婚約者がいた。 優れた才能を持つ婚約者達は、騎士団に入り活躍をみせると、その評判は瞬く間に広まっていく。 年に、数回だけ行われる婚約者との交流も活躍すればする程、回数は減り気がつけばもう数年以上もお互い顔を合わせていなかった。 そんな中、4人の令嬢が街にお忍びで遊びに来たある日… 有名な娼館の前で話している男女数組を見かける。 真昼間から、騎士団の制服で娼館に来ているなんて… 呆れていると、そのうちの1人… いや、もう1人… あれ、あと2人も… まさかの、自分たちの婚約者であった。 貴方達が、好き勝手するならば、私達も自由に生きたい! そう決意した4人の令嬢の、我慢をやめたお話である。 *20話完結予定です。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

従妹と親密な婚約者に、私は厳しく対処します。

みみぢあん
恋愛
ミレイユの婚約者、オルドリッジ子爵家の長男クレマンは、子供の頃から仲の良い妹のような従妹パトリシアを優先する。 婚約者のミレイユよりもクレマンが従妹を優先するため、学園内でクレマンと従妹の浮気疑惑がうわさになる。 ――だが、クレマンが従妹を優先するのは、人には言えない複雑な事情があるからだ。 それを知ったミレイユは婚約破棄するべきか?、婚約を継続するべきか?、悩み続けてミレイユが出した結論は……  ※ざまぁ系のお話ではありません。ご注意を😓 まぎらわしくてすみません。

王太子から婚約破棄されて三年、今更何の用ですか?!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「やはり君しかいない、君こそ私が真に愛する人だ、どうか戻って来て欲しい」ある日突然ユリアの営む薬屋にリンド王国の王太子イェルクがやってきてよりを戻したいという。  だが今更そんな身勝手な話はない。  婚約者だったユリアを裏切り、不義密通していたユリアの妹と謀ってユリアを国外追放したのはイェルク自身なのっだ。  それに今のユリアは一緒についてきてくれた守護騎士ケヴィンと結婚して、妊娠までしているのだ!

処理中です...