いろはどこ?

おぷてぃ

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第2話「あかねの憂うつ」

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    思えば遠くにきたものだ。
    椅子の背にもたれかかり、あかねは物思いにふけっていた。机に足を引っかけ、椅子の後脚でうまくバランスをとりながら、前脚でかたんかたんと床を鳴らす。見上げた天井のクロスのシミを眺めるのは、これで何度目になるだろうか。机の上に広げたノートには、今引き受けているポスターのデザイン画が、まるで片付けられることのないおもちゃのように散らかっている。





    子どものころはまだよかった。何を描いても大抵喜んでもらえたし、褒めてもらえた。高校生のときには絵画コンクールで賞を獲ったことだってある。
    それがきっかけで絵本作家になろうとしたところまではよかったが、現実はそううまくはいかない。その後入った美大では、自分なんかよりよっぽど才能豊かな同世代に囲まれながらその感性に圧倒され、卒業後、芽生えはじめていた劣等感を引き連れて、逃げるように海を越え武者修行に来てみれば、食いぶちを稼ぐためにこうして小さな仕事を追いかける日々が続いて早数年になる。
    それはそれで楽しかったが、ほんの少しだけ、いや、結構…かなり…焦っていた。

    だらんとぶら下げた首を傾けて、部屋の中を見渡してみる。意気揚々とこの地にやってきたときに持ってきた過去の勲章たちだ。特に思い入れのある作品だけに絞ってはいたが、それでも、ベッドと机を置けばやっとの部屋の壁を埋めるには、十分過ぎるほどだった。
   以前なら、こうして気分の沈んだときにはそれらの作品を眺めることで、また目の前の作品へ取りかかる気になれたものだが。

    ここ最近はずっと調子が芳しくない。描くキャラクターはどれも無機質で、かつてのような創作に対して感じていたワクワクも薄れつつある。

「向いてないのかな…」

    そう呟いて、机の上のノートに目を向ける。その端っこから、いつもの妖精がこちらを見返している。
(いつかこの子で…)
    そう思ってずっと描き続けているが、線が悪いのか、はたまた造形のせいか、配色も決まらず宙ぶらりんのまま。

「我ながら退屈な絵を描くもんだ」

「はあ…」

    ため息がまたひとつ、憂いで満たされた部屋の中へ溶けていった。
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