超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第十四章 魔獣戦線

第十一節 幕引き

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 力強く、素早く、殺意に満ちた攻防を繰り返した後、火天と〈クベラ〉は距離を取った。

 〈クベラ〉はまだ無事であるコンテナの上に飛び乗り、火天がそれを見上げている。
 共に、内部の機械や、高温を発する肉体に蓄積された熱を、排風口や鱗の隙間の孔から放出している。

 〈クベラ〉は剣を構え、次の一手を繰り出そうとした。
 だが、不意にそのヘルメットの、眉間のランプが小さく明滅を始める。

 純はゴーグル内が赤く点滅を繰り返し、警告音とカウントダウンが始まっているのを知った。

 ──ここまでか。

 〈クベラ〉はコンテナから跳躍した。

 雅人がそれを眼で追うと、〈クベラ〉は〈飛龍〉に跨って海の方へと駆け出していた。これに、〈瑞鳳〉が追随する。

 火天から離脱するように、である。

 〈クベラ〉は走りざまに、放り投げた〈雪風〉や地面に突き立てていた〈大和〉などを回収すると、海へ向かって飛んだ。

 地上から離れ、空回りする二輪。その後ろに、海面すれすれを浮遊する〈瑞鳳〉がぴったりと付き、キャノピーを展開した。

 〈飛龍〉を無人のコックピットに格納した〈瑞鳳〉が、海面を離れて空高く上昇する。
 そして適当な高さで旋回して、何処かへと飛び去ってゆくのであった。

 雅人はそれを見送った。

 ──ありがてぇ。

 安堵の溜め息を、雅人は吐いた。しかし魔人の吐息は余りに高温で、蜥蜴の口からは火が飛び出したようになる。

 限界だった。
 いつまでもこの形態でいる事が、今の雅人には物理的に苦痛なのである。

「──渋江さん!」

 憶えのある名前が叫ばれた。

 つい眼を向けると、コンテナに隠れていた玲子が、海上近くに倒れ込んでいた渋江杏子に駆け寄ろうとしていた。

 ──逃げていなかったのか……。

 雅人は当然、杏子がいるのに気付いていた。少年と一緒に魔獣に襲われそうだったのを助けたから、いるのは知っていた。

 だが、魔獣が集結して百鬼曼陀羅となり、触手で無差別に捕食行動に出た時に、流石に逃げた筈だと思っていたのだ。

 それがどうした訳か、自分がプラズマカッターでコンテナを撫で斬りにした時、近くに戻って来ていて、危うく巻き添えを喰う所であったのだ。

 ともすれば雅人は、〈クベラ〉を倒せないばかりか、杏子を自らの手で溶解させていた可能性もあるのである。

「渋江さん! 渋江さん大丈夫ですか!?」

 玲子と杏子がどうして知り合ったのか雅人は知らないが、顔見知りの、しかも刑事に救助されたとなれば安心だろう。

 雅人は、杏子が熱を遠巻きに浴びて幾らか火傷をしているのは分かったが、命に別条がない程度だとも見抜いている。

 いつまでも留まってはいられないと踵を返そうとするのだが、振り向いた玲子と眼が合ってしまった。
 炎の眩さに細められた、勝気な、まだ少女の純粋な理想を孕んだ眼が、雅人を──火天を睨んでいる。

「ま……待って! 待ちなさい!」

 玲子は拳銃を引き抜いた。
 雅人が全て撃ち尽くしてしまった筈だが、予備の弾丸くらいは持っているだろう。

「貴方は……」

 玲子は声に詰まった。
 何と問い質せば良いのか分からないのだろう。

 雅人は彼女らに背中を向け、自分が巻き上げた炎の壁をすり抜けて、その場を後にした。





「渋江さん! 無事ですか? 聞こえていますか!?」

 玲子の呼び掛けで、杏子は意識を取り戻した。
 プラズマカッターの影響で起こった爆風に巻き込まれ、地面に身体を打ち付けて気を失っていたらしい。

「あ……は、花巻さん」
「良かったぁ。……さ、ここは危険ですから、早く逃げましょう」

 玲子は杏子に肩を貸して立ち上がらせ、炎上を続けるコンテナの傍から離れた。

「しかし──つくづく運の悪い人ですね」

 杏子が、水門署護送される寸前にパトカーを奪って逃走した、野村寅一に襲われて軽傷を負ったのは、つい昨日の事である。

 昼間には退院したが、その前に玲子が見舞いにやって来ていた。

「本当に、そうね」

 昨日の事も、そして三年前の事も、全て巡り合わせが悪く、杏子は酷い目に遭っている。
 だがそのたびに、明石雅人がいた。

 だから、運が悪いと一口に言ってしまう事が、杏子には出来なかった。

「あ──いたいた! 何処行ってたンすか!」

 玲子に運ばれる杏子に、健吾が駆け寄った。

「逃げろって言ってたのに、また戻っちゃって……心配しましたよ」
「ごめんなさい。それで、消防署には連絡した? これだけの火災、大変な事よ」
「そりゃ、まぁ。……所でこの人は?」
「警察です」

 玲子は杏子に肩を貸したまま、胸ポケットから手帳を取り出した。

「警察? あ、そう言えばさっき、刑事さん、救急車に乗せたんだけど……」
「乗せたのは私! ……まぁ、君がいなかったら海から引き上げられなかったんだけど」
「あ──」

 きっとそれは、玲子が投げ落とした刑事の、誰かだ。
 彼らも、あの白い肉塊に操られて正気を失くしていた。

「取り敢えず、君と……渋江さんも昨日の今日で悪いんですけど、署にご同行願えますか。色々と訊きたい事があるんで……」

 サイレンの音が、近付いて来ていた。
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