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第十四章 魔獣戦線
第八節 マシンスクランブル
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「その霊石──貴方は火天のオーヴァー・ロードだろう」
「へぇ。詳しいんだな」
「そうであるからには、貴方をこの手で、始末しなければいけない」
〈クベラ〉が〈雪風〉を発砲した。
雅人は左斜め前に飛び込み前転をして躱し、立ち上がると〈クベラ〉に肉薄する。
純は〈雪風〉を火天に向けるのだが、雅人は右手でその腕を払い、鎧騎士の背後に回り込もうとした。
〈クベラ〉が左に回転し、火天の胸の辺りに肘打ちを叩き込んでゆく。
雅人は左の前腕でこれをガードし、その腕を〈クベラ〉の左腕に絡め、右手で腰を抱えて、右膝の裏に蹴りを見舞った。
〈クベラ〉の頭が下がり、雅人は腰を反らして鎧騎士を抱え上げて、後ろに放り投げる。
するとバックパックのバーニアが火を吹き、〈クベラ〉は上昇しながら火天の腕から逃れた。
〈雪風〉と〈村雨〉を所定の位置にラックし着地する〈クベラ〉と、火天が同時に振り返る。オレンジ色のゴーグルと、黄色い縦長の瞳が交錯し、騎士と怪物は同時に地面を蹴った。
「しゃっ!」
突っ込んで来る〈クベラ〉に、雅人が左の前蹴りを放った。
純はその蹴りが伸び切る寸前、同じように右の前蹴りを使って、鉄のブーツの底で蹴りを受け止める。
生身同士であれば、そして実力が大きく掛け離れていれば、相手の膝関節から、最悪股関節まで破壊しているような純の技量であった。
だが、そこは明石雅人である。〈クベラ〉のカウンターを読んで、軸足で後退してダメージを軽減した。
しかし純は、火天が引き下がった分前進し、スニーカーの底を足場に後方に跳躍した。
流石に、数メートルもするジャンプの足場とされては、雅人も堪え切れない。蹴り足を後ろに引き、前屈立ちの姿勢になってそれ以上の後退を止めた。
一方、月面宙返りで〈クベラ〉の身体は、燃えてはいるがまだ無事なコンテナの側面に着地し、更にその鉄板を大きく陥没させてジャンプした。
コンテナを蹴って反転し、空中回転で勢いを増した〈クベラ〉が、バーニアや鎧の各部に取り付けられた排風口からの噴射を推力に変換し、流星のように落下するパンチを放つ。
雅人は右拳を矢のように引き絞って、〈クベラ〉の跳び突きを迎撃した。
蒼白い鋼鉄の手甲と、赤黒い炎のパンチが激突し、騎士と魔人はそれぞれ大きく弾き飛ばされた。
がちゃがちゃと地面に鎧を擦り付ける純と、コンクリートに自らの鱗をぶつけて剥がされる雅人。
〈クベラ〉は膝立ちになると、左腕を持ち上げて、装甲の下の通信機に呼び掛けた。
「マシンスクランブル」
乗り手のいない〈飛龍〉のフロントライトが、獣の眼のように輝き、火天に向かって飛び出してゆく。
自ら前輪を持ち上げると、火天に突っ込んで打撃しようとした。
回避は間に合わないと火天が防御姿勢を採ると、〈飛龍〉は加速し、後輪さえ地上から離して、雅人の頭上を飛び越えた。
──あのオートバイ……そうか、あの時の。
雅人は三年前、紀田勝義との戦いの最中、無人で動き出した黒いオートバイがあったのを思い出した。あれは、この鎧騎士のものだったのだ。
着地した〈飛龍〉は、車体を傾けて方向転換し、再度、火天を狙って疾駆した。
鋭利な衝角に稲妻が走る。雅人はぎりぎりで躱したが、〈震電〉の引き起こすソニックブームが身体の表面を引き裂き、衝撃で吹っ飛ばされる事となった。
その間に、〈クベラ〉は〈時津風〉を〈瑞鳳〉に戻し、又、〈瑞鳳〉から予備の〈村雨〉を受け取っている。
傍に戻って来た〈飛龍〉のシートから〈武蔵〉を再び取り出し、〈村雨〉に接続した。
抜刀した鎧騎士が、立ち上がった火天に斬り掛かる。
雅人は苦し紛れに火炎を放射したが、〈クベラ〉の装甲〈金剛〉はその程度の熱は遮断してしまう。
紅蓮の色を装甲に映して、悪鬼を滅する天使の如く迫り来る〈クベラ〉は、如何に怪物へと身をやつした雅人でさえも威圧される。
〈クベラ〉は流れるように、袈裟懸け──横薙ぎ──唐竹割り──の三つの動作を繰り出し、火天を斬撃の檻に閉じ込めようとした。
雅人は紙一重の見切りで、胸と腹と顔に深めの傷を付けられるだけで済ませると、四度目の剣を繰り出そうとした〈クベラ〉の僅かな隙を突いて、中段正拳突きを繰り出した。
「へぇ。詳しいんだな」
「そうであるからには、貴方をこの手で、始末しなければいけない」
〈クベラ〉が〈雪風〉を発砲した。
雅人は左斜め前に飛び込み前転をして躱し、立ち上がると〈クベラ〉に肉薄する。
純は〈雪風〉を火天に向けるのだが、雅人は右手でその腕を払い、鎧騎士の背後に回り込もうとした。
〈クベラ〉が左に回転し、火天の胸の辺りに肘打ちを叩き込んでゆく。
雅人は左の前腕でこれをガードし、その腕を〈クベラ〉の左腕に絡め、右手で腰を抱えて、右膝の裏に蹴りを見舞った。
〈クベラ〉の頭が下がり、雅人は腰を反らして鎧騎士を抱え上げて、後ろに放り投げる。
するとバックパックのバーニアが火を吹き、〈クベラ〉は上昇しながら火天の腕から逃れた。
〈雪風〉と〈村雨〉を所定の位置にラックし着地する〈クベラ〉と、火天が同時に振り返る。オレンジ色のゴーグルと、黄色い縦長の瞳が交錯し、騎士と怪物は同時に地面を蹴った。
「しゃっ!」
突っ込んで来る〈クベラ〉に、雅人が左の前蹴りを放った。
純はその蹴りが伸び切る寸前、同じように右の前蹴りを使って、鉄のブーツの底で蹴りを受け止める。
生身同士であれば、そして実力が大きく掛け離れていれば、相手の膝関節から、最悪股関節まで破壊しているような純の技量であった。
だが、そこは明石雅人である。〈クベラ〉のカウンターを読んで、軸足で後退してダメージを軽減した。
しかし純は、火天が引き下がった分前進し、スニーカーの底を足場に後方に跳躍した。
流石に、数メートルもするジャンプの足場とされては、雅人も堪え切れない。蹴り足を後ろに引き、前屈立ちの姿勢になってそれ以上の後退を止めた。
一方、月面宙返りで〈クベラ〉の身体は、燃えてはいるがまだ無事なコンテナの側面に着地し、更にその鉄板を大きく陥没させてジャンプした。
コンテナを蹴って反転し、空中回転で勢いを増した〈クベラ〉が、バーニアや鎧の各部に取り付けられた排風口からの噴射を推力に変換し、流星のように落下するパンチを放つ。
雅人は右拳を矢のように引き絞って、〈クベラ〉の跳び突きを迎撃した。
蒼白い鋼鉄の手甲と、赤黒い炎のパンチが激突し、騎士と魔人はそれぞれ大きく弾き飛ばされた。
がちゃがちゃと地面に鎧を擦り付ける純と、コンクリートに自らの鱗をぶつけて剥がされる雅人。
〈クベラ〉は膝立ちになると、左腕を持ち上げて、装甲の下の通信機に呼び掛けた。
「マシンスクランブル」
乗り手のいない〈飛龍〉のフロントライトが、獣の眼のように輝き、火天に向かって飛び出してゆく。
自ら前輪を持ち上げると、火天に突っ込んで打撃しようとした。
回避は間に合わないと火天が防御姿勢を採ると、〈飛龍〉は加速し、後輪さえ地上から離して、雅人の頭上を飛び越えた。
──あのオートバイ……そうか、あの時の。
雅人は三年前、紀田勝義との戦いの最中、無人で動き出した黒いオートバイがあったのを思い出した。あれは、この鎧騎士のものだったのだ。
着地した〈飛龍〉は、車体を傾けて方向転換し、再度、火天を狙って疾駆した。
鋭利な衝角に稲妻が走る。雅人はぎりぎりで躱したが、〈震電〉の引き起こすソニックブームが身体の表面を引き裂き、衝撃で吹っ飛ばされる事となった。
その間に、〈クベラ〉は〈時津風〉を〈瑞鳳〉に戻し、又、〈瑞鳳〉から予備の〈村雨〉を受け取っている。
傍に戻って来た〈飛龍〉のシートから〈武蔵〉を再び取り出し、〈村雨〉に接続した。
抜刀した鎧騎士が、立ち上がった火天に斬り掛かる。
雅人は苦し紛れに火炎を放射したが、〈クベラ〉の装甲〈金剛〉はその程度の熱は遮断してしまう。
紅蓮の色を装甲に映して、悪鬼を滅する天使の如く迫り来る〈クベラ〉は、如何に怪物へと身をやつした雅人でさえも威圧される。
〈クベラ〉は流れるように、袈裟懸け──横薙ぎ──唐竹割り──の三つの動作を繰り出し、火天を斬撃の檻に閉じ込めようとした。
雅人は紙一重の見切りで、胸と腹と顔に深めの傷を付けられるだけで済ませると、四度目の剣を繰り出そうとした〈クベラ〉の僅かな隙を突いて、中段正拳突きを繰り出した。
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