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第十四章 魔獣戦線
第六節 巨獣狩り
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純は〈飛龍〉を走らせたままステップに立ち上がり、 〈村雨〉をバックパックから引き抜いて連結させた。
その〈クベラ〉に向かって、饕餮に掃射を喰らわせている〈瑞鳳〉のハッチから銀色の刃が射出された。
〈武蔵〉よりも長い──三尺に至る大太刀である。
〈大和〉と銘打たれた太刀は、〈村雨〉に合体するとその刀身に稲妻を迸らせた。
〈クベラ〉は大太刀の中頃を左の逆手で握り、右手ではハンドルを握って、百鬼曼陀羅・饕餮の足元に接近した。
「──はぁっ!」
純は、〈大和〉を地面と平行に振り出すと、右手を柄に沿えて、〈飛龍〉のタンクをがっちりと膝でグリップし、〈瑞鳳〉の機銃から身を守る事に意識を割いていた饕餮の左の前肢に喰い込ませた。
〈飛龍〉が饕餮の横を通り過ぎて、海に落下する手前で急制動を掛ける。後輪が跳ね上がって車体が停止した。
それに一瞬遅れて、饕餮の左足から鮮血が迸る。傷口からどろどろとしたものが吹き出した。それは血液に留まらず、形成途中の人間や動物の一部分のようなものまで混じっていた。
巨体のバランスを崩した饕餮が、左側にがっくりと傾いてゆく
オートバイから降りた〈クベラ〉は、その身に余るとさえ感じられる大太刀を八双に構えて、饕餮に迫った。
左の後肢にも、斬撃を叩き込んでやる。
大重量を支えるべく、鱗と獣毛、角質化した皮膚で形作られた外骨格さえ持った足だったが、〈大和〉は易々と切り込んだ。長い刀身の半分が埋まれば、横向きになった血の滝が〈クベラ〉の蒼白い鋼鉄を染め抜いてゆく。
左側の前後の肢を断たれ、饕餮は胴体から生えた肉柱の、機銃掃射から身を守る為に巻き付けた硬質な触手の重みに耐えられなくなり、完全に横倒しになってしまった。人間の顔を浮かべた柱が、近くのコンテナを踏み潰してしまう。
〈瑞鳳〉が一旦弾丸を発射する手を止めた。だが、大量に打ち込まれた銃弾は触手を貫通して肉柱まで到達しており、転倒のショックで赤い噴水を幾つも作り出していた。
それでも饕餮は、横倒しになった肉柱の下から触手を脚の形に変化させて、その場から逃げ出そうとする。
横に伸びた巨体が、コンテナを払い除けながら海から離れるように移動を始めていた。
〈クベラ〉は地面に〈大和〉を突き立てて固定すると、〈村雨〉を一つ手に取り、その場から跳躍した。
バックパックのバーニア噴射でより高く上昇し、空中で身をひねって、逃げ出そうとする饕餮の正面に着地した。
さっきまでは上を向いていた巨大な脳みそが、今は眼前に立ちはだかった〈クベラ〉を睨み付けている。
〈クベラ〉は巨大脳の威圧的な外見にも怯む事なく、さっと両手を持ち上げた。
その頭上に〈瑞鳳〉が移動して、機体下部に装着した機関砲をパージし、投下する。
〈クベラ〉はこれを受け取って、本体の上に見える窪みに〈村雨〉を装填した。
〈瑞鳳〉から離れた七連装機関砲〈時津風〉のロックを解除する役割を、〈村雨〉が担っているのだ。
〈クベラ〉は〈時津風〉のスイッチを押し込み、砲身を回転させた。
七つ並んだ銃口から発射される弾丸が、一直線に、螺旋を描いて巨獣に叩き込まれる。
無数の爆発が鉛玉を吐き出してゆく。夜の埠頭に連鎖する閃光と、弾き出される薬莢。
〈クベラ〉は饕餮の全身を撫でるように、〈時津風〉を移動させていた。秒間七七発の弾丸は巨獣の全身をぼろぼろにしてゆく。
しかし恐るべき怪物は、それでもなお、身体を内側から変化させ、どうにか生命を保とうと動いているようだった。
末端部分が委縮し、肉柱が萎んでゆく一方で、胴体部分は膨張し、〈時津風〉の弾丸を外殻に喰い込ませる程度に留めている。
〈クベラ〉が〈時津風〉を繰り出している間に、百鬼曼陀羅・饕餮の異形は全体を弾丸で埋め尽くされた、軽自動車サイズの球体に変化してしまっていた。
かつて饕餮の身体であった皮膚や肉片はどろどろに溶けたり、乾燥して粉末状になったりして、それらの中にばら撒かれた弾丸がこぼれている。
純は〈時津風〉の掃射をやめた。銃弾さえ自身の表面に留めて装甲にしてしまったような饕餮に、それ以上攻撃を加えても無駄だと判断したのだ。
その〈クベラ〉に向かって、饕餮に掃射を喰らわせている〈瑞鳳〉のハッチから銀色の刃が射出された。
〈武蔵〉よりも長い──三尺に至る大太刀である。
〈大和〉と銘打たれた太刀は、〈村雨〉に合体するとその刀身に稲妻を迸らせた。
〈クベラ〉は大太刀の中頃を左の逆手で握り、右手ではハンドルを握って、百鬼曼陀羅・饕餮の足元に接近した。
「──はぁっ!」
純は、〈大和〉を地面と平行に振り出すと、右手を柄に沿えて、〈飛龍〉のタンクをがっちりと膝でグリップし、〈瑞鳳〉の機銃から身を守る事に意識を割いていた饕餮の左の前肢に喰い込ませた。
〈飛龍〉が饕餮の横を通り過ぎて、海に落下する手前で急制動を掛ける。後輪が跳ね上がって車体が停止した。
それに一瞬遅れて、饕餮の左足から鮮血が迸る。傷口からどろどろとしたものが吹き出した。それは血液に留まらず、形成途中の人間や動物の一部分のようなものまで混じっていた。
巨体のバランスを崩した饕餮が、左側にがっくりと傾いてゆく
オートバイから降りた〈クベラ〉は、その身に余るとさえ感じられる大太刀を八双に構えて、饕餮に迫った。
左の後肢にも、斬撃を叩き込んでやる。
大重量を支えるべく、鱗と獣毛、角質化した皮膚で形作られた外骨格さえ持った足だったが、〈大和〉は易々と切り込んだ。長い刀身の半分が埋まれば、横向きになった血の滝が〈クベラ〉の蒼白い鋼鉄を染め抜いてゆく。
左側の前後の肢を断たれ、饕餮は胴体から生えた肉柱の、機銃掃射から身を守る為に巻き付けた硬質な触手の重みに耐えられなくなり、完全に横倒しになってしまった。人間の顔を浮かべた柱が、近くのコンテナを踏み潰してしまう。
〈瑞鳳〉が一旦弾丸を発射する手を止めた。だが、大量に打ち込まれた銃弾は触手を貫通して肉柱まで到達しており、転倒のショックで赤い噴水を幾つも作り出していた。
それでも饕餮は、横倒しになった肉柱の下から触手を脚の形に変化させて、その場から逃げ出そうとする。
横に伸びた巨体が、コンテナを払い除けながら海から離れるように移動を始めていた。
〈クベラ〉は地面に〈大和〉を突き立てて固定すると、〈村雨〉を一つ手に取り、その場から跳躍した。
バックパックのバーニア噴射でより高く上昇し、空中で身をひねって、逃げ出そうとする饕餮の正面に着地した。
さっきまでは上を向いていた巨大な脳みそが、今は眼前に立ちはだかった〈クベラ〉を睨み付けている。
〈クベラ〉は巨大脳の威圧的な外見にも怯む事なく、さっと両手を持ち上げた。
その頭上に〈瑞鳳〉が移動して、機体下部に装着した機関砲をパージし、投下する。
〈クベラ〉はこれを受け取って、本体の上に見える窪みに〈村雨〉を装填した。
〈瑞鳳〉から離れた七連装機関砲〈時津風〉のロックを解除する役割を、〈村雨〉が担っているのだ。
〈クベラ〉は〈時津風〉のスイッチを押し込み、砲身を回転させた。
七つ並んだ銃口から発射される弾丸が、一直線に、螺旋を描いて巨獣に叩き込まれる。
無数の爆発が鉛玉を吐き出してゆく。夜の埠頭に連鎖する閃光と、弾き出される薬莢。
〈クベラ〉は饕餮の全身を撫でるように、〈時津風〉を移動させていた。秒間七七発の弾丸は巨獣の全身をぼろぼろにしてゆく。
しかし恐るべき怪物は、それでもなお、身体を内側から変化させ、どうにか生命を保とうと動いているようだった。
末端部分が委縮し、肉柱が萎んでゆく一方で、胴体部分は膨張し、〈時津風〉の弾丸を外殻に喰い込ませる程度に留めている。
〈クベラ〉が〈時津風〉を繰り出している間に、百鬼曼陀羅・饕餮の異形は全体を弾丸で埋め尽くされた、軽自動車サイズの球体に変化してしまっていた。
かつて饕餮の身体であった皮膚や肉片はどろどろに溶けたり、乾燥して粉末状になったりして、それらの中にばら撒かれた弾丸がこぼれている。
純は〈時津風〉の掃射をやめた。銃弾さえ自身の表面に留めて装甲にしてしまったような饕餮に、それ以上攻撃を加えても無駄だと判断したのだ。
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