超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第十三章 百鬼曼陀羅

第六節 軍神の稲妻

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 ガントリークレーンのレールから〈クベラ〉と魔獣たちの戦闘を見下ろす蛟は、苦い表情をしている。

 額には蒼く光る水晶があり、その顔にはアヴァタール現象の前兆として、血管や神経のようなものが力強く浮き上がっていた。

 またたく間に四体の魔獣を屠った〈クベラ〉を、残る八体の怪物が囲む。
 四方八方から、同時に殴り付け、爪を繰り出し、噛み付き、蹴り、タックルを仕掛けるのだが、そのどれもが、〈クベラ〉には効果がない。

 鎧を装着する前の純と同じく攻撃を躱す他に、頑強な装甲でブロックする戦法も手にした〈クベラ〉であるから、人間的な理性を失った怪物たちが如何に猛攻を加えても、怯む事がない。

 寧ろ、魔獣らの爪は装甲を切り付ければ砕け、殴り掛かれば指の骨が圧し折られるという具合だ。

 そして〈クベラ〉は、自分の鎧で敵の攻撃手段を無効化してから、攻勢に転じる。

 拳銃を右腿のホルスターに戻し、両手を肩口にやった。バックパックから伸びた一対の棒を引き抜き、これを連結させて、魔獣を打擲する。

村雨むらさめ〉と命名された特殊警棒だ。

 本来は装甲二輪〈飛龍〉に格納された刃や、脚部に忍ばせた短刀〈いなずま〉と〈いかずち)〉のグリップとして使われるものだ。

 だが、それ単体でも警棒として使う事は可能で、〈村雨〉に内蔵されたバッテリーで刃に高周波を纏わせる事をせずとも、魔獣に対しては充分な威力を持つ鈍器である。

 バトンのように中心を持って使う事もあれば、片端を握って遠心力で敵を打ち据える事もある。

 蛟はそれを見下ろしつつ、

 ――散れ!

 と、命じた。

 頭部や、肩口を抉られ、腹を突かれ、指を砕かれ、毛皮を剥かれ、甲殻を割られた魔獣たちが、包囲はやめぬままに一斉に後退する。

 ここで、〈クベラ〉が攻撃に出た。

 一体だけ、後退に遅れた鈍重な個体を目敏く発見すると、コンクリートの地面を踏み砕いて跳躍し、肉薄。

 同時にベルトのサイドバックルを操作して、右足から〈電〉を露出させると、跳び膝蹴りのポーズで、地面と平行にした刃で魔獣の首を刎ねた。

 動きの遅さは、全身が肥大した上、表皮が二重三重に角質化して鎧となっていた為だ。だがその太い頸を吹き飛ばされて、怪物の生首はコンテナに激突した。

 蛟の咽喉元に、かつて同じ目に遭った傷が思い起こされる。

 着地する時には、〈クベラ〉は〈電〉と〈雷〉を同時にせり出させており、分割した〈村雨〉にそれぞれ装着させている。小刀の二刀流だ。

 残る七体の怪物を、暗がりの埠頭にオレンジ色の瞳を煌めかせて振り返る装甲聖王。

 蛟は陣形を整えた。

 一列に並べた魔獣たちから、二体を正面に出す。その背後に、距離を置いて三体を横に展開する。一番後ろの二体は、前に並んだ仲間たちの左右から、接近する〈クベラ〉の後ろに回り込もうとした。

 〈クベラ〉は二刀を左右に一閃し、二体の魔獣の胸を深々と斬り裂いた。
 〈村雨〉のバッテリーが供給する電力が刀身を振動させ、鱗だろうか獣毛だろうか構わず、細胞をバターのように滑らかに切断し、そして焼く。

 二列目の中心にあった甲殻系の魔獣が、〈クベラ〉に突撃した。

 同時に、その横の猿や猫に似た二体が仲間を飛び越え、後ろに回り込んだ蛙や犬に似た二体が、〈クベラ〉を押し潰そうと迫る。

 純は右手にした〈電〉で正面の魔獣を右から斬り裂き、回転しながら前に跳び上がって、逆手に持った左手の〈雷〉を右側からやって来た怪物の脇腹に突き立てると、左側の怪人を右足で蹴り飛ばした。

 着地点に、二体の怪物が待っている。
 この二体の脇から、オートコントロールによって〈飛龍〉が接近し、撥ね飛ばす。

 〈クベラ〉はバックパックのバーニアを噴射させた。蒼白い鎧武者が二刀を連結させながら空中を滑り、〈飛龍〉に跨る。

 海との境までマシンを走らせると、ジャックナイフで急停止し、車体をターンさせる。右手でハンドルを握り、左手に小振りな双刃刀ツインブレード雷電らいでん〉を持った〈クベラ〉が、魔獣の群れに突っ込んでゆく。

 オートバイを避けようとする怪物とすれ違いざまに、二体の脇腹を引き裂いた。
 血を吹き、鱗と体毛を散らして、地面を転がる魔獣たち。

 〈クベラ〉は魔物の群れから距離を置くとバイクから降りた。
 〈雷電〉を二刀に戻し、一方の〈村雨〉だけを残して、刃を地面に落とす純。

 〈飛龍〉のシートが開いた。
 剥き出しの茎が、せり出される。
 銘は、KE-07 Musashi――〈武蔵むさし〉だ。

 二尺三寸の大刀を〈村雨〉に合体させる。
 グリップが発生させる電流を浴びて、刀身に蒼い稲妻が絡み付くようであった。
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