超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第十三章 百鬼曼陀羅

第三節 貴方を待つ人がいる

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「ち――力持ちなんですね……」
「ええ、まぁ」

 祥は、気を失っているいずみを背負い、杏子を抱え上げて、屋上へ向かった。

 二人とも祥より小柄であるが、気絶した人間を負ぶった上にもう一人を胸に抱いて歩いてゆけるのは、女性としてはかなりの膂力の持ち主である。

「どちらかと言えば、この上着の方が……」

 杏子に自分の燕尾服を羽織らせ、いずみの身体には雅人の上着を被せている。雅人の革ジャンは特大サイズで、いずみと祥を二人羽織りにしてしまう。

「この服の持ち主が、先程言っていた、“あかし”さんという?」
「はい。今、紀田勝義と戦っている筈です」

 杏子は祥に救い出された安心感から、今にも意識を失いそうになっていた。
 だが、雅人の安否を確かめるまでは、気絶する訳にはいかない。

「紀田と……」
「明石さんは……どうなったんですか?」

 そう問うのだが、祥は雅人と紀田勝義との事は知らない。

 祥は二人を屋上まで連れて来た。屋上には黒い小型の回転翼機が停められており、その手前に黒い衣装に身を包んだ、長髪の少年が座り込んでいた。

「純さま……」
「ああ、その二人、無事だったんですね」
「無事――という訳でもありませんが、命に別状はないかと。直ちに病院へ搬送します」

 祥は純の前で深く礼をして、二人をヘリコプターの傍まで運んだ。

 ヘリコプターは小振りで、一度に乗り込めるのは操縦士も含めて精々二人といった所か。杏子もいずみも背が低いので、身を縮めていれば乗り込める。

 傷付いた二人に狭い思いをさせるのは気が咎める祥だったが、この場合は仕方がない。

 備え付けの毛布を床に敷き、いずみの身体を丸めさせて寝かせ、その隙間に杏子に膝を抱えさせる。痛め付けられて蒼黒く変色した脚を見ていられなくなり、祥は眼を伏せた。

「あの――明石さんを」

 杏子は言った。
 祥は、屋上で腰を下ろし、身体を休めている純に顔をやった。
 解除された〈クベラ〉の黒い装甲が、純の周りに散らばっている。

「純さま、明石さんという人を……」
「あの、髪の毛の赤い人かな。彼ならきっと、下にいるでしょう」

 もう決着は付いているだろうな――と、純は赤毛の巨漢と人間大のガマガエルを思い出した。
 あの様子なら、傷付いていたとは言え雅人が勝つだろう。

 純には、初めて会った男への確信がある。

「病院へ向かう前に、下へ寄りましょう」

 祥はコックピットに乗り込み、ローターを回転させた。
 機体が屋上から浮き上がり、建物を離れると、車が少なくなった駐車場に降下し始めた。

 コックピット内のモニターに、機体下部のカメラの映像を映し出すと、駐車場に二人の男がいるのが確認される。

 祥は高度を下げて、暗がりでも目立つ赤毛の巨漢の上に、機体をホバリングさせた。
 キャノピーを持ち上げて、機体から身を乗り出す。

 切り傷だらけで、鼻も潰れて歯もなくなり、どのようにすればそうなるのか想像もしたくない顔を、赤毛の男は持ち上げた。

「明石――さんですか!?」

 ローター音に敗けない声量で、祥。

 コンクリートの上に座り込んだ雅人は、頷いた。プロペラの巻き起こす風でも舞い上がらないくらい、髪の毛が血を吸って重くなっている。

 その傍らには、腕を奇怪な形に破壊されたガマガエルが倒れている。
 紀田勝義だ。

 この赤毛の男は、紀田と決闘をして、そして勝利を収めたらしい。
 決して合法な手段ではなかったが、それは純や祥とても同じ事である。

「酷い傷だ。貴方も早く病院へ行きなさい。そこに、貴方を待っている人がいるでしょう」

 祥は、杏子と雅人に何らかの関係があるものと判断して、そのように言った。
 彼も、それが誰を差しているのか察してくれただろう。

 祥はコックピットに戻り、ヘリコプターを上昇させた。
 二人を早く病院に連れてゆき、治療して貰わなければいけない。

 雅人は、見えているのかいないのか、その黒い機体が丑三つ時の夜空に消えてゆくのを見送っていた。

 その身体の下に、赤い水溜りが出来ている事に、祥は気付いただろうか。

 ヘリコプターが見えなくなってから、雅人はその場にどさりと倒れ込んだ。

 うつ伏せになった男の腰には、大きな孔が開いている。
 背骨が吹き飛び、内臓がなくなり、肉体の向こう側を覗かせるくらいの大きな孔だ。
 そこから大量の血がこぼれて、赤い水溜りを作っていたのだ。

 腹に風穴を開けられた雅人の傍に、ゆらゆらと、覚束ない足取りで歩み寄るものがあった。

 紫の、サテン生地のシャツを着た男。
 鉄のように引き締められた表情はなく、肉に剃刀を当てて作った傷を無理に開いた細い眼もなくなっているが、それは桃城達也であった。

 但しその全身に、太い血管が浮き出していた。
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