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第十二章 魔蛇の旋律
第十二節 無双騎士
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青蓮院純の〈クベラ〉装着プロセスは、腕部装着型通信機へのコード入力から始まる。
通信機のカバーを開くと、三つのボタンが並んでいる。これは左から順に、軍用装甲二輪車〈飛龍〉、並びに武装回転翼機〈瑞鳳〉の出動スイッチであり、右のボタンは〈クベラ〉装着の開始の合図となるスタータースイッチである。
通信機からの指令を受けて出動した〈瑞鳳〉は、純がスタータースイッチを作動させると、底部のハッチの展開と共に〇・五秒間に七三回の閃光を発する。これは純が〈クベラ〉を装着する際に妨害を防ぐ為だ。
閃光が周辺を照らしている間に、純は〈瑞鳳〉に向かって跳躍する。すると〈瑞鳳〉に待機状態で格納されていた〈クベラ〉が投下され、純の頭から覆い被さってゆく。
胸、肩、腕、脚――と、身体の外側を覆うように装着されるのは、特殊合金〈般若〉で形成された外装〈金剛〉である。〈金剛〉の内側には身体能力を向上させるギアやストロークを内包した特殊強化服〈比叡〉が収納されており、装甲の展開と共に純の身体を包み込む。
鰐をイメージしたヘルメットを被り、正面のカバーを上下に開くと純の長髪を包んで蛇腹状のネックガードが形成され、オレンジ色に光る吊り眼のゴーグルが姿を現す。
閃光がやむまでの間に青蓮院純は〈クベラ〉へと姿を変え、再び地上に降り立つのだった。
埠頭の倉庫街を一時的に昼間以上の明るさに照らし上げた白い闇が、ヘリコプターのローター音と共に薄れてゆく。
強烈な明度に視覚を責め立てられていた魔獣たちは、どうにか回復し、それでもまだぼやける視界に、コンテナの上に立つ蒼と銀の騎士を捉えていた。
「ほぅ……」
ガントリークレーンのレール上から、蛟は〈クベラ〉を見下ろした。
「三年前とは、少々趣が異なっているようですね」
蛟の言うように〈クベラ〉の形状は、アミューズメントホテル“SHOCKER”の屋上で初陣を飾った時とは姿が変わっている。
三年前は、全身を黒い装甲に包んでいたし、頭部や肩の主張が抑えられていた。
現在の〈クベラ〉は、強化服である〈比叡〉は黒いままだが、〈金剛〉部は蒼みがかった銀色が蒸着されてぎらぎらと輝いていた。ヘルメットも派手になり、肩が横に張り出している。
又、蛟は知らない事であるが、その脚部には小刀の刃が隠されていた。両腕のバーニアノズルも含め他にも多くの武装を、アップデートされた〈クベラ〉は内蔵している筈だ。
「だが、何であろうと関係ない。やりなさい、我が下僕たちよ! その鎧を鉄屑に変えてしまえ!」
蛟の号令で、魔獣たちが動き出した。
純はコンテナから飛び降りて、怪物たちの包囲網を抜け出した。
怪人たちは白銀の騎士を眼で追い、一斉に移動し始める。
〈クベラ〉は右腿のホルスターから拳銃を引き抜いて、一番槍を狙った怪物の頭部を容赦なく撃ち抜いた。
回転しながら射出された弾頭は、怪物の頭蓋骨に潜り込むと、返しを展開して停止。刹那、破裂して異形と化した頭部と、理性を失くした脳を爆散させた。
頭を丸ごと失った怪物が、その場に膝を折って崩れ落ちる。
仲間の死骸を飛び越えて、二体目の魔獣が襲い掛かった。
太く鋭い爪が、振り下ろされるのを、左腕でガードする。
現在の〈クベラ〉には、以前はあったシールドがない。しかし装甲の厚みが増えており、怪物の爪に傷一つ付けられる事はないのだ。
純は前蹴りで魔獣を吹き飛ばした。
サッカーボールのように宙を舞い、コンテナの側面に激突し、陥没させる怪物。
その間に、二体の怪人が〈クベラ〉の背後に左右から回り込んでいた。
純は、〈クベラ〉のヘルメットの中で、敵の位置を正確に把握している。ヘッドセットはそれ自体が大振りなセンサーとなっており、例え背後の敵でも察知して装着者に正確な居場所を教えるのである。
純は右側に振り向きつつ、一体の怪物の胴体を銃撃し、肘を翻して手の甲を腰に当てる形で二体目の魔物を撃ち抜いた。
右腕を後ろにやっている間に突進した怪物の頭を、左手で掴んで持ち上げると、身体の前面をコンクリートの地面に叩き付ける。
その背を踏み締めて、目視する事なく頭部に弾丸を発射した。
前蹴りで吹き飛んだものと、まだ〈クベラ〉に追い付いていなかった七体が合流し、〈クベラ〉から距離を取ってその周囲を囲む。
穿孔炸裂弾を撃ち込まれた三体が身体の一部を爆散させるのと、その八体が〈クベラ〉を一斉に攻撃するのは、同時であった。
通信機のカバーを開くと、三つのボタンが並んでいる。これは左から順に、軍用装甲二輪車〈飛龍〉、並びに武装回転翼機〈瑞鳳〉の出動スイッチであり、右のボタンは〈クベラ〉装着の開始の合図となるスタータースイッチである。
通信機からの指令を受けて出動した〈瑞鳳〉は、純がスタータースイッチを作動させると、底部のハッチの展開と共に〇・五秒間に七三回の閃光を発する。これは純が〈クベラ〉を装着する際に妨害を防ぐ為だ。
閃光が周辺を照らしている間に、純は〈瑞鳳〉に向かって跳躍する。すると〈瑞鳳〉に待機状態で格納されていた〈クベラ〉が投下され、純の頭から覆い被さってゆく。
胸、肩、腕、脚――と、身体の外側を覆うように装着されるのは、特殊合金〈般若〉で形成された外装〈金剛〉である。〈金剛〉の内側には身体能力を向上させるギアやストロークを内包した特殊強化服〈比叡〉が収納されており、装甲の展開と共に純の身体を包み込む。
鰐をイメージしたヘルメットを被り、正面のカバーを上下に開くと純の長髪を包んで蛇腹状のネックガードが形成され、オレンジ色に光る吊り眼のゴーグルが姿を現す。
閃光がやむまでの間に青蓮院純は〈クベラ〉へと姿を変え、再び地上に降り立つのだった。
埠頭の倉庫街を一時的に昼間以上の明るさに照らし上げた白い闇が、ヘリコプターのローター音と共に薄れてゆく。
強烈な明度に視覚を責め立てられていた魔獣たちは、どうにか回復し、それでもまだぼやける視界に、コンテナの上に立つ蒼と銀の騎士を捉えていた。
「ほぅ……」
ガントリークレーンのレール上から、蛟は〈クベラ〉を見下ろした。
「三年前とは、少々趣が異なっているようですね」
蛟の言うように〈クベラ〉の形状は、アミューズメントホテル“SHOCKER”の屋上で初陣を飾った時とは姿が変わっている。
三年前は、全身を黒い装甲に包んでいたし、頭部や肩の主張が抑えられていた。
現在の〈クベラ〉は、強化服である〈比叡〉は黒いままだが、〈金剛〉部は蒼みがかった銀色が蒸着されてぎらぎらと輝いていた。ヘルメットも派手になり、肩が横に張り出している。
又、蛟は知らない事であるが、その脚部には小刀の刃が隠されていた。両腕のバーニアノズルも含め他にも多くの武装を、アップデートされた〈クベラ〉は内蔵している筈だ。
「だが、何であろうと関係ない。やりなさい、我が下僕たちよ! その鎧を鉄屑に変えてしまえ!」
蛟の号令で、魔獣たちが動き出した。
純はコンテナから飛び降りて、怪物たちの包囲網を抜け出した。
怪人たちは白銀の騎士を眼で追い、一斉に移動し始める。
〈クベラ〉は右腿のホルスターから拳銃を引き抜いて、一番槍を狙った怪物の頭部を容赦なく撃ち抜いた。
回転しながら射出された弾頭は、怪物の頭蓋骨に潜り込むと、返しを展開して停止。刹那、破裂して異形と化した頭部と、理性を失くした脳を爆散させた。
頭を丸ごと失った怪物が、その場に膝を折って崩れ落ちる。
仲間の死骸を飛び越えて、二体目の魔獣が襲い掛かった。
太く鋭い爪が、振り下ろされるのを、左腕でガードする。
現在の〈クベラ〉には、以前はあったシールドがない。しかし装甲の厚みが増えており、怪物の爪に傷一つ付けられる事はないのだ。
純は前蹴りで魔獣を吹き飛ばした。
サッカーボールのように宙を舞い、コンテナの側面に激突し、陥没させる怪物。
その間に、二体の怪人が〈クベラ〉の背後に左右から回り込んでいた。
純は、〈クベラ〉のヘルメットの中で、敵の位置を正確に把握している。ヘッドセットはそれ自体が大振りなセンサーとなっており、例え背後の敵でも察知して装着者に正確な居場所を教えるのである。
純は右側に振り向きつつ、一体の怪物の胴体を銃撃し、肘を翻して手の甲を腰に当てる形で二体目の魔物を撃ち抜いた。
右腕を後ろにやっている間に突進した怪物の頭を、左手で掴んで持ち上げると、身体の前面をコンクリートの地面に叩き付ける。
その背を踏み締めて、目視する事なく頭部に弾丸を発射した。
前蹴りで吹き飛んだものと、まだ〈クベラ〉に追い付いていなかった七体が合流し、〈クベラ〉から距離を取ってその周囲を囲む。
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