超神曼陀羅REBOOT

石動天明

文字の大きさ
上 下
155 / 232
第十一章 復讐の盃

第十三節 天地の境で

しおりを挟む
 太陽を失くした空の色を、海が映している。
 仄かな月の光が、波立って盛り上がった水面を浮き彫りに、海上の闇を切り裂いた。

 波打ち際に、一人の男が立っている。
 体形に合っていない、ちょっとだぶついたスーツを身に着けたロングヘアの男だ。
 薄暗がりに、眼鏡のレンズが光っている。

 蛟――である。

 片手にアタッシュケースを下げており、白い砂と、濡れて土になった場所との境目を歩いていた。

 陸へ向かって歩くと、土手になっており、土手の上には柵が立てられていた。柵の向こうは駐車場になっていて、東屋が一つある。

 春と夏の境界にある時期、夜の海に近付く者はそうそういなかった。

 しかも、今、蛟が歩いているのは、ひと気が少ない場所である。ホテルの明かりまで、空の星とそう変わらない距離があるように思えた。

 その駐車場に、一台のワゴン車が滑り込んで来た。
 降りたのは五人の少年少女だった。

 車を運転していたのは、トシヒロである。
 その車は、ショーヘイのものだ。
 助手席には堀田椿姫が乗っていた。
 後部座席では、ショーヘイの家から海岸に到着するまでの暇潰しとして、キョウイチとルリカが抱き合っていた。

「ねぇ、待ってよぅ」

 濡れた声を出して、さっさと車から降りてしまうキョウイチと、二人に混ざっていたショーヘイを、ルリカが追う。

「まだパンツ穿いてないのにぃ」
「要らねぇだろパンツなんか」
「薬貰ったら、早速キメてみようぜ」
「おい、もたもたしてんなよ! ただでさえ遅れちまってるんだからな」
「――いた」

 ルリカの捲れ上がったミニスカートの下に手を入れて遊んでいるショーヘイとキョウイチを、トシヒロが急かす。すると柵から身を乗り出した椿姫が、海岸沿いを歩く男を発見した。

「おい、急げ! 行っちまうぞ」

 トシヒロが言って、少年たちは土手を駆け下り、蛟の傍まで近付いた。
 蛟がそれに気付き、振り向く。

 天地の境で首を傾けた青年の姿は絵画のようで、五人の少年たちはその美しさに見惚れてしまいそうになった。

「すんません、遅くなっちゃって……もう、残ってないすか?」

 トシヒロが訊いた。

 この日、水門市内に幾つかある不良グループに、その筋から連絡があり、池田組が壊滅した事と、それに伴って“アンリミテッド”の在庫処分としてこれを格安で提供するという情報が駆け巡った。

 トシヒロたちも、そのグループの一つである。

「ありますよ。二人分だけしか残っていませんが」

 蛟はアタッシュケースを広げ、アンプルの入った箱を二つ、取り出した。
 蛟は“アンリミテッド”の摂取方法を、マリンタワーで若者たちに教えた時と同じように語った。
 その話を、トシヒロたちはわくわくと眼を輝かせながら聞いていた。

 ただ――椿姫だけは、何となく浮かない表情をしている。

「――では、何か質問はありますか?」
「……あの」

 椿姫が言った。

「この薬……“アンリミテッド”。昔は勝義会って所が売ってたと思うんですけど、どうして池田組が売るようになったんですか?」

「何だよリリカ。そんな事訊いて、どうするんだ?」

 椿姫は、仲間内ではリリカという名前で通っている。

「勝義会が潰れたからですよ。貴方たちは……見た所、まだ若いから、三年前の事は余り詳しくないでしょう。それでも、元々勝義会と池田組が対抗していた事は知っていますね。勝義会が潰れ、彼らが持っていた様々な利権が池田組の手に渡った。その中に“アンリミテッド”の売買に関するルートもあった、という事です」

 勝義会崩壊の原因が、美野秋葉への監禁・暴行を始めとする様々な悪行が、芋づる式に表沙汰になった事であるというのは、彼らも知っている。

 リリカがそれを分からない筈はない。
 しかし、椿姫は仲間たちに訝られる事も承知で、質問せねばならなかった。

「さっき言っていた“アンリミテッド”の効果……えっと、アバ……」
「アヴァタール現象」
「それって人間を、変身、させるものなんですよね」
「そうです」
「人間じゃない姿に……」
「ええ」

 その変身能力を得て、他の不良グループを一掃するというのが、各グループの目的であった。トシヒロたちは、それとは少し違う目的で“アンリミテッド”を欲していたが。

「でも、この三年間、そういう話は聞かなかったと思うんです。それまでも“アンリミテッド”は売られていた筈なのに。どうしてでしょうか?」

「ああ、そう言えば」

 椿姫の問いを傍で聞いていて、トシヒロたちはその疑問にぶち当たった。
 蛟はレンズの下で、眼を細めた。椿姫が、トシヒロたちとは違う事に気付いている。

 その時だった。

「あッ!?」

 キョウイチが声を上げ、海の方を指差した。
 一同が眼を向けると、海から陸を目指してやって来る、人のシルエットがあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】やがて犯される病

開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。 女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。 女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。 ※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。 内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。 また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。 更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

エッチな下着屋さんで、〇〇を苛められちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*) 『色気がない』と浮気された女の子が、見返したくて大人っぽい下着を買いに来たら、売っているのはエッチな下着で。店員さんにいっぱい気持ち良くされちゃうお話です。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

彼女の母は蜜の味

緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…

連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)   「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」 久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

処理中です...