超神曼陀羅REBOOT

石動天明

文字の大きさ
上 下
118 / 232
第九章 野獣の饗宴

第四節 正義の萌芽

しおりを挟む
 純は、祥に呼ばれて店から出た。
 店の前には祥が運転するらしい青い軽自動車が停められており、純はその後ろに乗り込んだ。

 それを見送り、店内に戻りざま、玲子が言った。

「綺麗な人でしたねぇ。里美さん、ライバル出現ですよ! ……なんちゃって」
「ライバル? やぁね、違うわよ、あの人は。祥さんは、純くんの、お家の……見ての通り執事さんよ」

 とは言うが、何となく里美の歯切れは悪かった。しかしそれは、玲子の発言を意識してのものではない。

「執事! へぇ、青蓮院くんって、やっぱりお坊ちゃまなんですか? そう言えば、何処に住んでるのかとか、聞いた事ないけど……若しかして、何処ぞの御曹司だったりします? 里美さん、勝ち組だなぁ」
「うぅん……」

 里美は巧く説明する言葉を見付けられず、結局は玲子の勝手な思い込みにさせるままにした。そうして、話題をすり替える。

「それより、篠崎くんの事だけど」

 途端に、玲子の顔が曇り始めた。

 篠崎治郎の事だ。
 玲子の幼馴染みであり、純の同級生である、空手部に所属する少年だ。

 里美はその場にいた訳ではないが、聞いた話では、治郎は稽古中に学部の長田という男子学生に暴行を働き、これを止めようとした他の部員にまで危害を加えて、学校から失踪したという。

 それが、空手部が活動停止になっている理由である。
 その場を収めたのが純であり、純を呼んだのが玲子であるという事だ。

「お家にも帰っていないの? 彼……」
「いえ、一度、帰った痕跡はあるんです。でも、昨日今日と丸二日……」
「心配ね……」

 里美も、治郎がそのような凶行に走った経緯は、玲子から聞いていた。とは言え、それは里美にも玲子にも、納得し得るものではなかった。

 池田組のチンピラ三人に囲まれ、ノックアウトされた。
 その直前に、空手の大会の祝勝会で長田に飲まされた酒が、原因だった。
 だから長田に暴力を振るった。

 そして姿を消した理由は、

「治郎くんならきっと、あいつらにやり返そうとすると思います」
「だから、いなくなったって事? まさか」
「いえ、昔……小学生の頃ですけど、治郎くん、自分を虐めた相手を待ち伏せして、一人でボッコボコにしちゃった事があるんです。多分、それと同じ事を……」

 理論立てられていると言えばそうだが、それを実行しようとするとなると、多くの人は何処かで理性のストップを掛ける。

「昨日は警察にも行ったんですよ。でも、相手にもされなくて……」

 水門市の警察は、池田組と勝義会の冷戦状態を崩すのを恐れて、彼らの関わる事件に対して及び腰になっている。

 だから、仮に治郎が、玲子の想像通り池田組に乗り込んで、あの三人に復讐をしようとして、その結果返り討ちに遭ってしまったとしても、それは表沙汰にならないであろう。

「やっぱり、今のままじゃ駄目ですよね」
「え?」
「警察ですよ! 池田組でも勝義会でも、のさばらせてるのは結局、警察が動いてくれないからじゃないですか。だから、私、決めたんです。私、あいつらをぶっ潰す為に警察に入ります。それで、絶対、今の状況を変えてやるんです」

 鼻息荒く、玲子は語った。
 その脳裏に浮かんでいるのは、あの男の事である。

 地に伏した治郎と、怯えるばかりだった玲子の前に立ちはだかり、相手のバックボーンを理解しつつも欠片の恐怖も見せる事なく、寧ろ不敵な笑みと共に挑発した赤毛の巨漢。

 彼が見せた正義感こそ、本来ならば警察官に備わっているべきものであると、玲子は思った。

 特に、昨日の放課後、自分をあしらった警官の態度を思い出すと、益々あの明石という男の方が、法を守り、人を守るに値する人間に相応しいよう見えるのだ。

「そう……立派ね、玲子ちゃん」

 里美も亦、水門市の現状を憂う一人である。

 勝義会が売りさばいている麻薬“アンリミテッド”の為に、親友の堀田百合が昏睡状態にあるからだ。お陰で、百合の妹の椿姫も不良グループと付き合うようになってしまった。

「応援するわ。私には、それしか出来ないから……」

 里美は、自分より遥かに精神的な逞しさを持つ玲子を、年下ながら憧憬を込めた眼で見つめた。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

処理中です...