超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第八章 青春の終わりと始まり

第十節 異常耐久

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 小川は床から降りると、一枚だけ敷かれた畳の上に正座させられている治郎に近寄り、その頭部を蹴り付けた。

 治郎からすれば、視界が半ば封じられていても、気配だけで避けられる蹴りである。
 だが、両手足を縛られている状態では、それを回避する事が出来なかった。

 頬が歪み、切れた唇の間から白っぽいものを飛び出させながら、横に倒れる。

 治郎の髪を掴んで、木原が引き起こすと、小川は更に蹴りを浴びせた。
 顔の中心に、踵を叩き付けてやる。
 元から鼻の軟骨は潰れていたのだが、鼻先が曲げられてしまう。

 鼻を指で摘ままれ、左右にねじられると、開いた鼻孔から引き剥がされた粘膜がこぼれ出す。

 小川は治郎の顔を左手で掴んで、畳に仰向けにしてやると、唇に指を突っ込んで上下に開かせた。

 歯が、半分以上なくなっている。
 口臭が血の匂いであった。

「俺にその気があれば、てめぇの口にチンポを突っ込んでやる所だぜ」

 無理矢理そうされても、ペニスを噛んで抵抗するというような事が出来ないから、である。

 小川の冗談を受けて、木原と井波がげらげら笑った。

「“ハードコアうちの店”で働かせてやりましょうよ」
「そういう手合いも、いない事はないでしょうぜ」

 小川の舎弟二人も、そんな事を言った。
 治郎は、特別に何かを言うような事はしなかった。

 元から表情の変化に乏しい少年だが、顔を腫れ上がらせている今、益々以てその感情が外側に伝わって来ない。

 それにしたって、ここまでされれば、命乞いの一つや二つはする筈である。
 言葉にしなくとも、その態度から、それ以上の暴行をやめて欲しいといった類の感情は、見て取れるに決まっていた。

 治郎には、それがない。
 それがないから、小川は苛立ってしまう。

 小川は治郎の剥き出しの腹に、革靴を叩き付けた。
 ぐりぐりと踏み躙り、痛みを与えてやろうとする。

「この小僧! 思い上がりやがって。加瀬と島田をやって調子に乗っていたみたいだが、所詮、てめぇなんてのはこの程度だ。俺たちがその気になれば、てめぇの命なんて蟻ンこみたいなモンなんだぜ。虫けらみたいに、踏み潰してやる!」

 小川は治郎を蹴り飛ばした。
 畳から転がして、その頭や胸や肩や脚に、何度も蹴りを打ち下ろしてゆく。

 木原と井波は、初めは笑っていたのだが、しかしやはり、治郎が何も言わないのが不穏であった。

 悲鳴を掻き消される程の暴行を受けてはいるが、それでも、助かろうという意思を全く見せないのは変だ。

 こういう事になっても、自分のプライドを捨てて謝り倒しもせず、自身の行ないを後悔しないような人間は、ヤクザであっても珍しい。余程、昔気質の、異常なまでの耐久力を持っていなければならないだろう。

「そこまでじゃ、小川」

 池田が低く言った。
 小川は、物足りないという顔をしたが、池田享憲には逆らえない。

 池田が床から降りようとする気配を見せたので、木原が素早く草履を取り出し、池田の足元にそっと並べた。
 草履を履いた池田が、治郎に歩み寄った。

「よぅ耐えよるわ」

 まだ不満そうな小川を下がらせ、治郎を見下ろす池田。
 治郎は、歯のない口を、唇の間に血の唾液で橋を作りながら開いた。

「これ……が、し、け、ん……か」
「試験? どういう事です、組長」

 治郎の声には、抜けた歯の間を駆ける擦過音が混じっていた。又、咽喉に絡んだ血が、空気が震えるたびに粘ついて、聞き取り難い。

 小川は何とかその言葉を聞き取って、疑問を投げ掛けた。

「ああ、お前は寝ておったのか。左様、試験じゃ。こ奴が、我が池田組の選手として相応しいかどうかの、な」
「選手!? すると、あの暗黒プロレスにこの小僧を……本気ですか、組長!」
「先ほども言うたろう。こ奴の蹴りは本物じゃ。あの紀田勝義をたじろがせおった」
「ですが、既に我々の選手は決まっておりますが……」
「それも分かっておる。その上で、こ奴にその資格があるか、試しておるのよ。それにしても、これだけ痛め付けられて置いて、泣き言の一つも言わなんだ。痛みへの耐性は生半なものではない。いや、ひょっとすると単に鈍いだけやもしれぬがな」

 池田享憲は愉快そうに話すのだが、その眼は一つも笑っていない。
 冷たい光が、眼鏡の奥から治郎の全身を舐め回している。

「では、治郎――次の試験を突破すれば、お前を我が組に迎え入れよう。準備をせい」

 三人には戸惑いが残っていたが、池田享憲がそう言うのであればそれに従わなければならない。極道とはそういうものだ。

 治郎は、血を絡めた眼で、池田享憲を睨み付けていた。
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