超神曼陀羅REBOOT

石動天明

文字の大きさ
上 下
107 / 232
第八章 青春の終わりと始まり

第七節 悪への憧れ

しおりを挟む
 荒巻健吾は、高校を卒業してすぐに工場に就職した父と、職場で知り合って結婚した母との間に生まれた。

 父は、自分には人に誇れるような学歴がないと、コンプレックスを抱いていた。
 初めは、息子には自分と同じで勉学の才能がないと思っていたのだが、小学校に入って健吾が優秀な部類の人間であると知ると、教育に熱心になった。

 家庭教師を何人も雇ったり、良い塾に通わせたりして、勉強で成功して欲しいと願うようになった。

 学歴で言うと、母親も大したものではなかったらしい。夫のやり方は少々度が過ぎているのではないかと思ったものの、特に大きな反抗はしなかった。

 何より、健吾自身、その生活が苦しいとは思わなかった。

 勉強は嫌いではなかった。特に、家庭教師や塾の先生からは、学校で習っているよりも先の内容を学ぶ事が出来たので、クラスでは秀才扱いを受ける事が出来た。

 身体能力も高く、勉強でも運動でもトップであった。

 しかし、いつ頃からか、その知識を吸収する力の成長が頭打ちになり、秀才は凡才へとなり下がってしまう。
 中学に上がると成績ががくんと落ちて、テストで赤点を取り、居残りをさせられる事もあった。

 父親は落胆するよりも、健吾を叱った。
 まだ、健吾に才能があると信じ込んでいたらしい。

 健吾は母親に助けを求めたが、母も父の言う事には逆らわず、健吾が訳もなく怠けるようになったと思っていた。

 もっと頑張れ、もっと努力しろ、お前には才能がある、有名な高校に入って、東京の大学へゆき、大企業で成功して金持ちになれる――

 両親から押し付けられる期待に、健吾はストレスで発狂してしまいそうになっていた。

 だが、両親を嫌いになる事が出来ない性格であった為、反抗する事が出来ず、ストレスを内側に抱え込んでしまっていた。

 そんな頃に、クラスメイトだったユウジに誘われたのだ。

 ユウジとは小学生の頃からの知り合いであった。
 家に、遊びに行った事もある。何人かの同級生と、一緒にゲームをした。

 だが健吾は、親が心配するからという理由で、他のクラスメイトたちよりも早く家に帰らなければいけなかった。

 何処となく、他の子たちとの間に距離を感じていた。

 そのユウジが、健吾に優しい言葉を掛けて、悪い道に引き込もうとしたのである。

“煙草は吸った事があるか?”
“酒を飲んでみろ。旨いぞ”
“見ろ、このピアス。格好良いだろう”

 髪を金色に染め、学ランを改造し、何人もの女の子たちと関係を持ち、年上の先輩と対等に付き合っているユウジが、健吾にとっては堪らなく自由で、格好良い男に見えた。

 健吾は、ユウジのファッションや言動を真似したかったが、親はそれを嫌がるであろうと考えてなかなか踏み出せなかった。

 そんな頃に、彼に誘われ、早朝に家を出て、ホームレス狩りをやってみないかと言われたのだ。
 霧にけぶる町を歩き、待ち合わせ場所へゆくと、そこにはケイトもいた。

 ケイトは、クラスでも煙たがられていた。
 美人だ。
 しかし真面目ではない。

 援助交際をやっている。
 頼めばやらせてくれる。
 学校にずっといられるのは、先生たちと寝ているからだ。
 PTA会長は、彼女とSEXをしている。

 そういう噂があった。

 だが、真面目一辺倒で生きて来た健吾には、自由奔放なケイトに対する憧れがあった。

 彼女がフクさんとキスを……しかも、舌を入れて唾を交換するような口づけをしているのを見て、健吾は寧ろ興奮した。

 自分の……と、言うよりは、両親から教えられた社会通念とは、真逆にあるものだ。

 ユウジと付き合うようになってから、その両親に対して抱いていた懐疑的な念が、ケイトの淫らな声を聞いて確信に変わった。

 それでも、土壇場に至るまでは、ホームレス狩りという行為への躊躇いがあった。
 人を、激しく傷付ける事。
 下手をすれば、“先輩”たちは殺す事まで視野に入れているかもしれない。

 人を殺す――

 未成年の分際で酒を飲んだり煙草を吸ったり、既婚者と寝たりするのとは、異なる次元の話である。

 健吾は、自分が信じるユウジを信じて、自身に暗示を掛け、漸く手渡された角材を使う事が出来た。

 そして一度、人の頭を殴ろうと決意すると、これが射精する程、気持ち良い。
 全身の血液が一瞬で凍て付き、次の瞬間、暴力的な衝動によって沸騰する感覚。

 それを邪魔されると、怒りのようなものが激しく湧き出して、堪え切れなくなった。
 その感覚に身を委ねてしまっていたらと思うと、ぞっとする。

 罪を犯した事実は消えないが――それでも、自分の精神が向こう側へゆく事は、なかった、と思う。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...