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第四章 戦いの狼煙
第六節 だ、ま、れ
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ケイトは治郎に向かって腰を突き出し、雄汁で濡れた指で自身を割り開きながら言った。
これに、治郎は少し苛立ちを覚えた。
治郎に女が話し掛ける時、それは基本的に、自分を莫迦にする時だ。
眼付きが悪くて気持ちが悪い。
勉強が出来ない様子が苛々させる。
他の皆と協調出来ない所為でその場の雰囲気が悪くなる。
これらを理由に治郎を悪者に仕立て上げて、嘲弄し、侮蔑する。
女たちにとって、治郎は精神的なサンドバッグ以上の価値を持っていない事を、治郎は知っている。
だが、だからと言って女を積極的に殴るような事は、治郎はしなかった。
「そうだ、お前も来いよ!」
「このビッチは誰にでも股を開くんだぜーっ」
「お前、さては童貞だなァ。こんな中古女で良ければくれてやるよ!」
「それともインポか? おチンチン付いてないのかぁ?」
「――だ、ま、れ」
治郎は漸く口を開いた。
今の自分にないのは、片方のきんたまだけだ。インポテンツでもないし、チンチンも付いている。
しかし我慢の限界だった。いや、そもそも治郎に、他者から莫迦にされる事に対して湧き上がる感情を我慢するという考えは、存在しない。
四人の男と一人の女は、漸く治郎が口を開いた事で一旦言葉を区切ったが、すぐに腹を抱えて笑い始めた。
「だ、ま、れ、だってさ!」
「格好付けやがって」
「もっとスムーズに話せねぇのかよ!」
「だ・ま・れ……どう? 似てる?」
「似てるーっ! めっちゃキモイよねぇ」
治郎が立ち上がった。
少しは塞がっていた傷口が開き、血をこぼし始めた。
治郎が自分たちに近付いて来るのを見て、男たちはひゅーっと口笛を吹いた。
「おおっと、やる気かぁ?」
「喧嘩なら敗けねーぜ」
「行くぜぇ、ふぅーっ!」
「しゅっ、しゅっ、ほーら、ジャブ、ジャブ、右ストレートぉ」
「良いぞォヤスヒロ!」
キックボクシングの真似事みたいに両手を持ち上げて、下手なダンスを踊る男たち。
治郎は、ジャブのモーションをしたヤスヒロの左手に向かって、右脚を鞭のようにしならせた。
大きな破裂音と共に、ヤスヒロの手首があらぬ方向に曲がっていた。
「あれ……」
手の甲が腕に付くくらいに曲げられた痛みに気付くより早く、治郎の拳がヤスヒロの意識を奪っていた。
治郎の左の正拳は彼の頬に直撃し、頬骨を砕きつつ脳を揺さ振った。ヤスヒロの頭が右側に倒れるのだが、身体は左側に折れて地面に激突した。
「う、うわぁっ!?」
喧嘩なら敗けない、そう言っていた男が治郎に掴み掛った。
「よ、よせ! カズキ!」
治郎はカズキの両手を掻い潜って一歩踏み出し、右手を鋭く突き出した。
拳から飛び出した人差し指と中指が、カズキの鼻孔に根元まで喰い込んでいた。
カズキは、「かぅっ」と妙な声を上げて、白眼を剥いて両膝をぴんと張った。治郎が血濡れた指を引き抜くと、受け身も取らずに後頭部からばたりと倒れた。
ヨシオは、コンビニで買った焼き鳥の串を持って、治郎に襲い掛かって来た。
治郎はその手を掴んでひねりつつ、相手の足の甲に向かって踵を落とした。
ヨシオが履いていたのは革靴だったが、治郎の踵はそのくらいの硬さなら平気で貫通してしまう。若しかすると足の骨が折れたかもしれない。痛みに腰を丸めたヨシオの口の中に、治郎によって腕をねじられた事で、持っていた串の先端が飛び込んだ。
ヨシオの頬から、赤いソースを絡ませた串の先端が生えている。治郎は相手の頭を掌で抑え付けると、手首を掴んだ手をぐっと手前に引き寄せた。
ぶぢっ、という音が連鎖して、焼き鳥の串が、ヨシオの頬を引き裂いて解放された。彼の唇の片方は、口裂け女のように頬の中頃までばっくりと開く事が出来るようになったみたいだ。
「ひ……人殺しィ!」
ケイトがじょろじょろと小便を漏らしながら叫んだ。さっきまで上気していた肌が、ひん剥かれたように蒼白くなっている。
残ったユウジは、仲間たちを置いて、逃げ出した。
だが治郎が積極的に追って来ないのを知ると立ち止まり、振り向いた。
「こ、この野郎……よくもやってくれやがったな……こ、こいつで、痛い目に遭わせてやる……」
ユウジは、萎びた逸物を垂らしたズボンのポケットから箱を取り出した。箱を開くと、注射器とアンプルが入っている。
治郎はそのアンプルに見覚えがあった。
池田組が売買していた麻薬の容器が、あんなものだった。
恐らく本当は、その薬液を同梱されていた注射針で体内に取り込むものなのだろうが、ユウジはアンプルを引き千切ると、口に含んで中身を飲み干してしまった。
怪訝そうな顔をする治郎の前で、アンプルの中身――“アンリミテッド”を経口摂取したユウジの身体に異変が現れ始めた。
これに、治郎は少し苛立ちを覚えた。
治郎に女が話し掛ける時、それは基本的に、自分を莫迦にする時だ。
眼付きが悪くて気持ちが悪い。
勉強が出来ない様子が苛々させる。
他の皆と協調出来ない所為でその場の雰囲気が悪くなる。
これらを理由に治郎を悪者に仕立て上げて、嘲弄し、侮蔑する。
女たちにとって、治郎は精神的なサンドバッグ以上の価値を持っていない事を、治郎は知っている。
だが、だからと言って女を積極的に殴るような事は、治郎はしなかった。
「そうだ、お前も来いよ!」
「このビッチは誰にでも股を開くんだぜーっ」
「お前、さては童貞だなァ。こんな中古女で良ければくれてやるよ!」
「それともインポか? おチンチン付いてないのかぁ?」
「――だ、ま、れ」
治郎は漸く口を開いた。
今の自分にないのは、片方のきんたまだけだ。インポテンツでもないし、チンチンも付いている。
しかし我慢の限界だった。いや、そもそも治郎に、他者から莫迦にされる事に対して湧き上がる感情を我慢するという考えは、存在しない。
四人の男と一人の女は、漸く治郎が口を開いた事で一旦言葉を区切ったが、すぐに腹を抱えて笑い始めた。
「だ、ま、れ、だってさ!」
「格好付けやがって」
「もっとスムーズに話せねぇのかよ!」
「だ・ま・れ……どう? 似てる?」
「似てるーっ! めっちゃキモイよねぇ」
治郎が立ち上がった。
少しは塞がっていた傷口が開き、血をこぼし始めた。
治郎が自分たちに近付いて来るのを見て、男たちはひゅーっと口笛を吹いた。
「おおっと、やる気かぁ?」
「喧嘩なら敗けねーぜ」
「行くぜぇ、ふぅーっ!」
「しゅっ、しゅっ、ほーら、ジャブ、ジャブ、右ストレートぉ」
「良いぞォヤスヒロ!」
キックボクシングの真似事みたいに両手を持ち上げて、下手なダンスを踊る男たち。
治郎は、ジャブのモーションをしたヤスヒロの左手に向かって、右脚を鞭のようにしならせた。
大きな破裂音と共に、ヤスヒロの手首があらぬ方向に曲がっていた。
「あれ……」
手の甲が腕に付くくらいに曲げられた痛みに気付くより早く、治郎の拳がヤスヒロの意識を奪っていた。
治郎の左の正拳は彼の頬に直撃し、頬骨を砕きつつ脳を揺さ振った。ヤスヒロの頭が右側に倒れるのだが、身体は左側に折れて地面に激突した。
「う、うわぁっ!?」
喧嘩なら敗けない、そう言っていた男が治郎に掴み掛った。
「よ、よせ! カズキ!」
治郎はカズキの両手を掻い潜って一歩踏み出し、右手を鋭く突き出した。
拳から飛び出した人差し指と中指が、カズキの鼻孔に根元まで喰い込んでいた。
カズキは、「かぅっ」と妙な声を上げて、白眼を剥いて両膝をぴんと張った。治郎が血濡れた指を引き抜くと、受け身も取らずに後頭部からばたりと倒れた。
ヨシオは、コンビニで買った焼き鳥の串を持って、治郎に襲い掛かって来た。
治郎はその手を掴んでひねりつつ、相手の足の甲に向かって踵を落とした。
ヨシオが履いていたのは革靴だったが、治郎の踵はそのくらいの硬さなら平気で貫通してしまう。若しかすると足の骨が折れたかもしれない。痛みに腰を丸めたヨシオの口の中に、治郎によって腕をねじられた事で、持っていた串の先端が飛び込んだ。
ヨシオの頬から、赤いソースを絡ませた串の先端が生えている。治郎は相手の頭を掌で抑え付けると、手首を掴んだ手をぐっと手前に引き寄せた。
ぶぢっ、という音が連鎖して、焼き鳥の串が、ヨシオの頬を引き裂いて解放された。彼の唇の片方は、口裂け女のように頬の中頃までばっくりと開く事が出来るようになったみたいだ。
「ひ……人殺しィ!」
ケイトがじょろじょろと小便を漏らしながら叫んだ。さっきまで上気していた肌が、ひん剥かれたように蒼白くなっている。
残ったユウジは、仲間たちを置いて、逃げ出した。
だが治郎が積極的に追って来ないのを知ると立ち止まり、振り向いた。
「こ、この野郎……よくもやってくれやがったな……こ、こいつで、痛い目に遭わせてやる……」
ユウジは、萎びた逸物を垂らしたズボンのポケットから箱を取り出した。箱を開くと、注射器とアンプルが入っている。
治郎はそのアンプルに見覚えがあった。
池田組が売買していた麻薬の容器が、あんなものだった。
恐らく本当は、その薬液を同梱されていた注射針で体内に取り込むものなのだろうが、ユウジはアンプルを引き千切ると、口に含んで中身を飲み干してしまった。
怪訝そうな顔をする治郎の前で、アンプルの中身――“アンリミテッド”を経口摂取したユウジの身体に異変が現れ始めた。
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