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第四章 戦いの狼煙
第三節 剣の舞
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薄暗い空間に、白い裸身が浮かび上がっている。
肌が白い。
氷を人間の形に削ったような、冷たい白さがあった。
骨格に沿って、筋肉が引き締まるように張り付いている。
格闘技をやっている人間からすれば、華奢に見えるだろう。
陸上選手や水泳選手と異なり、格闘家は筋肉の上に脂肪を残す事を旨としている。
その方が、攻撃を喰らった時に衝撃を逃がし易いからだ。
ボクサーやトータルファイター以上に、パフォーマンスとして攻撃を受けなければならないプロレスラーを見れば分かる。どれだけ小柄だとか、細身だとか言われていても、軽やかな空中殺法をしてみせても、女のように綺麗な顔立ちの善玉でも、頸は太いし、胸は分厚いし、四肢ががっしりとして、量の多少はあっても脂肪を被せている。筋肉と脂肪の鎧がなければ、戦いのエンターテイナーはやっていられない。
そういう人間からすれば、その白い身体には脂肪がなさ過ぎた。
けれども脂肪がないからと言って、やたらと筋肉を膨らませている訳ではない。
ボディビルダーのように、必要以上にウェイトトレーニングをやり、利尿剤まで使って脂肪を水分や塩分と共に抜いてしまうような事も、していない。
ただナチュラルに鍛え、身体の内側へ向けて力を収束させているように見えた。
長い黒髪を、頭の上で束ねている。
遠巻きには瞑っているように見える瞼は、近付いてみれば蒼い瞳を覗かせていた。
赤い唇の左右は、上を向いているようにも平坦なようにも見えたが、少なくとも下がってはいない。
青蓮院純であった。
右手に、白木の柄の日本刀を抜き身で持っている以外には、何も身に着けていない。
白いうなじも、胸板も、なだらかな肩も、長い手足も、艶やかな尻も、全てを曝け出していた。
ただその下腹部に、男ならばあるべきものがない。
ペニスも陰嚢も、純の脚の付け根の間に存在していなかった。
「――始めて下さい」
純の声が、その場に響く。
刹那、純の頭部に向かって何かが飛来した。
純はそれに対し、左足を右後ろに引きながら剣を持ち上げ、両手で柄を握り、袈裟懸けに振り下ろした。
ぱす――と、サイレンサーを装着した発砲音にも似た調べと共に、刀身が飛来物をすり抜けた。
飛来したのは、先端が尖った青竹の筒であった。
成長して硬さがピークにある青竹を伐採し、更に細かく切り分けたものだ。
青竹は反対側の壁にぶつかると、そこで初めて二つに分断された。
伐採される時、斜めに鉈を入れられたらしい。純の剣は、飛来した竹を等分にした。
純は刀を身体の脇に垂らすと、竹筒が発射されてから反対側に辿り着くまでの音によって、大リーグ投手級の速度を発揮した事を観測した。
続いて今度は、純の背中から同じ竹筒が飛来した。
地面と平行にではなく、斜め上からだ。
純は右側に回転し、刀を斜めに跳ね上げた。
今度は先端から反対側まで、竹を縦半分に切り落とした。
次は、足元を狙われた。
振り上げた剣を斜めに振り下ろし、アキレス腱に突き刺さらんとした竹を掬い上げるように分断する。
その次は斜め下から発射された。
これに対して両手で握った剣を打ち下ろし、縦に二分する。
三つが同時に発射された。
狙ったのは、純のうなじ、右の脇腹、左の太腿だ。
純は脇腹に迫ったものに対し、剣を跳ねさせた。だが今度は、それまでのように切断には至らなかった。剣に弾かれて、くるくると回転しながら上昇してゆく竹筒。
これがうなじを狙った竹筒にぶつかって、高く跳ね上げる。
竹を打ち上げた剣に身体の正面を斜めに通らせて、太腿に触れそうになった竹に突き刺すと、天井に打ち上げられて落下して来る二つと重ねるように持ち上げ、纏めて両断した。
その次は五つだった。
脳天を狙って二つ。
足の甲を狙うように一つ。
肛門と背中を狙う二つ。
純は低いジャンプをしつつ刀を振るう力で身体を横に回転させる。
下方向に弧を描く斬撃で三つを切り裂くと、背中に向かって来た筒を刀身で絡め取り、脳天を襲った筒にぶつけてやった。
一瞬、二つの筒が、一本の竹の姿を取り戻す。
純はこれに対して袈裟懸け、逆袈裟、それぞれ一太刀ずつ浴びせ、四つの竹筒を作り出した。
例え同時に全方向から何本の竹筒が飛翔しようとも、全て断ち切ってしまいそうであった。
それが分かったからか、今度は趣の異なる竹が、純に狙いを定めた。
太い。
長い。
筋肉質な男の腕くらいはある、二メートル弱の、先端を尖らせた青竹が、純に向かって突き出された。
純は刀を大上段に構えると、右足で踏み込みつつ諸手で唐竹に振り下ろした。
肌が白い。
氷を人間の形に削ったような、冷たい白さがあった。
骨格に沿って、筋肉が引き締まるように張り付いている。
格闘技をやっている人間からすれば、華奢に見えるだろう。
陸上選手や水泳選手と異なり、格闘家は筋肉の上に脂肪を残す事を旨としている。
その方が、攻撃を喰らった時に衝撃を逃がし易いからだ。
ボクサーやトータルファイター以上に、パフォーマンスとして攻撃を受けなければならないプロレスラーを見れば分かる。どれだけ小柄だとか、細身だとか言われていても、軽やかな空中殺法をしてみせても、女のように綺麗な顔立ちの善玉でも、頸は太いし、胸は分厚いし、四肢ががっしりとして、量の多少はあっても脂肪を被せている。筋肉と脂肪の鎧がなければ、戦いのエンターテイナーはやっていられない。
そういう人間からすれば、その白い身体には脂肪がなさ過ぎた。
けれども脂肪がないからと言って、やたらと筋肉を膨らませている訳ではない。
ボディビルダーのように、必要以上にウェイトトレーニングをやり、利尿剤まで使って脂肪を水分や塩分と共に抜いてしまうような事も、していない。
ただナチュラルに鍛え、身体の内側へ向けて力を収束させているように見えた。
長い黒髪を、頭の上で束ねている。
遠巻きには瞑っているように見える瞼は、近付いてみれば蒼い瞳を覗かせていた。
赤い唇の左右は、上を向いているようにも平坦なようにも見えたが、少なくとも下がってはいない。
青蓮院純であった。
右手に、白木の柄の日本刀を抜き身で持っている以外には、何も身に着けていない。
白いうなじも、胸板も、なだらかな肩も、長い手足も、艶やかな尻も、全てを曝け出していた。
ただその下腹部に、男ならばあるべきものがない。
ペニスも陰嚢も、純の脚の付け根の間に存在していなかった。
「――始めて下さい」
純の声が、その場に響く。
刹那、純の頭部に向かって何かが飛来した。
純はそれに対し、左足を右後ろに引きながら剣を持ち上げ、両手で柄を握り、袈裟懸けに振り下ろした。
ぱす――と、サイレンサーを装着した発砲音にも似た調べと共に、刀身が飛来物をすり抜けた。
飛来したのは、先端が尖った青竹の筒であった。
成長して硬さがピークにある青竹を伐採し、更に細かく切り分けたものだ。
青竹は反対側の壁にぶつかると、そこで初めて二つに分断された。
伐採される時、斜めに鉈を入れられたらしい。純の剣は、飛来した竹を等分にした。
純は刀を身体の脇に垂らすと、竹筒が発射されてから反対側に辿り着くまでの音によって、大リーグ投手級の速度を発揮した事を観測した。
続いて今度は、純の背中から同じ竹筒が飛来した。
地面と平行にではなく、斜め上からだ。
純は右側に回転し、刀を斜めに跳ね上げた。
今度は先端から反対側まで、竹を縦半分に切り落とした。
次は、足元を狙われた。
振り上げた剣を斜めに振り下ろし、アキレス腱に突き刺さらんとした竹を掬い上げるように分断する。
その次は斜め下から発射された。
これに対して両手で握った剣を打ち下ろし、縦に二分する。
三つが同時に発射された。
狙ったのは、純のうなじ、右の脇腹、左の太腿だ。
純は脇腹に迫ったものに対し、剣を跳ねさせた。だが今度は、それまでのように切断には至らなかった。剣に弾かれて、くるくると回転しながら上昇してゆく竹筒。
これがうなじを狙った竹筒にぶつかって、高く跳ね上げる。
竹を打ち上げた剣に身体の正面を斜めに通らせて、太腿に触れそうになった竹に突き刺すと、天井に打ち上げられて落下して来る二つと重ねるように持ち上げ、纏めて両断した。
その次は五つだった。
脳天を狙って二つ。
足の甲を狙うように一つ。
肛門と背中を狙う二つ。
純は低いジャンプをしつつ刀を振るう力で身体を横に回転させる。
下方向に弧を描く斬撃で三つを切り裂くと、背中に向かって来た筒を刀身で絡め取り、脳天を襲った筒にぶつけてやった。
一瞬、二つの筒が、一本の竹の姿を取り戻す。
純はこれに対して袈裟懸け、逆袈裟、それぞれ一太刀ずつ浴びせ、四つの竹筒を作り出した。
例え同時に全方向から何本の竹筒が飛翔しようとも、全て断ち切ってしまいそうであった。
それが分かったからか、今度は趣の異なる竹が、純に狙いを定めた。
太い。
長い。
筋肉質な男の腕くらいはある、二メートル弱の、先端を尖らせた青竹が、純に向かって突き出された。
純は刀を大上段に構えると、右足で踏み込みつつ諸手で唐竹に振り下ろした。
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