超神曼陀羅REBOOT

石動天明

文字の大きさ
上 下
34 / 232
第三章 潜伏する狼

第四節 稽  古

しおりを挟む
 春先だと言うのに、汗で艶めいた筋肉から湯気が生じているように見える。

 拳立て伏せの後は、ベンチに尻を置き、両足を持ち上げて地面と平行に固定する。
 公園の中央に向かって、背中から倒れ込んでゆく。
 後頭部で腕を組んで、頭が地面に触れる寸前に止めた。脚は正面に突っ張らせたままだ。
 腹筋を使って、上体を持ち上げる。
 持ち上げると言っても、椅子に座るような形にはしない。四五度くらいの地点で止める。
 そうしてもう一度上体を倒して、持ち上げる。

 繰り返して、五〇回。

 三度目のプッシュアップは手を開いてのものだが、地面に突いたのは指の腹だけだ。
 一〇本の指だけで身体を支えて、五〇回。

 立ち上がると、登り棒の所までやって来た。
 てっぺんまで登ると三~三・五メートルくらいはありそうだ。
 左手で棒を掴み、その手と腕と背中の筋力で、一番上まで登ってゆく。
 そして同じように左手だけで、自然落下を使わずに、地面まで戻った。

 これが三〇回。

 今度も、指だけのプッシュアップを始めた。
 但し小指だけ、折り畳んでいる。つまり親指から薬指までの八本で、腕立て伏せを行なう。

 五〇回。

 登り棒に戻ると、今度は右手で、上り下りをやった。
 左手の時と同じで三〇回。

 その次は薬指も畳んだ、親指から中指の左右三本ずつで、腕立て伏せをやる。
 五〇回だ。

 ブランコは二つの座版が、梁から鎖で吊るされている。その梁に向かって雅人は跳躍し、両手で掴んだ。そうして下半身を持ち上げると、二の腕と梁が作り出す空間に両脚を差し込んで、梁の上に出した脹脛を引っ掛け、手を放した。

 梁から、雅人の身体が蝙蝠のように吊るされている事になる。
 脹脛と裏腿を強く締め付けて身体を梁に固定し、雅人は逆さまの状態から、頭を腹の方へ持ち上げ始めた。
 ベンチでやった腹筋を、身体を地面と平行にするか、垂直にするか、その点を変更した。

 二つの座版の間の地面が、雅人が滴らせる汗で色を変えてゆく。
 二〇回。

 雅人は脚を引っ掛けたのと同じ手順で、懸垂の形になり、手を放した。
 膝をたわめて落下の衝撃を殺し、着地する。

 プッシュアップに使う指は、とうとう親指と人差し指の二本ずつになった。
 雅人が腕立て伏せを行なう場所は、その部分だけ水溜まりが出来ている。

 五〇回。

 頭を振ると、ざんばら髪の間から汗が霧雨のように弾け飛んだ。
 それでもまだ、終わらない。

 再びブランコに足を引っ掛けると、今度はさっきとは逆に、身体を背中に向かって反らし始めた。
 自分の姿を想像した雅人が思い出したのは、何処かのバーで喰った海老の事だ。
 茹でた海老を、ディップソースを入れたワイングラスのふちに引っ掛けていた。
 ディップして食べると、海老の甘味がソースの酸味で引き立てられて、旨かった。
 その時は確か、鶏の唐揚げも一緒に注文した。
 同じディップソースと、BBQソースが一緒になっていた。それらに付けなくともしっかりとした味が付いていて、合計で三種類の味を楽しめた。

 ――腹減ったな。

 太陽はもう昇っており、公園の外には登校する学生や出社する社会人の姿がある。

 二〇回の背筋を終えて、やはり上ったのと同じ手順を逆にして、下りた。

 プッシュアップの折り返し地点だ。
 左右の親指だけを突いて、五〇回。

 プッシュアップの合間にやる運動を、二週目に入らせた。

 スクワット二〇回。
 人差し指でのプッシュアップ五〇回。
 ベンチでの腹筋五〇回。
 中指のみでのプッシュアップ五〇回。
 登り棒左手三〇回。
 薬指のみでのプッシュアップ五〇回。
 登り棒右手三〇回。
 小指のみでのプッシュアップ五〇回。
 ブランコに吊られての腹筋二〇回。
 右手のみでのプッシュアップ五〇回。
 ブランコに吊られての背筋二〇回。
 左手のみでのプッシュアップ五〇回。

 スクワット、ベンチ腹筋、登り棒左右、ブランコ腹筋・背筋が、三週目に入る。

 その合間に、右手と左手の親指・人差し指・中指、それぞれ一本だけを使っての腕立て伏せを、五〇回やった。

 合間の運動が、四週目に入った。それと交代で、薬指と小指で五〇回ずつやり、拳立てを二セット追加した。

 これらを消化すると、全身を入念にマッサージする。
 準備運動が終わり、呼吸を整えて、本番に入った。

「押忍」

 右足を前に出しながら、両脚を内側へ絞り、同時に両腕を立てて構える。
 右の三戦さんちん立ちだ。

 両拳を前に出して、右手を引き、残った拳を敵の鳩尾を想定した位置へ置く。

「しっ――」

 鋭く呼気を吐きながら、乳房の位置まで引いた右拳を放った。
 手首をひねりながら繰り出されるパンチが、空気を唸らせ、汗を弾き飛ばす。

 ぱんっ、と、空間の破裂する音がした。

 次に左手を、素早く繰り出した。

 右手。
 左手。

 合計で一〇〇本、雅人は正拳突きを続けた。

 その間、雅人の胴体は殆どひねられる事がなかった。
 いや、片方のパンチを繰り出す際には、その反動してどうしても腰がひねられてしまう。
 そのひねりを威力に転化する方法はあるのだが、雅人はこの肉体の持つ摂理に抗う事で、それ以上のパワーを引き出す打ち方をしていた。

 疲労は、見た目以上だ。
 腹の中に炎が蓄えられていそうなくらいの熱い息を吐き出して、雅人は更に稽古を続けた。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...