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第二章 牙を研ぐ夜
第二節 あわび酒
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するともう片方のローテーブルに突っ伏すようにしていた男がむくりと顔を起こした。
「バカヤロー、わかばちゃんはパイパンだぞ? だからわかめ酒じゃなくて、あわび酒ってんだぞ」
「もぉ、バカバカ! いつの話してるのよぉ」
女性器はその形状から、貝に例えられる事も多い。特に鮑は、二枚貝ではなく、ぴったりと合う貝がないので、常に他の誰かを思う状態である事にも喩えられる。
自分たちの若い頃は何でもなかった言葉でもセクハラだと睨み付けられる職場から出て、酒を飲んで心地良くなり、普段は抑制している生々しい下ネタを口にしても怒られない場所で、おじさんサラリーマンたちはけらけらと笑った。
「兎に角、ここはそーゆーお店じゃないから、だーめ。警察の人に怒られちゃうわよぉ?」
いずみはそのように言って、場を纏めた。
特にここ最近は、以前よりも風営法に関して取り締まりが厳しくなっている。
勿論、怪しいと思われる店を摘発する事により、この町の飲食や風営に携わる池田組の力を弱め、治安を良くする為であった。
おじさんたちも無理にでも、という感覚はない。昨今は非難の対象ではあるのだが、彼らの時代では同僚に煙草を一本くれないかと言うのと大して変わらない気持ちでの発言である。
良いよと言えばありがたく受け取り、断られれば大人しく引き下がる。
「じゃあ、俺、ドンペリ開けるよ、ドンペリ」
「おぉ? そうやって点数稼いじゃう? でも今のわかばちゃんはガード硬いんだからねぇ?」
客の一人が手を挙げた。他の客たちが、高級酒の登場に拍手や口笛で囃し立てる。
そうしていると、入口の扉が開き、地上から新しい来客があった。
「いらっしゃい。今、お席を用意します……」
いずみは階段から下りて来た人物を見て、驚いたような顔をした。
他の客がその人物を見て、何となく眉を顰めた。
くすんだ緑色の上着を着た男である。
脚を引き摺るようにして階段を下りて来た。
その蒼褪めてたっぷりと汗を掻いた顔には、無数の傷が張り巡らされている。
篠崎治郎だった。
「あ――えっと、皆、ごめんね。今日は一旦、お店閉めちゃうわ」
「え? どうして……」
「甥っ子なのよ、彼。そう言えば今日、うちに来るって言ってたわよね、ごめんね、鍵渡して置かなくて」
いずみはそのように説明した。
いずみの自宅を訪れた甥っ子が、鍵がないので店までそれを受け取りに来た。
いずみが何かを誤魔化す為に作った話であるというのは、客の殆ども分かっていたが、何も言わなかった。
大人しく金を払って、治郎とすれ違うようにして店から出て行った。
治郎はふらふらとソファに座り込んで、重く息を吐き出した。
「治郎くん……どうしたの……!?」
いずみが心配そうに訊いた。
治郎は、ローテーブルの上に残っていた酒のグラスを手に取ると、それを自分の股間に注いだ。
治郎が鬼のように顔を歪める。
かと思うと、酒を染み込ませたズボンの中に手を入れて股間をまさぐり、何かを取り出した。
治郎の指の間から、酒に混じって、ピンク色っぽい液体が混じっている。
血液とザーメンが混ざり合ったものだ。
唖然とするいずみの前で開かれた治郎の掌には、薄いベージュ色に血の筋を絡ませた肉塊が乗せられていた。
純の肘打ちを受けて潰れた、治郎の片方の睾丸であった。
それを、指で陰嚢を突き破って自らの手で取り出したのである。
治郎の顔が益々蒼くなってゆき、歯をかちかちを打ち鳴らしている。
グラスに残っていた酒をもう一度、ズボンの中に注ぎ込んだ。
「ぇぐっ」
治郎は低く呻いて、身体をミノムシのように丸めた。
背中を暫し震わせた後、上体を持ち上げた治郎は、酒による消毒の痛みを堪える為に握り締めていた掌から、潰れた睾丸を取り出して、口に運んだ。
治郎は自分の睾丸を咀嚼して、呑み込んだ。
「バカヤロー、わかばちゃんはパイパンだぞ? だからわかめ酒じゃなくて、あわび酒ってんだぞ」
「もぉ、バカバカ! いつの話してるのよぉ」
女性器はその形状から、貝に例えられる事も多い。特に鮑は、二枚貝ではなく、ぴったりと合う貝がないので、常に他の誰かを思う状態である事にも喩えられる。
自分たちの若い頃は何でもなかった言葉でもセクハラだと睨み付けられる職場から出て、酒を飲んで心地良くなり、普段は抑制している生々しい下ネタを口にしても怒られない場所で、おじさんサラリーマンたちはけらけらと笑った。
「兎に角、ここはそーゆーお店じゃないから、だーめ。警察の人に怒られちゃうわよぉ?」
いずみはそのように言って、場を纏めた。
特にここ最近は、以前よりも風営法に関して取り締まりが厳しくなっている。
勿論、怪しいと思われる店を摘発する事により、この町の飲食や風営に携わる池田組の力を弱め、治安を良くする為であった。
おじさんたちも無理にでも、という感覚はない。昨今は非難の対象ではあるのだが、彼らの時代では同僚に煙草を一本くれないかと言うのと大して変わらない気持ちでの発言である。
良いよと言えばありがたく受け取り、断られれば大人しく引き下がる。
「じゃあ、俺、ドンペリ開けるよ、ドンペリ」
「おぉ? そうやって点数稼いじゃう? でも今のわかばちゃんはガード硬いんだからねぇ?」
客の一人が手を挙げた。他の客たちが、高級酒の登場に拍手や口笛で囃し立てる。
そうしていると、入口の扉が開き、地上から新しい来客があった。
「いらっしゃい。今、お席を用意します……」
いずみは階段から下りて来た人物を見て、驚いたような顔をした。
他の客がその人物を見て、何となく眉を顰めた。
くすんだ緑色の上着を着た男である。
脚を引き摺るようにして階段を下りて来た。
その蒼褪めてたっぷりと汗を掻いた顔には、無数の傷が張り巡らされている。
篠崎治郎だった。
「あ――えっと、皆、ごめんね。今日は一旦、お店閉めちゃうわ」
「え? どうして……」
「甥っ子なのよ、彼。そう言えば今日、うちに来るって言ってたわよね、ごめんね、鍵渡して置かなくて」
いずみはそのように説明した。
いずみの自宅を訪れた甥っ子が、鍵がないので店までそれを受け取りに来た。
いずみが何かを誤魔化す為に作った話であるというのは、客の殆ども分かっていたが、何も言わなかった。
大人しく金を払って、治郎とすれ違うようにして店から出て行った。
治郎はふらふらとソファに座り込んで、重く息を吐き出した。
「治郎くん……どうしたの……!?」
いずみが心配そうに訊いた。
治郎は、ローテーブルの上に残っていた酒のグラスを手に取ると、それを自分の股間に注いだ。
治郎が鬼のように顔を歪める。
かと思うと、酒を染み込ませたズボンの中に手を入れて股間をまさぐり、何かを取り出した。
治郎の指の間から、酒に混じって、ピンク色っぽい液体が混じっている。
血液とザーメンが混ざり合ったものだ。
唖然とするいずみの前で開かれた治郎の掌には、薄いベージュ色に血の筋を絡ませた肉塊が乗せられていた。
純の肘打ちを受けて潰れた、治郎の片方の睾丸であった。
それを、指で陰嚢を突き破って自らの手で取り出したのである。
治郎の顔が益々蒼くなってゆき、歯をかちかちを打ち鳴らしている。
グラスに残っていた酒をもう一度、ズボンの中に注ぎ込んだ。
「ぇぐっ」
治郎は低く呻いて、身体をミノムシのように丸めた。
背中を暫し震わせた後、上体を持ち上げた治郎は、酒による消毒の痛みを堪える為に握り締めていた掌から、潰れた睾丸を取り出して、口に運んだ。
治郎は自分の睾丸を咀嚼して、呑み込んだ。
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