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第一章 来訪者たち
第一節 水門警察署にて
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「――玲子ちゃん、ごめんなさい……」
警察署に駆け込むなり、平山里美は頭を下げた。
署内の応接室に、むっとした様子の少女と、その向かいに花巻玲子が座っていた。
平山里美は、身長こそ一五〇センチに満たないくらい小さいが、玲子の一つ上の先輩である。色素の薄い髪を肩まで伸ばし、緩くウェーブを掛けていた。前髪を紺色のカチューシャで留めており、ナチュラルメイクを施した子供っぽい顔立ちを見せ付けている。
くりくりとした眼に、低い鼻、蕾のような小さい唇と、身長とも相まってランドセルさえ似合いそうな容姿である。しかし薄ピンク色のカーディガンの胸元は背丈からすると膨らんでおり、デニムのスカートにも二つのメロンがぶら下がっているみたいだった。
反対に玲子は、グレーのジャケットとパンツを着こなす、直線的なスタイルだ。外見的にスマートに整っており、婦警としては現場で荒事にも遭遇する事も多い身としては動き易くはあるのだが、或る種の女性的魅力である丸みが少なく感じられる。
身長も体重も、警察学校に入る直前まで規定ぎりぎりであり、今は激務によって絞られてしまっている。顔立ちも特別にブスではなく、寧ろ凛々しいものが感じられるが、学生時代よりはかなりキツめになっているかもしれない。
里美とは水門学院附属高校からの友人だ。彼女は玲子の同級生である青蓮院純の恋人であり、高等部と学部が同じ敷地内にある水門学院では昼食などを一緒に採る事が多かった。そのたびに玲子は、女の子らしさ全開の里美に対して、悪意はなくともコンプレックスのようなものを少しく抱いていたのかもしれない。
「いえ、里美さんが謝る事ないですよ。謝るべきなのは、こっち」
玲子は、自分と向かい合うようにして座っていた制服姿の少女の、襟を掴んでを立ち上がらせた。
「離してよッ」
セミロングの髪を明るく染め抜いた彼女は、玲子の手をぱちんと払い除けた。
水門学院高等部の制服――紺色のブレザーの下に、ベージュのカーディガンと、白いブラウス、赤いネクタイ。グレーのプリーツスカートに、紺のソックスを身に着け、肩からはぺちゃんこにしたジャージ素材の通学鞄をぶら下げていた。
しかしブラウスのボタンは鎖骨が見えるまで開けて、ネクタイもだらしなく緩めている。カーディガンはブレザーの袖からピンク色のネイルが辛うじて見える程度に伸ばされており、スカートは膝上五センチの規定を無視して太腿の中頃までひっ詰めていた。ソックスは普通に履いていれば多少はほつれて緩むにしても、靴の踵まで垂れ下がるようでは敢えてそのようにルーズにしたとしか思えない。
玲子はそんな姿、昔を懐かしむテレビ番組か、古い世代が監督しているアダルトビデオでしか知らない。
「椿姫ちゃん……」
里美は、もの悲しそうな声を上げた。
椿姫と呼ばれた少女は、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向き、顔に掛かった髪を掻き上げて銀色のピアスを揺らして見せた。
「別に制服の着こなし云々で文句は言いたかないけどさー」
玲子は溜め息を吐きながら言った。
「ウリはやめといた方が良いんじゃないの、ウリはさ」
ウリ――売春の事である。
お金を貰って、男に性的なサービスを提供する事だ。
国に許可を取ったそういう店がある事まで否定する心算はないが、学生の身の上の椿姫が、路上でそのような事をするのは、好ましい事であるとは思えなかった。
その現場に居合わせた玲子が、椿姫の事を補導したのである。
「それと、煙草も。ライターは返すけど、こっちは没収ね」
玲子はテーブルの上に置いてあったトレーから、銀色のジッポーライターを椿姫に返却した。その横にあった、既に二、三本は消費されている煙草のケースは、そのままだ。
「じゃあ、身元引受人は、里美さんって事で良いですか?」
「うん……あ、えーっと、はい」
「あんまり事務的じゃなくて良いですよぉ、私と里美さんの仲ですから」
玲子は書類に里美のサインを貰い、椿姫を彼女に引き渡した。
手続きが済むと、椿姫は舌打ちして、鞄にじゃらじゃらと付けたキーホルダーの音を立てながら、不機嫌そうに署の出入り口まで向かった。
「つ、椿姫ちゃん、待って……」
「五月蠅いなぁ、付いて来ないでよ! ……あんたも!」
椿姫は追い縋る里美と、その後ろからやって来る玲子に鋭い視線を向けた。
警察署に駆け込むなり、平山里美は頭を下げた。
署内の応接室に、むっとした様子の少女と、その向かいに花巻玲子が座っていた。
平山里美は、身長こそ一五〇センチに満たないくらい小さいが、玲子の一つ上の先輩である。色素の薄い髪を肩まで伸ばし、緩くウェーブを掛けていた。前髪を紺色のカチューシャで留めており、ナチュラルメイクを施した子供っぽい顔立ちを見せ付けている。
くりくりとした眼に、低い鼻、蕾のような小さい唇と、身長とも相まってランドセルさえ似合いそうな容姿である。しかし薄ピンク色のカーディガンの胸元は背丈からすると膨らんでおり、デニムのスカートにも二つのメロンがぶら下がっているみたいだった。
反対に玲子は、グレーのジャケットとパンツを着こなす、直線的なスタイルだ。外見的にスマートに整っており、婦警としては現場で荒事にも遭遇する事も多い身としては動き易くはあるのだが、或る種の女性的魅力である丸みが少なく感じられる。
身長も体重も、警察学校に入る直前まで規定ぎりぎりであり、今は激務によって絞られてしまっている。顔立ちも特別にブスではなく、寧ろ凛々しいものが感じられるが、学生時代よりはかなりキツめになっているかもしれない。
里美とは水門学院附属高校からの友人だ。彼女は玲子の同級生である青蓮院純の恋人であり、高等部と学部が同じ敷地内にある水門学院では昼食などを一緒に採る事が多かった。そのたびに玲子は、女の子らしさ全開の里美に対して、悪意はなくともコンプレックスのようなものを少しく抱いていたのかもしれない。
「いえ、里美さんが謝る事ないですよ。謝るべきなのは、こっち」
玲子は、自分と向かい合うようにして座っていた制服姿の少女の、襟を掴んでを立ち上がらせた。
「離してよッ」
セミロングの髪を明るく染め抜いた彼女は、玲子の手をぱちんと払い除けた。
水門学院高等部の制服――紺色のブレザーの下に、ベージュのカーディガンと、白いブラウス、赤いネクタイ。グレーのプリーツスカートに、紺のソックスを身に着け、肩からはぺちゃんこにしたジャージ素材の通学鞄をぶら下げていた。
しかしブラウスのボタンは鎖骨が見えるまで開けて、ネクタイもだらしなく緩めている。カーディガンはブレザーの袖からピンク色のネイルが辛うじて見える程度に伸ばされており、スカートは膝上五センチの規定を無視して太腿の中頃までひっ詰めていた。ソックスは普通に履いていれば多少はほつれて緩むにしても、靴の踵まで垂れ下がるようでは敢えてそのようにルーズにしたとしか思えない。
玲子はそんな姿、昔を懐かしむテレビ番組か、古い世代が監督しているアダルトビデオでしか知らない。
「椿姫ちゃん……」
里美は、もの悲しそうな声を上げた。
椿姫と呼ばれた少女は、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向き、顔に掛かった髪を掻き上げて銀色のピアスを揺らして見せた。
「別に制服の着こなし云々で文句は言いたかないけどさー」
玲子は溜め息を吐きながら言った。
「ウリはやめといた方が良いんじゃないの、ウリはさ」
ウリ――売春の事である。
お金を貰って、男に性的なサービスを提供する事だ。
国に許可を取ったそういう店がある事まで否定する心算はないが、学生の身の上の椿姫が、路上でそのような事をするのは、好ましい事であるとは思えなかった。
その現場に居合わせた玲子が、椿姫の事を補導したのである。
「それと、煙草も。ライターは返すけど、こっちは没収ね」
玲子はテーブルの上に置いてあったトレーから、銀色のジッポーライターを椿姫に返却した。その横にあった、既に二、三本は消費されている煙草のケースは、そのままだ。
「じゃあ、身元引受人は、里美さんって事で良いですか?」
「うん……あ、えーっと、はい」
「あんまり事務的じゃなくて良いですよぉ、私と里美さんの仲ですから」
玲子は書類に里美のサインを貰い、椿姫を彼女に引き渡した。
手続きが済むと、椿姫は舌打ちして、鞄にじゃらじゃらと付けたキーホルダーの音を立てながら、不機嫌そうに署の出入り口まで向かった。
「つ、椿姫ちゃん、待って……」
「五月蠅いなぁ、付いて来ないでよ! ……あんたも!」
椿姫は追い縋る里美と、その後ろからやって来る玲子に鋭い視線を向けた。
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