kyrie 涙の国

くり

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ヒメの章

開拓暦586年1月、第一城壁、西方城壁防衛軍基地2

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 現在、西軍は白兵の候補兵の訓練を急ぎ、予備役の召集をしていた。だが、時間には限界があり、無事に引退できた白兵がそもそも少ないため、第二小隊が再建されるまで頑張ってもあと二ヶ月は確実にかかるとのことだった。それまで第二小隊の生き残りは別隊に合流することになっていた。
 キリエはベッドに荷物を置くと、反対側のに転がる同い年の青年に挨拶した。
「それじゃ、これから色々よろしく。ペンダ」
「よろしく、キリエ」
 第一小隊のペンダ・アクトンはノートを置くと、起き上がり、ふっと表情を緩めた。
「久し振りだなあ、キリエ!」
「ああ。まさか、また会えるなんて思いもしなかった!」
 堪えきれず、二人はひっしと抱き合い、互いの背中をばしばし叩きあった。それから、数年振りに出会う友の顔をまじまじと見つめた。
「変わんねえなあ、キリエは! つか、若くね!?」
「ペンダは逆に老けたな」
「もう毎日忙しくて、肌の手入れなんてしてらんねえからさあ」
「この体格で、女子かよ」
「びっくりしたろ? もう、もやしなんて言わせねえぜ?」
 ペンダはにかっと歯を剥き出して笑った。
「つか、まだ二十二なのに、老けたとかやめようぜ。まだ四年だろ? 俺達が卒業してから。この話は三十までお預けだ」
 ぱっとキリエから離れると、ペンダは床に四つん這いになってベッドの下から何かを引っ張り出した。布をかけたバスケットだ。それに息を吹き掛けると、魔法が解けて白い粒子がキラキラと舞った。ペンダはそれから布をめくった。
「うわっ、白パンだ! チーズもある!」
「下にジャムも入ってる。さあ、食え食え!」
 保存のための冷却魔法のせいで少し固くなっていたが、まだまだ食べ盛りの二人はそんなことを全く気にせず、あっという間に一個目を完食してしまった。二個目からはゆっくり食べながら昔話に花を咲かせた。
「なんか、あれ思い出すな。お誕生日パーティー! 食堂からキリエが色々くすねてきてさ」
「歌も歌ったよな。ハッピバースデーって」
「そうそう。四月からの全部まとめたから、ディアの後に早口して息切れしてやんの」
「おれもあれ途中噛んだわ」
「俺も」
「いや、それはみんな知ってたし」
「なにっ?」
 目を剥くペンダ。キリエはくすくす笑って頬杖をついた。
「でも、あれがうるさくて女子に殴られたんだよな」
「一体、何時だと思ってんの! またあんたね、シュナイダー! ヨアヒム先生に突き出してやる!」
「あ、上手い! もう一回!」
「やんねえよ、喉潰れるわ!」
「まあまあ、そう言わずに。ペンダ、もう一個いい?」
 ごくんと最後の欠片を飲み込んで、次のパンを取ると、ペンダは顎を突き出して鷹揚に頷いた。
「いいぜ、じゃんじゃん食べな」
「よっしゃ。じゃ、それ取って。マーマレード」
「おう」
 ペンダは頷き、マーマレードの小瓶に手を伸ばす。その指先が、触れる直前でぴくりと止まった。
「ペンダ?」
「あ、いや、なんでもない」
 ほら、と小瓶を投げた。キリエは首を傾げながら片手でキャッチし、パンを割ってマーマレードをたっぷりと挟みこむ。口の中に広がる僅かな甘酸っぱさと渋味にうっとりと目を細める様子を、ペンダはじっと見ていた。
「キリエって、オレンジ好きだったっけ?」
「うん。知らなかった?」
「いや、どっちかっつーと、グレープとかぶどう系を選んでた記憶があるから」
「今の一番はオレンジなんだ」
 ペンダはふうんと胡座を掻き、ベッドにもたれた。どこか釈然としない感覚にその正体を考えていると、キリエが話題を変えた。
「それにしても、本当、大きくなったよなあ。もやしはどこ行ったんだよ」
 ペンダは思わずにやりとして、だろだろ? と胸を張った。違和感なんて吹き飛んで、ペンダは西軍に入ってからの話を始める。
「実は俺、盾に転向したんだ」
「盾に?」
「そう! 同じ隊の先輩に、お前は攻める度胸もないし、相棒とはぐれることばかりを考えて集中できてない。盾にしろ。盾ならその場を保持することが仕事の一つだから、お前はそっちの方が向いている、て言われてさあ。なんか、ぴきーんと来たのよ。確かに、俺は槍じゃなかったのかもしんねえって」
「お前、昔からびびりだったもんなあ」
「いやあ、あの頃はキリエには本当に世話になったよ。キリエは教えるのも上手かったよなあ。まあ、それでだ、早速俺は盾の訓練を始めて、なんと一ヶ月でこの肉体を手に入れたのさ!」
「それはすごいな!」
「大変だったぜ、槍とは鍛えるところが違うからさあ」
「でもそれなら、ペンダはきっと元々盾だったんだろう。授業、無駄になっちゃったな」
 すると、ペンダはそうでもねえよと照れ臭そうに鼻の下を指で擦った。
「俺、今じゃもう完全な盾だけどさ、時々やばくなった時は槍の戦い方が頭に出てくるんだ。疾く駆けろ、てさ。それに気付いてからは、相棒との連携ももっと取れるようになった。身にはなんなかったけど、無駄じゃあなかったんだ」
 そう言って胸を張る姿は自信と誇りに満ちている。
「そっ……か……」
 思わずキリエは目を背けていた。
「お前、すっごくかっこよくなったな」
「え? まじで? キリエには敵わねえよ」
 無邪気に笑うペンダに、無言で首を振った。静かに目を瞑り、表情を取り繕ってから顔を上げる。興奮したペンダはそれに気付いていなかった。
「おれなんか、まだまだだよ」
「またまたあ、そんなこと言ってえ。今だって、北軍で鬼って言われてるんだろ?」
「――いや、それは」
「あ、最後の一個食う?」
 丸いパンを差し出されて、キリエは受け取った。
「じゃ、貰う」
「おう!」
 最後は塩味のきいたチーズを乗せた。少しだけ口の中が辛くなった。
「でも、本当にもう四年かあ。ここに来たのって俺だけだから、実は久し振りに会うのって、キリエが初めてなんだよなあ」
「白兵科からはペンダだけなんだっけ?」
「ああ。そっちは? 確か、ミソンとヤンと、あとクリスがいたよな」
「ミソンとヤンは今もペア組んでる。クリスは、結構前に」
「そっか……」
 ペンダは顔の前で手を組み、暫し黙祷を捧げた。キリエも一緒に目を閉じた。
「そっか。教えてくれてありがとな」
「そんな……」
 キリエは胸を押さえようとし、代わりに両手をぎゅっと握りしめた。
「礼を言われるようなことじゃないよ」
「何言ってんだよ。キリエが教えてくれなかったら、もしかしたら一生別れを言えねえままだったんだ。感謝するに決まってんだろ」
 ペンダは不思議そうに首を傾げる。その顔だ。どうして、何の躊躇いもなくそこまで晴れ晴れとした顔をできるのか、キリエには分からなかった。
 あの時のミソンとヤンもそうだった。
 泣きながら笑っていた。
 余程暗い顔になっていたのか、ペンダが慌てたように言い添えた。
「わ、悪いな、思い出させて。その、あれだ、俺はずっと一人だったからさ」
「うん。……ていうか、言いだしたのはおれだろ。なんでペンダが謝ってんの?」
「はは、は、そうだよな」
 ほっとしたような笑い声。バスケットを元通りベッド下に押し込むと、ペンダは寝ようぜとさっさと灯りを消した。
「明日は早いぜ。ちゃんと起きろよ」
「そっちこそ」
 暗闇の中、ごそごそと蒲団に入る。毛布に顔を近付けると、変わった匂いがした。おそらく、前の使用者の匂いを消すために使った芳香剤だろう。
「なあ、ペンダ」
「……ん?」
「ヒメについて、ペンダの知ってることを教えてくれないか」
 寝返りの音。
「……まあ、いいけど。でも、俺、あいつと話したことないぜ」
「感想程度でいいから」
 少しの間の後、再び寝返りの音がした。
「あいつってさ、髪の色とか珍しいし、白兵にしちゃ荒くないっていうか、ぼけ~っとしてるから、人形みたいで可愛いとか言う奴いるんだけど。……ぼけ~っとしすぎて、どっかおかしいんじゃねえの、て俺は思うんだよ」
「おかしい?」
「第二小隊ってさ、一番メンバーが古くて、一番結束力の強い隊だったんだ。見てて、すっげえ羨ましくなるくらい、仲が良かったんだよ。四人五人くらいだったら堪えられたかもしんねえ。でも、何十人も仲間が死んで、生き残った他の奴はまだ塞ぎ込んでんだ。あいつは違うんだ。あいつは次の日からけろっとした顔でうちに入ってきて、なんか、ぞっとしたよ」
 ペンダはそう言って、ぶるりと身震いしたようだった。
「これで、いいか?」
「うん。いいよ。ありがとう。おやすみ」
「おやすみ」
 これ以上訊くことは憚られて、キリエは礼を言う。暫くして、ぐふう、ぐふう、というような鼾が聞こえてきた。キリエは暗闇でも浮かび上がる真っ白い天井をじっと見上げた。それとは対照的に黒いヒメの髪と瞳を思い出した。
 毛布からは花のような、しかしどこかつんと鼻に来る饐えた匂いが漂ってくる。以前は誰が使っていたのだろう。もしかして、ヒメの知り合いだろうか。
 毛布に潜り込み、胸いっぱいにその匂いを嗅いだ。

 六角虫ベンゼンの姿が確認されたのは、その僅か一時間後だった。




 廊下を走っていると、後ろから誰かが追いついてきた。
「ヒメッ」
「キリエ」
「聞いた? ベンゼンのこと」
「うん」
 ヒメは少しだけ表情を強張らせて頷いた。それからは無言で第二会議室に急いだ。
 第二会議室には現在哨戒中の第五小隊と入れ替わりで休憩に入った第四小隊を除く全白兵隊が揃っていた。皆一様に険しい顔になっており、空気までもがぴりぴりと肌を突き刺しているように感じられた。
「さて、全員集まったかの」
 ワシリエフ隊長が皆の前に立つ。おっとりとした口調はいつも通りだが、その眉間に刻まれた縦筋はどうしようもなかった。
「聞いておると思うが、昨夜、ベンゼンが現れた。――この前もそうじゃったの」
 緊張感が高まる。この前。たった数日前の、第二小隊の悲劇。
 あの時も明け方に手の平サイズの小さなベンゼンが現れていた。ベンゼンの体液が放つ匂いは魔法無効化型のタコアシを呼び寄せる。だから、次に担当だった第二小隊はその準備を整え、万全の態勢で待っていたのだった。
 だが、襲撃してきたのはタコアシだけではなかった。
 タコアシの背中には灰色と赤色の短い毛で覆われた見たことのない人型の怪物が潜んでいた。予想外の敵に出遅れた第二小隊はあっという間に蹂躙され、そして壊滅した。応援が来たときには、人型は既に逃走に移っていた。一体も倒すことができなかった。倒せたのは二体のタコアシだけだった。
「やつらは人語を解すようでの。中央に照会した結果、おそらく新種と見て間違いないとのことじゃった。ここでは便宜上、ただ新種と呼んでいこうかの」
 誰かが、新種だと、と呟き、それに同調するようにざわめきが広がった。新種は少なくともここ十年は見られていなかった。これこれとワシリエフ隊長が手を叩くとすぐに静かになった。
「確かに恐ろしくはあるの。じゃが、頭まで冷やしてはならんよ。新種。正体の分からんものは確かに怖い。じゃが、わしらの目的は怯え隠れることではない。わしらは最後の砦じゃ。この国の、大事な人達を守るための砦じゃ。――それにしちゃあ、ちいと出番が多いがね?」
 そう言ってウインクをしようとして失敗し、囁くような微かな笑いが起きた。ワシリエフ隊長は満足げに頷いた。
「新種はおそらく知能型。魔法も使うじゃろう。じゃが、魔法無効化型が生きている限り、奴らも魔法を使えん。そして、わしらの強みはまさにそこじゃ。魔法のない状況に慣れておる。だからと油断してはならんよ。全員、休める時はしっかり休みんさい。体調を整えて、いつでも出られるようにな。よいかの?」
「はっ」「は!」「はっ」「はっ!」「は!!」「はっ!」……
 大勢の応える声とともに室内の温度が増したような気がした。感情に支配されることはなく、だが、熱いながらも冷静に。ワシリエフ隊長の言葉を皆はきちんと実践できている。しかし、ヒメはどうにも胸がむかむかしてきて仕方がなかった。
「大丈夫? 顔色悪いけど」
 キリエが覗き込んでくる。ヒメは小さく頭を振って、大丈夫と答えた。汗ばんだ手の平を気取られないようにズボンでそっと拭いた。
「ヒメ」
 低く野太い声。びくりと身を起こすと、第一小隊長コンドルがこちらをじっと睥睨していた。
「やる気がないのか、貴様は」
「いえ、そんなことは」
「全体の士気に関わる。自覚があるならさっさと出ていくことだ」
 あまりの視線の力強さに言葉に詰まると、ふほふほというワシリエフ隊長の間抜けな笑い声が代わりに響いた。
「コンドルは厳しいの」
「当たり前のことを言ったまでです」
 その瞳は相変わらずヒメのことを射抜いている。まるで非難するかのように、激しく苛烈な瞳だった。
「残念じゃが、新種戦で生き残って話を聞けるのはヒメだけでの。どんなにお腹が痛かろうが、おやつが食べたかろうが、ヒメにはいてもらわねばなるまいて」
「……分かっております」
 苦虫を噛み潰したかのようにコンドルは声を絞り出す。ワシリエフ隊長はまた笑ってそのまま解散を告げると、ヒメはそのまま残るように言われてしまった。
「キリエ」
「はい」
 ぞろぞろと部屋を出ていく流れに続こうとすると、ワシリエフ隊長はキリエも呼び止めた。
「キリエもいなさい」
「はい」
 最終的に部屋に残ったのはワシリエフ隊長とヒメとキリエ、小隊長達だった。ワシリエフ隊長がヒメとキリエの目の前を陣取るものだから、小隊長隊は苦々しげに脇に並んだ。
「ヒメ。申し訳ないがの、わしはこの通りポンコツでな。もう一度、新種に対するきみの意見を聞きたいのよ。よいかね」
「――はい」
 一度大きく深呼吸をしてから、ヒメは口を開けた。
「第二小隊の壊滅の要因は二つだと考えています。一つは、別の怪物の可能性を考慮しなかったことです」
 知能型というのは、他の怪物よりも膂力で劣っていることが多い。その代わりに魔法に長け、そしてそのために人間を求める。
 魔法とはつまり、この世界に漂っている魔法素を操る技だ。魔法素をどれだけ操れるかはまず種族差、次に個人差があり、人間はどの怪物よりも基本的に優れていた。だから、怪物は飽きもせずに城壁にやって来る。人間を喰らい、より多くの魔法素を操ろうと。知能型はその筆頭だ。
 だから、知能型は魔法を奪われてしまえば、途端に弱くなる。知能があるからこそ、魔法無効化型には近付かないというのが共通の認識だった。
「今更、そんな分かり切ったことを挙げてどうする……」
「もう一つは?」
 コンドルのぼやきを無視してワシリエフ隊長が質問するので、ヒメはならいいかと続けた。
「もう一つは、新種の動きが素早かったことです」
「やつらの体格が小さいというのを別の報告書で聞いている。素早さだけでそれをカバーしているとは思えんが」
 今度は無視する必要はないと判断したのか、ワシリエフ隊長は何も言わなかった。
「新種は確かに小さくて、爪も持ってませんでした。武器もただのパンチとキックでした。でも、一撃一撃が重くて、それが連続で繰り出されるんです。まず、やられたのが盾戦士でした。それで、タコアシへの打撃力と槍戦士の自由が失われて壊滅に陥った――と、私は考えています」
「むう……」
 コンドルは腕を組んだ。
「だが、どうしてやつらは今更になって現れたのだ。新種で、しかも知能型はここ数十年間なかったのだぞ」
 さすがにそれに対する見解までは持ち合わせていない。ヒメは困ってワシリエフ隊長を見た。
「必要がなかったからでしょう」
 全員の視線がキリエに集まる。
「やつらは元は小さくて弱かった。とても、この国を襲えるだけの力を持っていなかった。だから、別の知能型を喰った。知能型を喰うために腕力を手に入れた。それで、やっと、ここに到達した。そういうことじゃないでしょうか」
 コンドルは眉を顰め、キリエを見下ろした。
「やけに自信満々に言うな?」
「あくまで推測です。お気になさらず」
 どこか挑発的な物言いにコンドルだけでなく、小隊長全員のこめかみが引きつる。だが、無視はできない。何故なら、彼は『怪物の習性』アベル・シュナイダーの息子だからだ。
 じとりとした緊張にヒメがキリエの脇腹を小突くと、まあまあとワシリエフ隊長が手を叩いた。
「起きたことは仕方がないよ。さて、ヒメ。もし、また新種が現れたら、きみはどうするかね?」
「私、ですか?」
 ヒメは考え込み、小隊長がいらいらしだしてキリエが小突き返そうとした頃にようやく口を開いた。
「私だったら、まず新種とタコアシを分断します。少なくとも、白兵だけで両方に対処するより、魔法兵の支援を可能にした方がいいと思います」
「キリエは?」
「同意見です。ただし、魔法兵の数は増やしておいた方がいいかと」
 先日の戦闘で新種は一度も魔法を使っていない。おまけに、殺した白兵の分だけ力を増している。ワシリエフ隊長は頷いた。
「わしらも同意見じゃ。じゃが、ヒメの見立て通りならば、盾戦士を当てることはできんなあ。そゆわけで、二人には迷惑をかけてしまうんよ。許しとくれ」
 ヒメはキリエと顔を見合わせた。急造ペアで、まだお互いの実力も知らない。どういった戦い方をして、なにが強みで弱点なのか、何も分からない。
 それなのに、二人とも頷いていた。
「「はい」」
「頼もしいの」
 ふほほっ、とワシリエフ隊長は笑った。
 その時、会議室の扉が勢い良く開かれた。伝令の一般兵は駆け込みながら焦ったように叫んだ。
「しっ、失礼します! タコアシの襲撃です! 背中には新種と思しき姿を確認!」
「この前のタコアシが近くに残っていやがったか……!」
「しかも、正々堂々来るとは、相当舐めていやがる」
 小隊長達が毒突く。ワシリエフ隊長は口髭を撫で、静かに命じた。
「コンドル。応援に行きなさい。上の指示は待たんでよいよ」
「はっ!」
 コンドルが部屋を走り出る。
「ヒメ。キリエ」
 その姿をわざとらしく見送ってから、ワシリエフ隊長は邪魔者はいなくなったと言わんばかりに二人に向き直った。
「はい」
「はい」
「先行しなさい。無理はならんよ」
「「はっ!」」
 二人も駆け出した。
 目指すは第三城壁、白い壁のその上へ――
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