せっかくの異世界だけど黙々と「学習ドリル」を頑張ります!

籠守

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第68話 服を着替えて家に帰ろう

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 ようやく自分の服に着替えられた。よかった!

 お詫びにと従業員さん達に「手伝わせてください!」と言われてまた囲まれたので致し方なく着替えだけお願いした。でも、やっぱり恥ずかしい!

 僕の服は不要だと思って持ち帰ったらしい。その為、ワザとではなかったらしい……多分。


「なぜ分かったのか、って? 化粧をしたってニコはニコのままだから、かな?」

 コーレルさんに気になって尋ねた。ニコは……ニコのまま?

「お化粧して随分、変わっていたと思うんですど?」
「いや、ニコのままだったよ。自分自身が化粧姿を見慣れていないからだろうね」

 ん? ……これは。 

「……コーレルさん以外の人も分かるレベルですか?」

「どうだろうね? 多分、ニコを知っている人なら分かると思うよ」

 先程会った人達は挨拶や軽い日常会話を交わすくらい……大丈夫か。大丈夫だよね!?

「まぁ、似合っていたから問題ないさ」

「問題……僕の中では大問題ですけどね……」

 もう、触れるのは止めよう。

「それにしても何故、女性物だったのですか?サイズも分かっているのに」

「男性物、と言ってもスラックスの違いだね。用意してあったんだけどね」

「あったんですか!」

「そう。でもいいか、って思ったんだ。着せたかったしね!」

「でもいいか、じゃないですよ……どれだけ悩んだと思うんですか。特にここまでの道のり……」

 抗議したいと思います!

「頬を膨らませないでくれ。従業員達が目を輝かせているから……でも、おかげで良いデータが取れたよ」

「データ? 何のですか?」
「生地がね、汚れや傷みに強いものだったんだ」
「生地が違うのですか?」
「そう。今日、色々と魔法を使ったんだよね?」
「……そうですね。随分使いました」

 どこまで言っていいか分からないからボカしておこう。

「そうすると多分、土埃や水なんかを多少でも付着すると思うんだけど」
「……ほとんど汚れていないし。傷み無いです」

 転んだりはしていないけれど地下や王城で色々やったのに。白い制服はきれいなままだった。

「これは魔導具ですか?」
「魔鉱石を練り込んだ繊維を使って、簡単ながら魔法回路も入っているから魔導具と言えるかもしれないね」
「と、言うことは希少ですよね?」
「魔鉱石を一着分を用意するのにかなり必要だったからね」
「お高いですよね……?」
「言うと問題ありそうだから言わないけどね」
「何故、そのような服を僕に?」
「本当に必要な人が着た方がいいからね」
「その必要な人って僕で良かったのですか?」

「当然!」

 僕の身体に合わせて作られている。最初から僕のための服なのは分かる。

「何故ですか? 騎士や貴族の方々が着た方が良いと思うのですが」
「これから国の機関とも繋がりはこれから強くなるだろうからね」
「……街の便利屋でいたいのですけど。しかも物騒になる予感もするのですが」
「ニコはそのままでいてくれればいいんだよ。今はね」
「今も、この先もこのままでいたいのですが……でも、ありがとうございます」

 僕のことを気遣ってくれているのだから感謝。スカートは違うけど……そうだスキル『鑑定』。

>服:魔鉱石を練り込まれた繊維を使用。傷や汚れに強い耐性があり、魔法を込める事でその他の効果を付与する事が可能。

 制服とは表示されないんだね……効果を付与?もしかすると。

「コーレルさん、制服はどこも一緒ですか?」
「国の直轄組織は基本的に色の違いだけでデザインは同じだよ。他の隊のも欲しいのかい?」

 コーレルさんならいいかな。

「どこか個室は空いていないですか?」
「ん?私の執務室に行こうか」


 やはり広くて豪華……なのは机だけで他は縫製の道具や材料が揃った部屋に通された。

「僕は経営よりもデザインが好きなんだよ。だからいつでも自分で作れる環境にしたかったんだ」

 貴族だけど職人気質ですか。親しみやすいのに納得できる。

「さて、この制服に何かあったかな?」
「先ずは見ていてください」

 僕は制服に手を置き、色を思い浮かべながら魔法を込める。

 瞬間、白い制服が触れた手からシュッと広がるように深い緑色に変わった。

「城壁警備隊の色……これは……」

 警備隊長のフレ姉を思い出しながら魔法を込めてみた。

「魔鉱石が練り込まれているので魔法を込めたら、と思って試させてもらいました」
「これは衣料業界に革命が! でも魔法が使えないと……魔法? ……ニコ、何かおかしくないか?」
「……はい。僕は思い描ければ魔法が使えるようなので、どのような魔法を唱えれば使えるか分からないのです」
「すごいなニコ……でも、魔法は専門外だからあえて触れないし誰にも言わないよ。でもどうすればよいのか……」
「ありがとうございます。色を変える魔法については研究所に相談して頂くと良いかもしれません」
「そうだね。レインとサニーに相談してみるよ」
「はい。そうして頂けると良いと思います」

 目を輝かせていたコーレルさんが何かに気付いたかのようにハッと目を見開いた後、しばらく止まり、目を伏せた。

「でも、止めよう。嫌な予感しかしない」
「どうしてですか?」
「色を変えられるだけでもすごいけれど、他にも効果を与える事は可能だよね?」
「あ……」

 付与する魔法次第では硬さを変えれば鎧にもなる。武器への応用も考えられる。自国だけならまだ良いかもしれないけれど、公になれば他国へ流れる可能性は高い。

「私はね、貴族だから国家依頼で制服は作るけれど争いには加担したくないんだよ。王族も貴族も国中の人々も身分に関係無く、普段着る服を考えて作りたいんだ。ドレスも作るけどね」

 にっこり笑うコーレルさんを見て本当に服を作るのが好きなんだと思った。
 
「しばらくはイザという時の為に研究だけ工房で続けようと思う。素材としても面白いからね」
「それがいいかもしれませんね」

 僕も同意だ。

「だからニコもたまにでいいから手伝ってくれないか?」
「もちろんです。僕でよければ!」
「では、どんなドレスが着たい?」
「それはお断りします!」

 何故、ドレスを着させたいのか疑問だ。僕は男の子らしいと思っているのに!

「だって、似合うからだよ?」

 ……そんなに僕って顔に出ますかね。

 制服はコーレルさんのお店で保管しててもらう事にした。
 着る機会は今後無い……と願いたい。


 さて、家に帰りますか!

 着替えたから気持ちも軽い!!

 あ、ロビンさんだ!

「姉貴、こんばんは!」

 あれ? ロビンさんが首をかしげている。

「ニコ、どうした? 化粧して。結い上げているけど髪はカツラか? 似合い過ぎてるぞ!」


 あっ……服装ばかり気にしていてお化粧とカツラは見落としていた!?

 コーレルさんと従業員さん達……ワザとだよね!?
 次にあったら……怒る!
 
 でも……着替えだけ、ってお願いしたのは僕でしたか……。

「姉貴、急ぐからまたね!」

 家まで脱兎の如く駆け抜けた。


 久しぶりに女神様に話しを聞いてもらおう! 
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