せっかくの異世界だけど黙々と「学習ドリル」を頑張ります!

籠守

文字の大きさ
上 下
47 / 70

第47話 薬草を納品しよう

しおりを挟む
 採取した薬草を届けにデムスさんの元に向かう。
 この時間だと「まるいひつじ亭」だよね。

 あ、やっぱりケイトがお店の入り口からこっちを見ている……勘がいいのかなぁ。

「ただいま、ケイト」
「おかえり、ニコ! デムスさんなら来ているよ!」

 詳しい事情は知らなくても依頼の事を知っているから話は早い。

 デムスさんはいつもの奥の席にいた。
 驚いた顔でこちらを見ている。

「ニコ、早過ぎないか!? ニ、三日はかかる見込みだったのに!」

「僕もそう思ったのですが同行者が良かったので早く戻れました! 手配してくれたのはデムスさんですよね? ありがとうございました!」

「……依頼したのはこちらだからね。さて、私の店で受け取っても良いかな?」

 いつもこのお店でしか会っていなかったな。忘れがちだけどこの王国で有数の薬師だったね。、

 貴族街により近い場所にある少し大きな建物がデムスさんの薬屋だった。

 入り口が離れて二つある。出入りしている人を見る限りでは貴族用と庶民用に見える。別け隔て無く、はまだ難しいようだね。

 庶民用と思われる入り口から入る。シンプルだけど清潔さを感じる店内に普通に街の人たちがいた。
 商品として薬では無く、薬草などの素材が並んでいた。
 前世の調剤薬局みたいなものらしい。

 長めのカウンターでは数人が相談をしていた。

 そのカウンター横を通り、階段を上がると個室に入った。商談用かな。

「では、ニコ、見せてもらおうか」

「はい。どうぞ」

 魔瘴華を取り出す。鑑定の通り、根は小さな麻袋で覆っている。

「完璧な状態だね。大切に使わせてもらうよ」

「無事に届けられてよかったです!」

「それにしてもよくこんな希少な薬草をすぐに採ってこれたものだね」

 隠す事は無いかな?

「偶然ですが魔族の知人から分けてもらいました」

「? それは栽培をしている人がいるのかい?」

「はい。まだまだこれからのようなので特別に分けて頂きました」

「そうか……魔族の知人か。その内で良いから紹介してくれ」

 情勢や身分を考えると会わせてよいなのか分からない。

「本人に確認してからで良いですよね?」

「あぁ、当然だよ」

 それと。

「あと、これも使うと良いとこれも頂きました」

 小瓶を取り出し、テーブルに置く。

「……炎帝蘭じゃないか?」

「はい。素性を隠して症状を説明したら持って行けと」

「これだけでも治せそうだが……希少なものをよく頂けたな。代金は大丈夫だったのか?」

「僕がまた訪問する約束だけで、お金は要らないと言われました」

「そうか。これは本当に貴重なのだよ。魔族領でした入手できないという意味では魔瘴華も貴重だが、炎帝蘭はその魔族領でも特定の場所でしか育たないと聞いている」

「それを僕は頂いてしまったのですね……」

 本当に大丈夫なのかなぁ。次に行く時はたくさんお土産を持っていこう。

「……大事に使わせて頂こう」

「よろしくお願いします。ミリア様の症状悪化を止められるように」

 デムスさんの表情が少し曇る。

「ニコはこれだけの素材があっても治らないと思っているのかい?」

 そうか……希少な素材だから治せると思うよね。

「はい。今まで以上に効果はあると思いますが抑えられるだけと思っています」

 僕がレベルアップする必要があると思っている。

「そうか……ニコは短期間で治せるようになれるのかい?」

 どうやって、とは聞いてこないのですね。

「『なれる』……ではなく『なります』よ!」

 そうとしか言えない。

 じっと、見られている。

「そうか。さすがニコだな!」

 恰幅の良い身体を揺らしている。とても愉快そうだ。僕、変な事、言ってないよね?

「……君なら絶対に治せそうだ」

 笑いを止めてた真面目な顔だ。

「はい! デムスさんも薬の準備をお願いしますね!」

 依頼書にサインを頂いて帰る準備をする。「まるいひつじ亭」へは全てが終わってからでも良いかな? そんな事を考えていたら。

「今日は行かないのかい? それならマスターには伝えておくよ」

 さすが常連さん。助かります!


 やはり気になるから聞いておこう。

「そういえば入り口が二つあるのは貴族用と庶民用ですか?」
「あぁ、そうだよ。最初は一つだったのだがね」
「身分の違いですか」
「そう、お互い気まずいからと双方からお願いされたんだよ」
「身分の差……難しいですね」
「そう。でもな、実は内装は同じなんだよ。貴族も庶民も。そもそも貴族は本人が直接来る事は少ないし、来ても二階の個室で応対するからな」

 たしかに奥の方にも階段があった。共通なんだね。

「なるほど。差別なく平等なのはいいですね!」
「『まるいひつじ亭』みたいにはいかないが、少しくらいは……な」


 身分制度が当然の世界で平等を掲げる発想はすごいと思う。

 この国だけなのか世界ごとなのか、何か変わる節目かもしれない。


 何となく居ても立っても居られなくなってきた。

 急いで帰ってドリルに挑もう!
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

都市伝説と呼ばれて

松虫大
ファンタジー
アルテミラ王国の辺境カモフの地方都市サザン。 この街では十年程前からある人物の噂が囁かれていた。 曰く『領主様に隠し子がいるらしい』 曰く『領主様が密かに匿い、人知れず塩坑の奥で育てている子供がいるそうだ』 曰く『かつて暗殺された子供が、夜な夜な復習するため街を徘徊しているらしい』 曰く『路地裏や屋根裏から覗く目が、言うことを聞かない子供をさらっていく』 曰く『領主様の隠し子が、フォレスの姫様を救ったそうだ』等々・・・・ 眉唾な噂が大半であったが、娯楽の少ない土地柄だけにその噂は尾鰭を付けて広く広まっていた。 しかし、その子供の姿を実際に見た者は誰もおらず、その存在を信じる者はほとんどいなかった。 いつしかその少年はこの街の都市伝説のひとつとなっていた。 ある年、サザンの春の市に現れた金髪の少年は、街の暴れん坊ユーリに目を付けられる。 この二人の出会いをきっかけに都市伝説と呼ばれた少年が、本当の伝説へと駆け上っていく異世界戦記。 小説家になろう、カクヨムでも公開してましたが、この度アルファポリスでも公開することにしました。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。 自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。 魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...