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全米がリングだ!戦え!ブッチギリアンデット連合!俺たち、、、お前、、、食う

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 暗黒の世界の日常は以上の様に楽し気で、死が支配した世界とは思えない程に剥き出しの生が溢れている。放り込まれた生者は誰しもが生存の為に必死で、昨日まであった世界より、より自分に正直に生きていると言えるだろう。



 では本題に戻ろう。長い事引き延ばしてきた「祭り」既存世界の終末の時は如何なる物だろうか?



 



 合衆国大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトは悪夢に苛まれていた。連日、耳に流し込まれる欧州の頓智気情報と、一応は友好的であった筈の大日本帝国が野心を全開にして欧州に迫ると言う危機的状況が、彼の精神を蝕んでいたからかもしれない。



 肉体は若返り、盤石な政治基盤を有する今世紀中、いや歴代最高の奇跡を成し遂げた大統領となった彼でも、精神の疲労は老いた体であった時と同じく訪れる物だ。国民全てが奇跡を齎したリーダーに更なる栄光を求めるとあらば、彼の心労如何ばかりであろう。



 そんな彼の悪夢。実の所、それは随分前から始まっていた。



 初めは、何処も共知れない暗がりの中で生き血を絞り取られる死んだ筈のスターリンの姿が、その次の日には、アメリカンボーイズが切り分けられ店先に並ぶ、廃墟の中にあっても活気ある食肉市場と、炊き出しに群がる獣の群れ。



 思わず叫びを上げて飛び起き、溢れ出た汗を拭う。隣で寝ていた妻の心配気な声に。気にするなと声を返し、ストレスの為だと自分に言い訳をした。



 そうストレスのせいだ。沈黙した欧州大陸の情勢が、少しづつ幸運な生き残りにより齎された事で地獄に旧大陸は変わったと知ってしまったのだ無理もない。



 研究進む死霊術の識者たちの予想では、ドイツが膠着した現状を打破しようと行った何某かの大規模な儀式が失敗した結果だと言う。馬鹿な事だ。彼らは使い潰す筈の奴隷たちに逆に食い殺された。



 更にである。研究グループによると暴走した死者たちは生前の行動を繰り返しているのだと言う。それは失われた己の権利の復権である。



 「閣下。真に申し上げ難いのですが、恐らく交渉は不可能でしょう。日本からの情報でも、儀式が不完全で、死者たちは自分の置かれた状況が理解できていないとの事。彼に取って我々は略奪を仕掛けてくる蛮族なのです。認識の狂った彼らは、それこそ死に物ぐ狂いで自分達も権利を守ろうと抵抗すると考えられます」

 

 閣議の場でそう告げられた自分は、思わず死んでいる筈のちょび髭を大声で罵ってしまった程だ。本当に迷惑しか残さない野郎だアイツは!死んでも尚、特大のごみ処理を自分たち残していった。



 交渉も出来ない、降伏もしない、そも現代を原始時代と思い込んでいる連中と、延々と殴り合えと言うのだから大統領に相応しくないFワードを連発した所で誰も責める事は出来ないだろう。



 聞く所によればチャーチルも怒鳴り散らしていたそうだが無理もない。



 そんな状況だ。自分が突拍子もない悪夢を見る事も有るだろう。



 でもだ。それが連日連夜となると話が違う。



 ある時は、アヒルの水兵の短編プロパガンダ映画が実写版で配信され、頬のこけたヒトラーと、ムッソリーニが、疲れた顔でアヒルを丸焼きにし、ある時はソ連の内務長官であった男の顔が付いた豚が、日本の傀儡であるロシアの女王に踏みつけられて被虐の喜びにプギーと鳴く。



 なんで私はこんな物ばかり見せられる?昨晩はヒムラーと思しき男が、アーリアンの毛並みをどうやって美しく整えるか?と言う講釈を延々聞かされた。毛並みってなんだ?何時からドイツ人は犬になったんだ?

第一何で悪夢の中で独英同時通訳でお送りします等と言うナレーションが流れるのだ?

 

 正直限界。医者に頼んで強烈な睡眠薬を処方して貰ったがそれでも悪夢は襲ってくるのだ。



 それでもまだ自分が悪夢を見る分には良い。それだけ心労が溜まっているのだから、大統領を引退したら政治から離れ、田舎で農場をやって静かに暮らそうと希望を持って我慢できる。



 だが、、、昨夜みた物だけは違う。







 「でっ?君たちも見たと言うのかね?」



 「はい」「最悪でした」「酷いものです」



 大統領の質問に居並ぶ閣僚陣は揃って頷いた。皆青い顔をしている。



 彼らばかりではない。会議室に置かれたラジオから流れるのは昨夜全米を襲った怪奇現象を伝えている。大統領を襲った悪夢は遂に全米に牙を剥いたのだ。



 「そうか、、、、、何なんだよアレ!フザケンナ!喧嘩売ってんのか!舐めるのもいい加減にしろ!」



 「「閣下!落ち着いて下さい!」」



 「これが落ち着けるか!君らも見たんだろ?アレを!」



 

 連日の悪夢による心労、そして余りに余りな昨夜のアレ。大統領がキレるのも無理はない。大統領だけではない。全米の各地で人々は混乱し、怒りと、、、そして恐怖を覚えていた。



 それは如何なる悪夢か?どれ程人をイラつかせ恐怖を覚えさせたのであろうか?御覧頂こうではないか。







 

 それは不浄の宴であった。暗く広大な空間、居るだけで息が詰まり、本能が逃げろと叫ぶ空間に、優雅で典雅な悪鬼たちが笑いさざめき、美味美食を貪りながらイベント開始を待っていた。



 彼らの貪る美食たち。ちょび髭が居た、筆髭がいた、統領がその娘婿が、綺羅星の如きドイツ将帥とソ連元帥たちが、行方を晦ました女性映画監督が、民族の明日を掛けて戦っていた指導者が、反乱者たちが、抵抗者たちが、そこ此処に吊り下げられ、礼儀正しく丁寧に生命を抜かれて饗されていた。



 笑い、怒声、苦悶、哀惜、全てが合わさって泡立っている。



 一瞬、生臭い風が流れ、其処に現れた男、全ての視線がその男の立つ舞台の注がれる。舞台だ。骨で作られ、皮で緞帳が青白い炎の照らす舞台が見える。



 男は若干の緊張を持って己を見る悪鬼たちを見下ろし、そして口を開いた。



 「ワシントンに行きたいか~!」



 この場にそぐわないセリフであった。なんか台無しだ。だがトマトも千切られた頭も飛んでは来なかった。代わりに飛んできたのは。



 「「「行きた~い」」」



 の大きな声の合唱だ。



 皆ノリノリだったのだ。



 音楽が流れる軽快で愉快でジャズも古典も民族音楽も混ぜこぜの、兎に角、軽いスチャラカのその場の暗い空気に会わない、何だか台無しの音楽を各地方持ちよりの骨の楽団がヤケクソで奏でる。

 

 「宜しい!では選手宣誓お願いします陛下!」

 

 「任された!」



 舞台の男、永山の声に応え、青白い筈の顔の赤い、これまでしこたま飲んで来たであろう帝王が舞台に現れる。



 彼の口から言葉、生前であれば絶対に言わない、何があろうと言わないであろう言葉が紡がれる。



 「宣誓!我々選手一同はハンターシップに乗っ取り!全ての既存秩序の破壊!専制と隷従、圧迫と偏狭を地上に置いて施行し!永遠にこの世を支配する名誉ある地位を独占、全世界の国民が、ひとしく恐怖のうちに生存する義務を泣こうが暴れようが押しつけ続ける事を誓う!」



 目が飛び出そうであるし、耳が腐ったと思う。だがその言葉は御叮嚀に悪夢の内にある全ての人々にサラウンドで届けられる。



 万雷の拍手が巻き起こる。



 「万歳!」「良いぞ~!」「待ってました!」「どうする!どうする!」「Wunderbar!」「ハラショー!」「エーヤン!」「ワオーン!」「ウォー!」



 等々の喜びの声やら雄叫びが多言語で木霊する。



 それを受けた帝王はにこやかに会釈すると壇上を千鳥足で後にする。端の方でコケて、侍従に受け止められ、「何をする珍田~!俺はまだ飲めるぞ~」と騒いでいる。



 彼もまた昔年のストレスをこの場で一気に発散させているのかもしれない。



 「ゴホン、、では続きましてレギュレーションを発表致します!」



 そんな彼を見てはいけない物を見てしまった顔で少し見やった後、気を取り直した永山は更に続ける。彼が手を振れば巨大映像が中空に表れ出でる。それは北米を中心に世界を表していた。



 「ルールは簡単!早い者勝ちです!開催者権限で西海岸は頂きますが、後は自由!戦果確認は責任を持って私が行います!上げた分だけ土地も人も配分!さあ殺したり吹き飛ばされたりしましょう!相手は強敵です!存分に楽しんで下さい!」



 永山の言葉に合わせ、旧大陸から新大陸へ無数の矢印が伸びて行く。続いて写しだされるのは、狩り時間を今や遅しと待つ死者の群れである。



 彼らはタイガを、砂漠を、丘陵を、高山を、平原を長い列となって行進し、狩場に漕ぎだすべく集結地点へと進んで行く。



 映像は続く、街が飲み込まれ、村が沈んで、人の営みが消えて行く。世界に火の雨が降り注ぐ、隣人は起き上がり、友を親を子を食い殺す。



 死者の津波は歩き続ける。その行く手に見えるのは摩天楼と白い家だ。



 映像は途絶えた。先ほどまで聞こえた筈の警戒な音楽は消え、辺りはご馳走たちの呻き声のみが響いている。



 そして、悪夢を見ている者たちは気づいた。その場にいる者たちが「自分」を見ている。凍れる様な視線は語る「食事」「資源」「奴隷」「愛玩動物」「獲物」どれでも良いが禄でもない意味しかない言葉。



 無数の青く光る目が「自分」を「自分たち」を見ている。



 飢えた牙が枯れた腕が自分達を狙っている。



 合衆国の国民はその日揃って最悪の目覚めを迎えた。
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