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生者たちの黄昏其の二 統領略全裸中年デビュー

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 「止めて!ワイを見ないで!なんやこれ!殺すなら殺せ!」



 栄光の都市ローマ、その大通のど真ん中で一人の男が屈辱と恥辱に濡れて叫んでいた。



 男は略裸に近い恰好であり、頭には月桂冠を頂いている。古の昔、帝国に滅ぼされた国家の女王とは戦利品として大衆の前を引き立てられたと言うが、彼もまた同じ扱いを受けているのだ。



 彼を引き立てるのは彼の指示の元、エリシュオンから帰ってきローマの軍勢である。彼らは歌っている、高らかに嘲笑を込めて歌いながら行進を続けている。



 引き立てられる男。嘗ては教師もしていた博学の男には彼らの言葉は良くわかる。



 「「ローマ人よ!禿の女たらしのお通りだ!女房を隠せ取られるぞ!」」



 屈辱である、恥辱である、樽が有ったら入りたい。男、ベニート・アミルカレ・アンドレーア・ムッソリーニは真っ赤になりながら大声で叫ぶ。



 「詐欺や!金返せ!責任者出さんかい!糞ボケ国王!ワイは統領やぞ!」



 空しい、非常に空しい叫びだ。既にローマ市内は元奴隷たちの手に落ちている。



 ローマにそしてイタリア王国になにがあったのであろうか?順を追って語っていこう。





 

 1943年の終わり。



 イタリア王国は旧アフリカ属領の回復に千年以上ぶりに王手を掛けていた。



 その筈だった。



 精強なる死の軍団は、あらゆる妨害を跳ね除けてナイルデルタを目前にしていた。



 少なくとも死者で埋め尽くされた地中海は、敵現代艦があらゆる種類の古代の艨艟の物量攻撃を受けて疲弊の極みに達し、マルタ島は技術者と共に送り込んだフォルゴーレ空挺師団の手で持って。内部から溢れ出たマルタ騎士団の亡骸による蹂躙を受け陥落、地中海の制海権はイタリアが手にしていたのだ。



 「勝ったな!風呂入って来る!」



 統領もご満悦。だがその油断が命取りだった。イタリアは死者に頼り切りになっていたのだ。



 正直な所、今一乗り気でない正規軍より死者の軍勢の方が使い勝手が良かった。補給も要らず文句も言わず、それでいて頑強にそして迅速に動く古代ローマの亡霊たち、掘れば掘る程幾らでも湧いて出て来る戦力にイタリアは、、統領は依存度を深めていた。



 「ローマの歴史舐めんな!お前らの所とは数が違うんや数が!」



 ロマこれ(ローマ軍団コレクション)中毒である。折しもドイツがソ連の喉元を締め上げ続けている時であったから、総統からの矢の催促で東部戦線に、重装備の生者の軍隊を派遣せざるを得なかったと言う理由もある。



 それゆえの慢心でもあった。



 統領の慢心は二つある。一つはアメリカ合衆国の参戦を読み切れなかった事、もう一つは歴史の深さであるならばローマよりも遥かに長く深い土地に攻め入っている事を忘れていたことだ。



 1944年の初め、スエズ運河奪取を目前にしてイタリア軍(この時点で死者の軍が八割を超えていた)に立ちはだかったのは砂漠を埋め尽くす戦車の群れであった。



 戦車だ、ただしTANKではなくチャリオッツと言う意味の戦車である。大英帝国は自身がこれまで略奪、、、、保護してきた全てを総ざらいしてぶつけてきたのである。



 イタリア軍の猛進を前にして、大英手国はとある略奪品を起死回生の策として母国に実に60年ぶりに返していた。



 起死回生の策。それは大英帝国博物館に展示されていた大王をこの世に呼び戻す事である。



 計画は成功した。蘇った大王「ラメセス2世」は乾ききった顔に、使役される事への抑えきれない怒りを浮かべ、(計画に参加した日本人顧問の囁きを受けるまで)同じく呼び戻された側近たちと大暴れしたが、迫りくる異民族にファラオとして勤めを果たす事に承諾したのだ。



 それからは早い。ファラオは未発見の墳墓から次々と軍勢を蘇らせ(序でに徴兵だと言って現地民の死者を起き上がらせ)瞬く間に上エジプトと下エジプトから無数の軍勢を用意したのだ。



 「「お願いだから止めさせてくれ!人類の至宝が全て無くなる!ああ!副葬品を粗末にしないでくれ!これでは誰が何処に埋葬されたのか分からない!スフィンクスを動かす?死者の谷の巨象は全て戦線に持っていく?やめろ~」」



 考古学者と歴史学者は悲鳴を上げたが英軍は無視した。それよりもスエズを死守しなくてはならない。役に立たない美術品やら遺跡が戦力になるならそれで良いとの立場。



 もっとも英軍の方でも、古代の英霊たちが燃え上がる青い瞳で自分たちを睨んでいる事は気づかなかったし、協力者である日本人がこそこそと死者に何事か吹き込んでいる事は掴めなかった。英国にとって死霊術は都合の良い道具でしかないのである、これまでも一度として使役する対象が支配から離れた事は記録されておらず、その本質を日本は教えてもいない。



 英国は奴隷が刺してくる事にはなれているが、死者が反逆する事は想定していなかった。



 ともあれローマ・カルタゴ合同軍(チェニジアはカルタゴの故地である)がエジプト諸王と激突した第二次ピラミッドの戦いで圧倒的数の差にローマ&イタリアは大敗、人類が踏破不可能な砂漠の不毛地帯を駆け抜ける戦車の群れは後方の生あるイタリア人たちを集中的に狙いだした。



 イタリアもこれにはたまらずエジプトより後退する。一度でも大敗を喫すれば敵は更に増えるのだから当然である。死霊術は勝ちに乗っている時は強い。特に敵側に死霊術も使う者が居なければ特に強い、だが向こうに同じ技を使う者がいれば敗者は丸々敵側に寝返るのだ。



 統領はこの敗北に、更なる死者の増派と、日本からの技術提供で完成した陸上要塞船の投入で答えようとする。



 そこに第二撃であるアメリカの本格参戦の報が届く。



  「ありえへん、、、なんでや、、今更過ぎるやろ、、あいつら阿保と違うか?考えてみい筆髭死んだやろ?ロンドンは廃墟も同然や?なんで今頃二枚舌助ける必要あるか?頭おかしいんと違うか?」



 新大陸より大船団がアフリカ方面に出航し、その迎撃に急遽派遣されたドイツ幽霊艦隊が洋上で撃滅されたとの凶報を受けた統領は頭を抱えた。



 統領も勿論の事、総統の方もこれには衝撃を受けている。トゥーロン軍港で自沈したフランス艦隊をも加えた、英海軍でさえおいそれと手出しは出来ない筈の死の艦隊が撃滅されたと言うのだ。



 撃滅だ。生き残った(この場合は死に残ったと言うべきか?)艦隊に嫌々ながら乗船していた少数の生あるドイツ海軍軍人たちからの報告では不死身と言って良い程強靭だった筈の幽霊艦は、護衛に追いていた米艦隊の猛攻を受けてあっと言う間に沈んでしまったと言うのだ。



 これには秘密がある。



 大日本幻想帝国に毒されて、ファンタジーに傾倒しつつある独伊両国家は思いもよらぬ事ではあるが、アメリカ合衆国は参戦の時期を待ちながら大真面目にファンタジーをサイエンスしていたのだ。



 犠牲は大きかったそうである。科学者は発狂し、軍人は頭を掻きむしり過ぎて頭頂部が寒くなり、官僚たちは頭の固い政治家に研究予算を吐き出させる為に胃潰瘍で次々と倒れていった。日本製の例の秘薬が無かったら危なかった所だ。



 それでも成果はでた。科学の最先端を行くと自負する合衆国としては、大変に不満な成果ではあるが成果は成果である。



 なぜ不満なのであろうか?



 実の所、死霊術の利用に忌避感のある合衆国でも、労働者がどうしても嫌がる類のきつく汚く危険な作業には、死霊術が人の目を隠れる様に利用されている。



 全成年男子の労働力化を達成まじかな合衆国は各州で締め付けを厳しくしてはいるが、完全な絶滅にはまだ時間が掛かると見積もられている。その様な締め付けの中で一州だけ死霊術の汚染から逃れている州がある事を研究者たちは気づいた。



 ユタ州である。あっ!と察したのであれば、この州がどう言う場所なのか当然ご存じであろう。この州は何と言うか、、大変に信仰の篤い地域である、、、黎明期の合衆国に戦争仕掛ける程篤くて熱い信仰の州とご理解して頂きたい。



 具体的にはモル何とか言うあれを信じる人々が多く居住している。



 彼らは死霊術と言う胡乱の塊を全力で拒否した。炎と猟銃と篤き信仰心で己たちの信仰の砦から追い出そうと徹底攻撃した。そしてそれは効果があったのだ。



 歩く死体は祈りの前に崩れ落ちていき、渾身の銃弾は確かに彷徨う骨を土に返していた。これを発見した研究者はサイエンティストとして実証してしまった。

 

 そう実証した。だから量産した。ファンタジーに科学的アプローチを取ろうとして結局はファンタジーに逆戻りしたが量産し配備したのだ。



 全米各地から供出させた教会の鐘を鋳溶かして作った特製砲弾に、特に功徳と名高い牧師や神父に赤紙を送り付け、、、、勤労奉仕(当然有償だ大日本なんたらとは違う)して頂き、彼らが倒れるまで有難ーく聖別された兵器群をご用意願った。



 不満はある。当然ある。合衆国としては科学と工業力で老いた旧大陸を救いたいのだ。だが結果こそが全てなのが若さの証拠とグッと飲み込んで実戦に投入した。



 それがあらゆる妨害を跳ね除けてアフリカに上陸してきたのだ。



 先頭を爆走するのは泣いて抵抗する海軍から毟りとり、あわや陸海相撃と言う所で大統領の仲裁が入って陸軍の物となったアリゾナ、オクラホマ、メリーランドの機動要塞である。



 旧時代と新時代二つの勢力に挟まれたイタリア軍はベンガジに追い詰められそこで降伏。それが1944年5月の初め。



 イタリア軍アフリカ軍団を壊滅させた米英は、地中海の制海権を奪い返すべく、策動の構えを見せ統領が青くなっていたのが5月12日の事である。



 

 そして運命の日である5月12日。現在、統領が魅惑の中年ボディパレードされる数時間前に時は至った。



 (まだや!まだ負けてへん!英本土進攻は時間の問題なんや!それまで凌ぎきればアメ公も諦める!イタリアはまだ無傷や!)



 一人、執務室で頭を抱える統領の耳に飛び込んで来たのは、ドイツ国内での騒乱発生の報である。電話口から聞こえる報告は絶望的な物であった。



 曰く、SSが反乱!ポーランドで大規模反乱発生!ヴィシーフランスからの通信途絶!ペタン元帥が謎の武装勢力と蜂起!ハンガリーが旧オーストリアに侵攻!ヒトラー総統行方不明!ローマ市内でも騒乱が発生!



 「なにがおこっとるんや!やっとられへんわ!自分の部下も抑えられんのかあのチョビ髭!市内で騒乱?どこのどいつや!非常時やぞ時と場所わきまえんかい!」



 思わず受話器を叩きつける統領、昨日まで盤石だった地位がガラガラと音を立てて崩壊していくのだから無理もない。



 其処に凶事は襲い来た。



 興奮のあまりそこいらの物に当たり散らしていた統領の執務室の扉をノックする音が響く。



 「誰や!ワイの首取りにきたんか!もう驚かんぞ!来るなら来い!ローマ(浪速)の男の死にざま見せたろうやないか!」



 もう破れかぶれである、統領は妬けになって叫んだ。



 「ワシや」



 「ワシじゃ分からん!どいつや!」



 「だからワシや」



 「だからワシじゃ分からんと、、、陛下でっか?何しに来たんで?ああ!もしや逃げきたんで!そうでしゃろ市内は阿呆どもが騒いでいるとかなんとかで!流石は陛下や!頼りになるんはワイだけと知ってなはる。ささっ汚い所やけれども中に、、、」



 普段であれば、一国の王が何のアポも取らずに自分の元に来るはずもないと怪しむ所であるが、事が事でけに混乱していた統領はつい無警戒に扉を開けてしまった(統領が国王、つまりヴィットーリオ・エマヌエーレ3世を臆病者と舐めきっていたのも一因)



 其処に飛んでくる鋭い一撃。レバーに決まった。蹲る統領。それを冷たく見下しながら国王は吐き捨てる様に言った。



 「われぇ~、よ~今までいちびってくれたのぉ~」



 「なっ、、、なにをしはるんでっか、、、陛下、、、」



 息も絶え絶えにそう言うしかない統領である。気付けば自分の周りを死者たちが囲んでいる、どれもこれも自分が国家の権力で集めたコレクションたちだ。



 死者たちは統領を見下し口々に言うではないか。そして暴力も襲ってきた。



 「ワシら顎で使って唯ですむ思うんは、ち~と甘ないかボウズ」



 「現代のカエサルやと?ワシの名はそんな軽いんか?ん?なんとか言わんかい!だアホ!」

  

  鋭いヤクザキックが一発、統領にめり込む。

 

 「おとん。こいつが言ってたんは現代のアウグストゥスでワシの事でっせ」



 「だまっとれ馬鹿息子!」

 

 「予の事をいらんとか生意気言った口はそこかこのボケ!」



 「元老議員舐めたどう言う目に会うか、よ~体に覚えとけ!お前の様な青二才と潜った修羅場が違うんじゃ!悔しかったらハンニバル相手にしてみぃ!」

 

 死者が喋る?そんな馬鹿な?こいつ等唯の操り人形の筈では?暴力の嵐を受けた統領は混乱に包まれ意識を手放した。







 そして現在。ローマを恥辱のパレードさせられた統領はコロッセオで万座の中、、、競売にかけらていた。周りには自分と同じく裸に剥かれたおっさんたち。



 どいつもこいつもイタリアファシスト党の幹部や軍有力者である。あそこで項垂れているのはパドリオだ。



 「脂の乗った中年男性!元統領!皇帝僭称者!幾ら出す!1ダカットから!」



 「1ダカット!」



 「3ダカット!」



 「5迄出すで!」



 訳が分からない、それでも言いたい事はある。統領は渾身の力を込めて雄叫びを上げた、言わずにはおられない!



 「安すぎるやろ!なんでワイがそこまで安いんや!抗議する!ワイは統領やぞ!」
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