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美食倶楽部の帝王たち コッテリとしていて濡れた熊のような香り
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朗らかな談笑の声と、軽快にして妙なる調べ、ここ満州国首都新京に、この度新築された迎賓館では贅を尽くした晩餐が行われている。
そう贅は尽くされている。室内を飾る調度品が全てソ連からの略奪品であり、妙なる調べを奏でるオーケストラたちがロシアを代表する嘗ての大音楽家たちの骨であったとしても贅は贅だ。
饗されるメニューも大変に贅沢である。それは老いた熊とその側近たる狐たち、そして国を守る為に死力を尽くして戦った史実であれば戦史に名を遺したであろう将帥たちだ。
彼らは一様に苦悶の声を上げ生を絞られ来賓者の目を楽しませている。時折強靭な意思の力で持って罵りと呪いの遠吠えを上げる生きのよさは、程よく来賓の種族特性であるサディズム的な本能と、優越感を大いに満たすスパイスでもある。
主催も来賓も大変に豪華だ。対ソ戦の祝勝会であるこの度の宴には王侯貴族、その中でも数多の民族を従える帝王たちが集っている。違いは現役と近ごろ現役復帰した者が居る事であろうか。
満・漢・蒙・土・そして日、帝王たちは大いに楽しみ侮蔑と嘲弄の目で己の支配に愚かにも逆らった赤い成り上がり達を見やって朗らかに笑っている。
「騙された、、、一体これは何度目の詐欺だ?私はどれだけ耄碌していたんだ」
苦痛の呻きの中、老いた熊は息も絶え絶えに呟いた。今の自分は人ではない物だ。ナチスに捕らえられた捕虜ですら此処迄の扱いはされないであろう拷問を受けている。
「こんな事ならちょび髭に降伏した方がましだった、、、」
そうだ。あの三流絵描きに負けを認めていたなら、でっち上げられた罪での銃殺で済んだ筈だ。今の自分は罪人ですらない。
「クソ野郎ども!殺すなら殺せ!なんだこの扱いは!」
痛みの中であっても怒りが湧き出し怒鳴らずにはおられない。心配されていた血圧の急上昇で死ねるならその方が良い、だがその様な幸福な最期は期待できないだろう事は分かっている。
樽に突っ込まれた自分の体に視線をやれば幾つもの点滴が繋がっている事が見て取れる。管が繋がっている先にはあの悪魔どもご自慢の奇跡の薬がなみなみと入っているのだ。
(私たちは死ねない!恐らく長く飼われる事になる!なんでだ!私はここまでされる事はしてない!)
自分の横で同じく樽に突っ込まれているモロトフの姿を見れば分かる。彼は若々しく艶々として薄かった髪まで黒黒と生えているのだ。それは自分も同じ、注ぎ込まれる悪魔の薬は自分たちをそう簡単には死なせてくれない。
「殺せ!殺してくれ!鬼!悪魔!帝国主義者!呪われろ死人ども!」
「元気ですなぁ元書記長、大変結構。あの調子で長生きしてくれれば。私たちも長く楽しめるというものです」
「そうですな。ここまで美味いとは、永山君が私たちに黙っていたのも分かる。これは止められない。どうですかもう一献?」
「頂きましょう。しかしこうなって来ると徳国への対応も変わってきますぞ。追い詰め過ぎて自殺などされては困る。貴重なビンテージですから大事にしなければ」
「確かに。そこは永山君が戻って来てから相談しましょう。うん美味い、実に美味い。書記長でこの味です。総統も統領もそれは良い味でしょう。早く楽しみたいものだ。」
「私は大統領と宰相閣下を楽しみたいですな。特に宰相閣下だ。英国貴族を集めて専門のワインセラーを作るのも夢があるとは思いませんか?」
「良いご趣味です。我々のクラブに国王陛下が加わってもご満足されるに違いない」
喚く筆髭熊を満足気に眺めながら、通訳を介して和やかな会話をする二人の人物、、、いや魔王である二人。美食を通して、これまであった色々なしこりを取り払った満州と大和の皇帝たちは思わず喉をならして笑いあった。
永山も後で知って頭を抱える事になるのだが、邪悪なる死霊術師がモスクワから送ってきた捕虜たち。永山の目論見としては衆目の集まる所で降伏文書にサインさせる積りであった彼らは、公式には輸送中の事故で死んだ事になっていた。
これは永山のミスだ。不死の帝王たちは味の違いが分かる存在である。その美食家たちの前に美味そうな熊を直々に監視せず送ってしまった。彼らは味見をして見ようと思えば誰に止めらる事なく勝手に出て行ける程の力と権力を持ち合わせていると言うのにだ。
そして書記長と彼の側近たちは大変に美味であった。そうとなれば「永山君の我儘を聞いているのだから少しくらいは良いよね!」と御覧の有様になってしまった。
更にである。
「なんでこんなに美味い者があるのを黙ってたの?そんなに朕たち信頼ない?あ!やる気でなくなってきた!」
と永山を脅迫し、定命の人々の思いを集める力ある者や高貴な血筋の者は不死者にとって極上の美味であると吐かせたのだ。そして彼らは大抗議にでた
「「こんなに美味しいのを殺す?いけません!食べ物で遊ぶの駄目!没収です!これは没収!独り占めはいけない!これは皆の共有財産!」」
その結果永山の計画は大きく変更を余儀なくされる。
「ギロチン祭りが、、、、恐怖の支配が、、食欲に負けて消えていくぅ~」
時は1942年1月中頃。ソ連は砕け散り指導者たちの降伏宣言もなく全ての人民が殺戮の嵐に晒されている時、死霊術師の胃は締め付けられていた。
そう贅は尽くされている。室内を飾る調度品が全てソ連からの略奪品であり、妙なる調べを奏でるオーケストラたちがロシアを代表する嘗ての大音楽家たちの骨であったとしても贅は贅だ。
饗されるメニューも大変に贅沢である。それは老いた熊とその側近たる狐たち、そして国を守る為に死力を尽くして戦った史実であれば戦史に名を遺したであろう将帥たちだ。
彼らは一様に苦悶の声を上げ生を絞られ来賓者の目を楽しませている。時折強靭な意思の力で持って罵りと呪いの遠吠えを上げる生きのよさは、程よく来賓の種族特性であるサディズム的な本能と、優越感を大いに満たすスパイスでもある。
主催も来賓も大変に豪華だ。対ソ戦の祝勝会であるこの度の宴には王侯貴族、その中でも数多の民族を従える帝王たちが集っている。違いは現役と近ごろ現役復帰した者が居る事であろうか。
満・漢・蒙・土・そして日、帝王たちは大いに楽しみ侮蔑と嘲弄の目で己の支配に愚かにも逆らった赤い成り上がり達を見やって朗らかに笑っている。
「騙された、、、一体これは何度目の詐欺だ?私はどれだけ耄碌していたんだ」
苦痛の呻きの中、老いた熊は息も絶え絶えに呟いた。今の自分は人ではない物だ。ナチスに捕らえられた捕虜ですら此処迄の扱いはされないであろう拷問を受けている。
「こんな事ならちょび髭に降伏した方がましだった、、、」
そうだ。あの三流絵描きに負けを認めていたなら、でっち上げられた罪での銃殺で済んだ筈だ。今の自分は罪人ですらない。
「クソ野郎ども!殺すなら殺せ!なんだこの扱いは!」
痛みの中であっても怒りが湧き出し怒鳴らずにはおられない。心配されていた血圧の急上昇で死ねるならその方が良い、だがその様な幸福な最期は期待できないだろう事は分かっている。
樽に突っ込まれた自分の体に視線をやれば幾つもの点滴が繋がっている事が見て取れる。管が繋がっている先にはあの悪魔どもご自慢の奇跡の薬がなみなみと入っているのだ。
(私たちは死ねない!恐らく長く飼われる事になる!なんでだ!私はここまでされる事はしてない!)
自分の横で同じく樽に突っ込まれているモロトフの姿を見れば分かる。彼は若々しく艶々として薄かった髪まで黒黒と生えているのだ。それは自分も同じ、注ぎ込まれる悪魔の薬は自分たちをそう簡単には死なせてくれない。
「殺せ!殺してくれ!鬼!悪魔!帝国主義者!呪われろ死人ども!」
「元気ですなぁ元書記長、大変結構。あの調子で長生きしてくれれば。私たちも長く楽しめるというものです」
「そうですな。ここまで美味いとは、永山君が私たちに黙っていたのも分かる。これは止められない。どうですかもう一献?」
「頂きましょう。しかしこうなって来ると徳国への対応も変わってきますぞ。追い詰め過ぎて自殺などされては困る。貴重なビンテージですから大事にしなければ」
「確かに。そこは永山君が戻って来てから相談しましょう。うん美味い、実に美味い。書記長でこの味です。総統も統領もそれは良い味でしょう。早く楽しみたいものだ。」
「私は大統領と宰相閣下を楽しみたいですな。特に宰相閣下だ。英国貴族を集めて専門のワインセラーを作るのも夢があるとは思いませんか?」
「良いご趣味です。我々のクラブに国王陛下が加わってもご満足されるに違いない」
喚く筆髭熊を満足気に眺めながら、通訳を介して和やかな会話をする二人の人物、、、いや魔王である二人。美食を通して、これまであった色々なしこりを取り払った満州と大和の皇帝たちは思わず喉をならして笑いあった。
永山も後で知って頭を抱える事になるのだが、邪悪なる死霊術師がモスクワから送ってきた捕虜たち。永山の目論見としては衆目の集まる所で降伏文書にサインさせる積りであった彼らは、公式には輸送中の事故で死んだ事になっていた。
これは永山のミスだ。不死の帝王たちは味の違いが分かる存在である。その美食家たちの前に美味そうな熊を直々に監視せず送ってしまった。彼らは味見をして見ようと思えば誰に止めらる事なく勝手に出て行ける程の力と権力を持ち合わせていると言うのにだ。
そして書記長と彼の側近たちは大変に美味であった。そうとなれば「永山君の我儘を聞いているのだから少しくらいは良いよね!」と御覧の有様になってしまった。
更にである。
「なんでこんなに美味い者があるのを黙ってたの?そんなに朕たち信頼ない?あ!やる気でなくなってきた!」
と永山を脅迫し、定命の人々の思いを集める力ある者や高貴な血筋の者は不死者にとって極上の美味であると吐かせたのだ。そして彼らは大抗議にでた
「「こんなに美味しいのを殺す?いけません!食べ物で遊ぶの駄目!没収です!これは没収!独り占めはいけない!これは皆の共有財産!」」
その結果永山の計画は大きく変更を余儀なくされる。
「ギロチン祭りが、、、、恐怖の支配が、、食欲に負けて消えていくぅ~」
時は1942年1月中頃。ソ連は砕け散り指導者たちの降伏宣言もなく全ての人民が殺戮の嵐に晒されている時、死霊術師の胃は締め付けられていた。
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