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監獄戦艦
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世紀の悪巧みが暗黒の列島で行われて頃、欧州では、盛大な殴り合いが海上で生起していた。
大陸に於いて亡霊の軍団に蹂躙されたと言うのに、一向に諦めない英国に対して、ドイツは、更なる亡霊の増派で答えたのだ。
ドイツに対した海軍力は実際ない。英国と比べるならば、その差は天と地程にもある。だからUボートなど繰り出しているのだ。
だが使い捨てでき、神出鬼没の艦隊がいるならば話は違う。ダイナモ作戦成功後、ドイツはそれを英国に見せつけた。
第一次大戦で沈んだ艦船を主体とした艦隊でもって、一大決戦を挑んできたのだ。場所は因縁の地ユトランド沖。
この挑発に英国海軍は乗ってしまった。乗ってしまったのだ。
乗らざるを得ない。陸ではボロ負けしているが、海軍は健在なのである。地に落ちた英国の誇りを取り戻す為にも、ここで勝たなくてはいけない。
なに、大した相手ではない。いるのは骨董品の前弩級艦に準弩級艦ばかり、しかも全てが黄泉の淵から引き揚げられた幽霊船だ。
勝てない道理はない。こちらにも、首相が何を思ったのか現役復帰させた幽霊船団は存在するが、そんな物、物の役には立たない。
海戦はテクノロジーの勝負なのだ。ファンタジーの出る幕ではない。英海軍は威信を掛けて、生者の乗る船でこの勝負に挑んだ。
結果は惨憺たる物であった。初めは良かったのだ。向こうが発砲する前から、こちらは好き放題に打ちまくれたし、艦載機の攻撃を向こうは回避しようともしなかった。
「回避する必要もないのだ」
そう気づいたのは、ボロボロを通り越して、なんで浮いているのか、分からない有様だった筈の、リュッツォウ が骨董品とは思えない程のスピードで近づいて来てからの事だった。
双眼鏡の向こうにいる艦は、確かにこの世の物ではなかった。揺らめく青い炎に包まれた艦は、剥き出しの骨とドロドロとしか形容できない何かで覆われ、大きく空いた破孔が、絶え間なく注がれる腐肉で持って
徐々に塞がれていくではないか。
それに、その乗員だ。あいつ等は此方を見ている。辛うじて制服と分かる布切れを纏った骨と、船体から生えているフジツボに塗れた何かは、乗り込む艦と同じく、青い炎を宿した目でジッとこちらを見ている。
英旗艦クイーンエリザベスの乗員は、遥か向こうから近づいて来る、戦艦の形をした何かに寒気を覚え始めていた。
気のせいではない。視線を確かに感じるのだ。
「お前も!お前も!お前も!此方に来い!」
迫りくる亡霊艦隊はそう言っているとしか感じられない。だがそこは栄光のロイヤルネイヴィーである。怖気を奮って、死にぞこない共に砲火を叩き込んでいく。
そして僚艦マレーヤの第三十射を受け遂に、先頭を走るリュッツォウの行き足が止まった。音もなく沈んでいくリュッツォウの姿に、英艦隊乗員一同、勝利の雄叫びをあげる。
が、まだ戦闘は続いているのだ。遂にこちら側にも。敵射弾が降り注ぎはじめている。粘着質の音を立て、海面を汚す気持ちの悪い何かや、絶叫を上げる巨大髑髏を砲弾と言って良いのであればだが。
もうこうなったら根気の勝負だ。英艦隊は速力を落とし、数の優位を生かして、簡単に死んでくれないゾンビの群れに全ての火砲を叩き付ける事を選んだ。
ドイツ側はそれを待っていたのを知らずに。
激しい撃ち合いから、やや離れた海面に潜望鏡が顔を出している。U137。その艦長であるエルトマン海軍大尉は機会が来たことを確信した。
彼らがこの海域に潜んでいるのは秘密任務の為だ。戦闘にも参加せず只管息を殺して待っていたのは、絶好の機会を待つためである。
「例の奴に伝えろ、作戦開始だ」
そう隣にいる副長に伝える。そして内心でため息をついた。
(やっとこの任務からオサラバできる。長かった、、、幾ら潜水艦乗りが臭うからと言って、この臭いは我慢の限界だ。あいつ等を艦に置いて置くのもだそうだ。不気味でたまらん。何が死霊術だ。死体で遊ぶのもいい加減にしろ!俺の艦は冷暗所でも肉屋でもない!)
そう大尉が愚痴を零すのも無理はない。この艦は臭すぎる。死臭だ死臭が充満している。この潜水艦には、魚雷室を撤去してまで、大量の生贄が詰め込まれていた。
死臭の原因はそれだ。それを、この海戦が始まる一日前から、大尉の言う「例の奴」が楽し気に処理し、乗員一同の顰蹙と軽蔑の目を受けながら、血塗れの儀式を行っていたのだ。
「「狭いUボートで豚の臓物やら山羊の頭やらを振り回すな!臭いんだよ!汚いんだよ!死ね!」」
だが仕方ないこれが任務なのだ。だから「例の奴」大日本帝国から派遣された「技師」が行う、奇妙奇天烈で陰惨な行動を止める訳にはいかない。
「「これで上手く行かなかったら、海中に叩き出してやる!」」
とは、皆思っているが。
さて、既にこの海域が何処であったかは、ご説明してあったと思う。ここはユトランド沖、第一次大戦に於いて、一大海戦が行われた古戦場である。
この海域に於いて、幾多の艦が沈み、幾千もの御霊がワダツミに抱かれ眠っている。幾ら首相閣下がごり押ししたと言っても、死者の軍事利用に、今一乗り気ではない英国は誤解している様であるが、死霊術はかなり融通が利く技術なのだ。
冬戦争でフィンランドが行った様に、死者が眠る大地に敵を誘い込み、突如蘇った死体で包囲するなどは、死霊術師にとっては日常的に行う愉快な戦法である。慌てふためいて叫ぶ敵軍などは胸が空く思いだとは、永山の弁。
大地で出来る事は海上でも、そして、海中でもできる。繰り返すが、ここはユトランド沖である。
であるから、死霊術を使う相手を向こうに回している以上「海中から出て来た嘗ての味方に襲われる」事も用心してしかるべきなのだ。
クイーン・エリザベス級戦艦ウォースパイトの甲板は血に濡れている。だが、その血を出した本人たちは
此処にはいない。
いま、絶叫を上げている艦橋要員を元気に引き裂いている所だ。彼女に何が有ったのであろうか?
彼女ばかりではない。彼女の姉妹であるバーラムもヴァリアントでも、生者は震えて立て籠もり、死者の列に加わる順番をまっている。
辺りに轟音が響いた。同じく死者に占領されつつあった、戦艦ラミリーズの生者たちは、己の尊厳を汚されまいと、弾薬庫に火をいれたのだ。
無駄な事だ。大変に無駄な事である。自殺した所で逃げられる訳はないだろう?君たちは、永遠の奴隷になるのだから。
英艦隊が、亡霊の艦隊を遂に墓場に送り返す寸前に、それは来た。
インディファティガブル、クイーン・メリー、インヴィンシブル、ブラック・プリンスそれ以外にも幾多の死者が生者に海中から襲い掛かってきたのだ。彼女らの戦法は至ってシンプル。
「移乗攻撃」
吐き出される死者は生者に襲い掛かり、倒れた者は起き上がり、また新たな犠牲者を増やしてく。これを行っているのは、海中に隠れるU137や他のUボートに乗り込む「技術者」たちだ。
全てのUボート乗員が、血生臭い臭いと、猛烈な勢いで放たれる死臭に耐える中、技術者は死者を起き上がれせ、犠牲者を増やしていく。
生者の艦隊は海上の牢獄と化した。死刑の執行は直ぐそこまで、その後は永遠の労働刑が待っている。
これを見た生き残りの艦艇は恐慌状態の落ち言った。グズグズしていて、いつ何時、海中から磯女艦が自分たちを引きずり込みに浮上して来るか分かった物ではない。
生き残りの艦船は責めての介錯にと、貪り食われゆく姉妹に砲弾と魚雷を送り込むと、撤退を始める他は無かった。現代科学が幻想に膝を屈した瞬間である。
後日、ドイツの通商破壊戦に、今次海戦で喪失した艦艇が従事している事を確認した、英国政府は、生者の艦隊を温存し、死者の艦隊を大規模に運用する事を決定する事になる。
大陸に於いて亡霊の軍団に蹂躙されたと言うのに、一向に諦めない英国に対して、ドイツは、更なる亡霊の増派で答えたのだ。
ドイツに対した海軍力は実際ない。英国と比べるならば、その差は天と地程にもある。だからUボートなど繰り出しているのだ。
だが使い捨てでき、神出鬼没の艦隊がいるならば話は違う。ダイナモ作戦成功後、ドイツはそれを英国に見せつけた。
第一次大戦で沈んだ艦船を主体とした艦隊でもって、一大決戦を挑んできたのだ。場所は因縁の地ユトランド沖。
この挑発に英国海軍は乗ってしまった。乗ってしまったのだ。
乗らざるを得ない。陸ではボロ負けしているが、海軍は健在なのである。地に落ちた英国の誇りを取り戻す為にも、ここで勝たなくてはいけない。
なに、大した相手ではない。いるのは骨董品の前弩級艦に準弩級艦ばかり、しかも全てが黄泉の淵から引き揚げられた幽霊船だ。
勝てない道理はない。こちらにも、首相が何を思ったのか現役復帰させた幽霊船団は存在するが、そんな物、物の役には立たない。
海戦はテクノロジーの勝負なのだ。ファンタジーの出る幕ではない。英海軍は威信を掛けて、生者の乗る船でこの勝負に挑んだ。
結果は惨憺たる物であった。初めは良かったのだ。向こうが発砲する前から、こちらは好き放題に打ちまくれたし、艦載機の攻撃を向こうは回避しようともしなかった。
「回避する必要もないのだ」
そう気づいたのは、ボロボロを通り越して、なんで浮いているのか、分からない有様だった筈の、リュッツォウ が骨董品とは思えない程のスピードで近づいて来てからの事だった。
双眼鏡の向こうにいる艦は、確かにこの世の物ではなかった。揺らめく青い炎に包まれた艦は、剥き出しの骨とドロドロとしか形容できない何かで覆われ、大きく空いた破孔が、絶え間なく注がれる腐肉で持って
徐々に塞がれていくではないか。
それに、その乗員だ。あいつ等は此方を見ている。辛うじて制服と分かる布切れを纏った骨と、船体から生えているフジツボに塗れた何かは、乗り込む艦と同じく、青い炎を宿した目でジッとこちらを見ている。
英旗艦クイーンエリザベスの乗員は、遥か向こうから近づいて来る、戦艦の形をした何かに寒気を覚え始めていた。
気のせいではない。視線を確かに感じるのだ。
「お前も!お前も!お前も!此方に来い!」
迫りくる亡霊艦隊はそう言っているとしか感じられない。だがそこは栄光のロイヤルネイヴィーである。怖気を奮って、死にぞこない共に砲火を叩き込んでいく。
そして僚艦マレーヤの第三十射を受け遂に、先頭を走るリュッツォウの行き足が止まった。音もなく沈んでいくリュッツォウの姿に、英艦隊乗員一同、勝利の雄叫びをあげる。
が、まだ戦闘は続いているのだ。遂にこちら側にも。敵射弾が降り注ぎはじめている。粘着質の音を立て、海面を汚す気持ちの悪い何かや、絶叫を上げる巨大髑髏を砲弾と言って良いのであればだが。
もうこうなったら根気の勝負だ。英艦隊は速力を落とし、数の優位を生かして、簡単に死んでくれないゾンビの群れに全ての火砲を叩き付ける事を選んだ。
ドイツ側はそれを待っていたのを知らずに。
激しい撃ち合いから、やや離れた海面に潜望鏡が顔を出している。U137。その艦長であるエルトマン海軍大尉は機会が来たことを確信した。
彼らがこの海域に潜んでいるのは秘密任務の為だ。戦闘にも参加せず只管息を殺して待っていたのは、絶好の機会を待つためである。
「例の奴に伝えろ、作戦開始だ」
そう隣にいる副長に伝える。そして内心でため息をついた。
(やっとこの任務からオサラバできる。長かった、、、幾ら潜水艦乗りが臭うからと言って、この臭いは我慢の限界だ。あいつ等を艦に置いて置くのもだそうだ。不気味でたまらん。何が死霊術だ。死体で遊ぶのもいい加減にしろ!俺の艦は冷暗所でも肉屋でもない!)
そう大尉が愚痴を零すのも無理はない。この艦は臭すぎる。死臭だ死臭が充満している。この潜水艦には、魚雷室を撤去してまで、大量の生贄が詰め込まれていた。
死臭の原因はそれだ。それを、この海戦が始まる一日前から、大尉の言う「例の奴」が楽し気に処理し、乗員一同の顰蹙と軽蔑の目を受けながら、血塗れの儀式を行っていたのだ。
「「狭いUボートで豚の臓物やら山羊の頭やらを振り回すな!臭いんだよ!汚いんだよ!死ね!」」
だが仕方ないこれが任務なのだ。だから「例の奴」大日本帝国から派遣された「技師」が行う、奇妙奇天烈で陰惨な行動を止める訳にはいかない。
「「これで上手く行かなかったら、海中に叩き出してやる!」」
とは、皆思っているが。
さて、既にこの海域が何処であったかは、ご説明してあったと思う。ここはユトランド沖、第一次大戦に於いて、一大海戦が行われた古戦場である。
この海域に於いて、幾多の艦が沈み、幾千もの御霊がワダツミに抱かれ眠っている。幾ら首相閣下がごり押ししたと言っても、死者の軍事利用に、今一乗り気ではない英国は誤解している様であるが、死霊術はかなり融通が利く技術なのだ。
冬戦争でフィンランドが行った様に、死者が眠る大地に敵を誘い込み、突如蘇った死体で包囲するなどは、死霊術師にとっては日常的に行う愉快な戦法である。慌てふためいて叫ぶ敵軍などは胸が空く思いだとは、永山の弁。
大地で出来る事は海上でも、そして、海中でもできる。繰り返すが、ここはユトランド沖である。
であるから、死霊術を使う相手を向こうに回している以上「海中から出て来た嘗ての味方に襲われる」事も用心してしかるべきなのだ。
クイーン・エリザベス級戦艦ウォースパイトの甲板は血に濡れている。だが、その血を出した本人たちは
此処にはいない。
いま、絶叫を上げている艦橋要員を元気に引き裂いている所だ。彼女に何が有ったのであろうか?
彼女ばかりではない。彼女の姉妹であるバーラムもヴァリアントでも、生者は震えて立て籠もり、死者の列に加わる順番をまっている。
辺りに轟音が響いた。同じく死者に占領されつつあった、戦艦ラミリーズの生者たちは、己の尊厳を汚されまいと、弾薬庫に火をいれたのだ。
無駄な事だ。大変に無駄な事である。自殺した所で逃げられる訳はないだろう?君たちは、永遠の奴隷になるのだから。
英艦隊が、亡霊の艦隊を遂に墓場に送り返す寸前に、それは来た。
インディファティガブル、クイーン・メリー、インヴィンシブル、ブラック・プリンスそれ以外にも幾多の死者が生者に海中から襲い掛かってきたのだ。彼女らの戦法は至ってシンプル。
「移乗攻撃」
吐き出される死者は生者に襲い掛かり、倒れた者は起き上がり、また新たな犠牲者を増やしてく。これを行っているのは、海中に隠れるU137や他のUボートに乗り込む「技術者」たちだ。
全てのUボート乗員が、血生臭い臭いと、猛烈な勢いで放たれる死臭に耐える中、技術者は死者を起き上がれせ、犠牲者を増やしていく。
生者の艦隊は海上の牢獄と化した。死刑の執行は直ぐそこまで、その後は永遠の労働刑が待っている。
これを見た生き残りの艦艇は恐慌状態の落ち言った。グズグズしていて、いつ何時、海中から磯女艦が自分たちを引きずり込みに浮上して来るか分かった物ではない。
生き残りの艦船は責めての介錯にと、貪り食われゆく姉妹に砲弾と魚雷を送り込むと、撤退を始める他は無かった。現代科学が幻想に膝を屈した瞬間である。
後日、ドイツの通商破壊戦に、今次海戦で喪失した艦艇が従事している事を確認した、英国政府は、生者の艦隊を温存し、死者の艦隊を大規模に運用する事を決定する事になる。
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