上 下
25 / 60

仄暗き都にて

しおりを挟む
 フランスの敗北により、欧州大陸はナチスドイツの手に落ちた。世界は本格的に第二回目の乱痴気騒ぎに突入しようとしている。



 この祭りの開催に合わせ、各国は外交攻勢を、ある国に加速させている。言わずもがな大日本帝国にである。



 かの帝国は、最早嘗ての田舎帝国ではない。今次大戦を、戦い抜くに必要な戦略物資の、唯一の供給国であり、無尽蔵の兵力を提供できる技術を握る国なのだ。



 味方にした方が勝つ。確かにそう言える実力を大日本黄昏帝国は手にしていた。



 だが動かない。大戦の拡大に合わせる様に、奇跡の秘薬の値段を吊り上げ世界から富を吸い上げるだけで、かの帝国は何もしようとはしていない。



 「いっそ脅しつけてでも参戦させようか?」



 切羽詰まった英国では、そんな議論も出る程だ。 

 

 そこまで過激な意見がでるのは、海軍力が海底に沈んでいるからだ。ワシントン条約の廃止により、航路保全の為の艦船は生産を開始したようだが、それも最低限度。駆逐艦に軽空母それと数隻の軽巡洋艦を改装しているだけで、正規空母も戦艦も、いつの間に解体したのか、影も形も無くなっている。



 ホントにいつの間にかだ。一斉解体など出来る工廠は無いはずなのに、何処の港にも大型艦は消えてしまった。



 日本国内に潜入させた諜報員からの情報もそれを裏付けている。あの国は陸軍国になってしまったかのようだ。



 その代わり、経済の方は順調。そろそろ九十に到達しようと言うのに、現役を退かない高橋蔵相がぶち上げた列島改造計画は、流れ込む富と死体の効果的利用により、極東の田舎を先進国に変えようとしている。



 見る角度でどうにも形が変わる様に見えるビル群、列島を縦断する高速鉄道(ギョロギョロした両目が付いていて、汽笛代わりに雄叫びを上げる)、政府はアスファルト言い張ると赤黒い何かが道路を覆い、行き交うは、骨が引く大型馬車、列島大陸間飛行船(どう見ても肋骨で外殻を支えていて、中に詰まっているのは悲鳴を上げる霊魂)等など帝国の経済は発展著しい。



 帝都東京がその代表。仄暗き都は拡大を続けている(デザインセンスは壊滅的)



 「なんか暗い」

 

 「電灯を全廃して、ガス灯に変える?あのガス灯、夜な夜な声がして不気味なんですが?」



 「動物との共生都市計画は良い事です。でもその性で家のタマが狸と宴会して困ってるんですよ、、、毎晩踊っていて五月蠅くて敵いません」



 「なんで新造の建物は全部ゴシック様式なの?」



 「この霧どうにかして!洗濯物が乾かない!」



 「浄水場が新しくなってから、水道水が、妙にトロトロして青く光るんですが、、、、健康に良い?さいですか」



 「緑化政策は結構です。防火にもなります。でもなんで公園が墓と一緒なの?」



 「開発で稲荷の宮が潰されたと、狐の集団が長屋を占拠したぞ!どうしてくれる!」



  まあ、色々問題は出ているようだが、概ね発展はしている。大死霊術師は日本の中心を魔都に変えたのだ。



 そして、それは計画の第一段階が終了したと言う事である。現実世界において、彼の力は問題なく長期に渡って影響を維持でき、それを妨害する存在もまた対処可能であるとの結果が出たのだ。



 



 皇居地下、大カタコンペにて



 「よくぞ揃った!我が精鋭たちよ!」



 その会議の首座に座るお方はノリノリで叫んだ。何だか色々吹っ飛ばしたお方はパーティーピーポーな気分なのだ。



 「「「イェーイ!」」」



 揃った方もノリノリであった。尊い方の隣に立っている永山のみが胃を抑えている。近ごろ、激務続きでこの死霊術師の顔色は悪い。



 さて、この場こそが大日本腹黒帝国の中枢にして、最高意思決定機関だ。表の政府機関など、この場にいる不死者にとって飾りでしかない。



 不死の者共は全てを掌握し、二度と人手に渡すつもりは髪の毛一筋もない。彼らは、己の不死の血統と永遠の支配を可能にする力でもって、選挙だろうとクーデターだろうと吹き飛ばせる。



 今次大戦が終了したら、己たちの所属する組織から、定年を撤廃し、永遠に居座ろうとすら画策している。腐敗の魔術は、彼らの権力欲をイイ感じに刺激しているのだ。



 「うむ。皆元気そうでなにより、ではこれより、世界征服の第二段階について、永山君から話がある。それにしても世界征服、、、何だかワクワクしてくるな。では永山君どうぞ」



 軽い、凄く軽い、不死者は軽くて気楽なのだ。何せ死なない、限りある人生に追い立てられる事は無く、ライバルは、絶対に自分より早く死ぬのだから、皆いつもこんな調子だ。



 何よりも、死霊術ある限り、他者の死に、責任なんか感じなくてもいい。死んだらあの世から呼び戻せば良いのだ。何回でも。



 生ある侍従たちでは、即ライフをドレインされ、即死確実の空間でこの場で、忙しく立ち働いている、エルダーリッチとしてリビングした珍田捨巳が良い例である。可哀そうな元侍従長は、天国から強制的に呼び戻され、不死の帝王に再度仕えている。気心の知れた人間が、近くに欲しいとの、かの人のオーダーに永山が応えたのである。



 そんな感じの軽い支配者に促され、顔色にの悪い死霊術師は、この場に居並ぶ不死の貴族たちに、己が計画の第二段階について話始めた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

烈火の大東亜

シャルリアちゃんねる
SF
現代に生きる男女2人の学生が、大東亜戦争[太平洋戦争]の開戦直後の日本にタイムスリップする。 2人はその世界で出会い、そして共に、日本の未来を変えようと決意し、 各海戦に参加し、活躍していく物語。その時代の日本そして世界はどうなるのかを描いた話。 史実を背景にした物語です。 本作はチャットノベル形式で書かせて頂きましたので、凝った小説らしさというより 漫画の様な読みやすさがあると思いますので是非楽しんでください。 それと、YOUTUBE動画作製を始めたことをお知らせします。 名前は シャリアちゃんねる です。 シャリアちゃんねる でぐぐってもらうと出てくると思います。 URLは https://www.youtube.com/channel/UC95-W7FV1iEDGNZsltw-hHQ/videos?view=0&sort=dd&shelf_id=0 です。 皆さん、結構ご存じかと思っていましたが、意外と知られていなかった、第一話の真珠湾攻撃の真実等がお勧めです。 良かったらこちらもご覧ください。 主に政治系歴史系の動画を、アップしています。 小説とYOUTUBEの両方を、ごひいきにして頂いたら嬉しく思います。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

素人童貞の俺が会社のおばちゃんたちとやりまくったら…Ⅱ

ノン
恋愛
他のサイトで好評を得た作品をリメイクし、続編へと続きます。 まずは、「やってやってやりまくり編」からスタート 28歳の俺は、デリヘルにハマっていた。いつも指名する「みなみちゃん」とお別れの時に、生挿入と中出しがゆるされた。みなみちゃんは幸運の女神だったのか、それから俺は会社のおばちゃんたちとやりまくることに。即尺、即アナル舐め、即69と風俗顔負けの技が飛び出して酒池肉林の日々を送る中、みなみちゃんと再会すると、彼女はトラブルメーカーでもあった。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

処理中です...