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初穂狩り

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 邪悪なる死霊術師にして、大魔術師の手により、帝国の中枢は落ちた。



 落とされた側が、喜んで飛び回っているのが問題だが落ちたのだ。



 政治家と言う連中は、幾ら綺麗ごとを言おうと、権力の亡者だ。それが悪い訳ではない、それが人の世と言うもので、それ無くして国家は回らない。



 永遠の支配と言う餌をチラつかせ、死霊術師は多くの議員を己が支配下に置いた。



 まあ、実行したのは達磨さん含め、永遠の人生をエンジョイする、パーティーノーライフノーブル達であるが。



 血の眷属となり、永遠の若さ、人を超越した力、生ける者を犠牲にして君臨する、王者の人生の絶頂にいる、レッサーなノーブルたちも、直ぐに永遠の権力闘争の場に叩き込まれた事を理解するだろう。



 上役は死なないのだ。千年でも万年でも、自分より偉くて強い奴が威張っている。その上、下手をすると、血統で上を行く新参者に蹴り落とされ兼ねない。



 その辺は、現実的な政治家である最初期の不死者たちが上手くやっている。



 神代の血統を分け与えられた、ぶっちぎり最強ヴァンパイアーズ事、近衛連隊を顎で使える陛下は、永山を除き、この帝国で最強の暴力機関を個人で有するお方であろう。



 政治を掌握しつつあるなら次は軍隊だ。



 いくら不死者が素手で人間を引き裂けても、重砲をずらっと並べて砲弾の雨を降らされたら壊滅は必須。刈り取りの時までに精々、定命の軍隊も強化しなくては。



 

 





 「あいつら、なんとかならんのですか!」



 南次郎、関東軍司令は、予備役編入を前に舞い込んできた、厄介ごとの対応に追われていた。



 厄介ごとの元は本土からやってきた、新兵器運用部隊だ。



 中央は、この部隊を有無を言わさずに送り付けてきた。弱腰だった筈の連中が急にである。



 その背景には陛下の政治的後ろ盾がある。226事件より向こう、こと軍事については陛下は積極的に横車を押してきている。今までであれば、不敬ながら政治的に黙らせる(軍事的暴走も含めて)事が出来たが今は違う。



 何をどうやったのか、近衛師団は陛下の私兵も同然で、陸軍中央の威令を持ってしても、おいそれと言う事を聞かないのだ。



 無論ありとあらゆる嫌がらせを行い、引き離しを図ったが……逆ねじをくらい、軍から放り出される者や謎の失踪を遂げる者まで現れる始末。



 政治の方もだんまりだ。誰も、野党でさえも、何かを恐れた様に陛下の専横を許している。



 遠く満州の地では、其処ん所がよく分からない。分からないから焦れる、今まで、中央の鼻先を、引きずり回していた自分たちが、蚊帳の外だ。



 「それは分かる。私もあいつらは如何にかしたいんだ。だがなぁ、君も知ってるだろう?あいつらは匪賊討伐に結果を出しているんだ。結果を出している以上、邪険にもできん」



 「それが問題なんですよ!閣下!あの死体の山!あいつら嬉々として匪賊の死体を持ち込ん来る!そしてあの臭い!臭くて敵いません!不衛生です!防疫部の連中が怒鳴り込んだと言うのに、叩き出されたんですよ!」



 態々、司令官である自分の所まで話を持ってきたのだ。相当に軍内部で不満が溜まっているんだろう。この禿参謀の顔を見てれば分かる。佐官がして良い顔ではない。



 「彼らが言うには、新兵器の運用には、あの死体が必要なんだそうだ。我慢してくれ!」



 それしか言えない。司令である自分には、内々に陛下のご指示と厳命が下っているのだ、唯でさえ、予備役編入が遅れているのに、この上、陛下に逆らって首にはなりたくない、年金に差し障る。次の朝鮮総督の地位も失うかもしれない。



 「それでは兵が可哀そうです!あの臭いと陰気な連中のせいで、飯も碌に喉を通らんのですよ!」



 それも分かる。あの上司の前でも色眼鏡を外さぬ連中が、陰気で気に食わないのも分かる。だがなぁ。



 「そこまで不満なら自分で文句を言ってはどうだ?私は止めんぞ、それで問題を起こす様なら、私からも何とかしよう、ん?」



 「それは、、、、、その、、、」



 参謀は急にしおらしくなった。理由は分かる。良ーく分かる。怖いのだ。



 なにもこの参謀が臆病と言ってはいない。だがあいつら不気味すぎる。こちらの許可も取らずに、何時の間にやら勝手に出撃し、夕闇が濃くなると死体の山を荷馬車に乗せて戻ってくるのだ。



 あの荷馬車の馬車馬さえ怖い。一度見れば分かる。私の馬も怖気ずいて、あいつ等の車列を見ると暴れ出す。危うく振り落とされる所だった。あれは生き物の目ではない。



 血塗れの軍服、不気味な軍旗、なんで口まで血でベットリなんだ?連れている苦力も、あれ満足に食わせているのか?鞭で打ってない?死ぬよ普通?



 あの陰気な笑い。死者を冒涜するかのような歪んだ諧謔、(慰問に来た噺家が、本物の死体を使って、「らくだ」を一席やらされたと泣いてきたらしい)付き合いたくない。



 「自分で文句を言えないのであれば私は知らん!先ずは自分らで解決したまえ!彼らは帝国の為、新兵器の運用に来とる仲間だ!」



 ここで押し切る。自分はもうすぐ引退なのだ。厄介ごとは後任に任せる。うんそれが良い。



 「ですが、、、」



 「口答えするな!話は終わり!仕事に戻れ!」



 「お言葉ですが、新兵器、新兵器と言いましても、何時彼らは新兵器など使っておるんですか?影も形もありませんぞ!」



 「五月蠅い!、、、、まあそれは私も気になっておる。分かった、私からも話はしよう。だが、先ずは自分たちで解決を図る様に、良いかね?」



 「承知しました。戻ります」



 「うむ」



 やれやれ、やっと帰った。五月蠅い男だ。参謀を追い返した南は、どっかりと椅子に腰をおろした。そして疑問を口にする。



 「確かにそうなんだよ?あいつら何を試験しとるんだ?いかん、いかん、止めだ止め!関わりになりたくない」



 ふと時計を見れば、そろそろ夕方。窓の外には夕闇が迫っていた。
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