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第二十八話 ばーにゃ!

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 「出して~!此処から出して~!熱いー熱すぎますー!整うなんて嘘ですよー!あれは自律神経をバグらせて気持ち良くなっているだけなんですー!」



 どうもお早うございます。謎の原住民に攫われた哀れな犠牲者です。意識を取り戻した私を待っていたのは、灼熱のサウナ地獄で有りました。



 「五月蠅い!お前臭い!そこで匂いとれ!」



 「酷い!私の体の何処にそこまで悪臭を放つ要素が有るんですか!」



 「体!魂!存在そのもの!」



 そこまで言うか!現在、私はグルグル巻きに縛られた上、皮で作られたテントの即席サウナで、強制デトックスされています。外の見張りは立ち込める悪臭?に恐れをなしたか、ロウリュする時も鼻を摘まん入って来る始末。酷い!



 熱いよー熱いよー熱くて死ぬよぉ!私が一体何をしたと言うのですか!少し人間さん社会に破壊と混乱を招いただけではないですか!それだけの事で魂が汚れているとでも!



 酷い!私、このまま死、死んで、、、、、おふざけは此処まで、実は、何故にこの子たちが私を「臭い」等と言ってるのかは、良くわかります。人間さん社会で長く暮らしていたせいで、私の体に人間さんの匂いが溜まっていたのでしょう。



 誤解しないで貰いたいのですが、穢れ的な物ではありませんよ。都市の子供達と百年に渡る生活で気づいたのですが、私たちエルフは環境に順応する際、肉体はおろか魂までもが、置かれた環境により、色々と変化するの事が分かったのですが、それが彼らをして「臭い」と感じられるのでしょう。



 順応性と言う意味では我らエルフは人間さんに劣っています。都市の子供達を森に連れてきても、同じエルフで有るにも関わらず、直ぐには森の子供たちの様に、十全に己の能力を発揮する事は出来ないでしょう。



 何を当たり前な事と、皆さまお思いでしょうが、それは皆さま方の多くが人間さんだからです。事、環境への素早い順応と言う意味では、エルフより人間さんの方が遥かに優秀なのではないでしょうか。異なった環境に馴染めないと言うのではありませんよ。むしろ馴染み過ぎてしまって、切り替えに時間が掛かると言った方が正しいでしょう。



 私の魂は元人間で有りますから、意外と高い順応を、見せてますが、純エルフが森でも都市でも異なった環境に完全に順応するのは、恐らく百年単位での時間が掛かるのではないでしょうか。



 都市での長い生活を振り返って考えるに、良くも悪くも我らエルフは、その構成要素が霊に寄っている関係上、肉と霊の程よい塩梅で作れられた人間さんに比べ、言わば過適応を引き起こしているのではと言うのが私の見解です。



 己のいる場所の影響を受けるのは人間さんも同じですが、肉体的、精神的な影響のみしか受けない皆さまと違い、霊的、魂的にまで影響が出てしまうのが我らエルフなのです。



 その影響が、今、私を蒸し饅頭にしている子供たちが「臭い」と感じる魂の匂いなのでしょう。それがサウナ程度で抜けるのか?ですか?



 皆さま、私が此処に監禁されて何時間たっているとお思いですか?私が意識を取り戻してから、既に一日は経過してるんですよ!水や塩の補給は受けておりますが、人間さんだったら等の昔に死んでいます!



 それにですね。ここで私が受けている灼熱拷問は、儀式的な物を多分に含んでいます。エルフにサウナの文化は有りませんし。私も子供達に教えた事がございません。恐らくシャーマンになった子供の誰かが、神秘体験を通して、講師の先生のお言葉を聞いたのが始まりなのでしょう。ですので効力は確かにあります。



 ロウリュウォーターは朝一番に汲んだ石清水、アロマはニガヨモギとトネリコの樹皮。少し前など強烈な勢いで白樺の古木から取られた枝でヴィヒタ あれは狐憑き落としですよ されました。痛かったですよ。そりゃあもう、ビシバシ音が出る位です。あれで喜ぶのはどこぞの脱走囚人だけですよ。



 また入ってきた!止めて!また私にアウフグースするつもりでしょ!もう十分ではないですか!私の魂は元より真っ黒なんです!頑固にこびりついた漆黒の欲望が簡単に落ちるわけないでしょ!



 

 「出ろ。長がお呼びだ。匂いは、、、、随分とましになった。それにしても、お前、何者だ?あんなに急いで来た長は初めて」



 ようやくですか。どうやら刑期満了のようです。





 流石に動けませんので、入ってきた子供 私の顔をしらないので、第三から第四世代なのでしょう に肩を借りてテントを出ると、急いで駆け寄る懐かしい顔が有りました。



 「矢張り母か!孫たちが、森で妙な同胞を捕まえたと聞いて急いで来た!お前!母に何をした!」



 駆け寄ってきた人物、六女の竜の舌は、開口一番、私に肩を貸していた子供、私の玄孫になる少女を一喝しました。そうですか、娘よ、貴方も孫が出来たのですか。それは良かった。でも、もう少し早く来てほしかったなぁ、、、、、









 「この馬鹿孫共!」



 それから暫くして、どうにか回復した私は、玄孫たちと共に正座で六女のお説教を受けております。何故に?私は純然たる被害者ですよ?



 「さっさと自分の名を明かして、私を呼ばないからだ!馬鹿母!もう少しで死ぬ所だったぞ!」



 そんな大げさな、あれしきの事でエルフは死にませんよ。心配性何だから。いやぁ、ほらあれです、私も新しい森エルフの儀式と言う事でつい興味が湧きまして、最後まで受けてみようかなーなんてつい、、、、



 「こいつ等は、まだ子供だ!加減を知らない!母の匂いが取れないからと言って、竜血樹を使って燻しますか?等と言ってきたんだぞ!」



 わーお過激!私は古狸か何かかな?龍血樹は霧の森でも珍しい香木なんですが、その匂いと効力は、強烈その物。その上、月光草とは違いかなりのダウナー系のお薬の元なんで、獲物を大人しくする時に少量使うんですが、それでエルフをいぶりがっこにしようとは、いやはや確かに加減と言う物を知らない。流石の私もあれで燻されたら死んでしまいますよ。



 「それはまあ、、、お怒りごもっともなんですが。でもほら、未遂ですし?こうして貴方が迎えに来てくれましたから報連相は守ってます。ここは私の顔に免じて許してあげては、、、、駄目?」



 「駄目!」



 怖!凄い剣幕です。確かに同族殺しはエルフ的にはご法度な禁忌、怒るのは無理も有りません。ですがね、この子らも森を守ろうとしたしただけですし、幾ら同族だと言っても、都市の匂いをプンプンさせた怪しいエルフに警戒するのは当たり前でしょう?ね?許してあげて?ついでに私も許して?足が痺れてきたの。



 「はぁ、、、もう良い。お前たち、母の顔に免じて許す。だが、同族を殺しかけたのは事実だ。次の祭りへの参加は禁止する!分かったな!」



 「酷い!」「父に会えない!」「俺の嫁!」「嫁き送れる!」



 「黙れ馬鹿孫共!自業自得だ!」



 祭り?参加?私のいた頃には無い言葉が出てきましたね?嫁き遅れる?はて?何のことでしょう。



 「母!」



 はい!なんでしょうかマム!私ちゃんと聞いております!怖い顔しないで!



 「マム?なんだそれ?孫たちはこれで良いとして、何で急に戻ってきた?自分で自分を追放したのだろ?百年戻って来なかったのだ、あと五百年くらいは戻って来ないと思っていた」



 そりはですね。色々とあるんですよ、、、、本当は十何年で戻ろうとしてたとは言えななぁ。



 「森の外で色々とあったんですよ。人間さん社会も大きく変わりましたので、情報共有もしたかったですし。それにですね、私、新しい氏族を起こしたのです。新しい兄弟のお話も聞きたいでしょう?」



 「外で子供を成したのか、、、母らしい。また父が怒るぞ。まあ、それが貴方か。ふー、、、兎も角、お帰りなさい。皆喜ぶだろう。私も嬉しい」



 「はい、ただいま。貴方も成長しましたね。それに我が玄孫たちよ、挨拶が遅れましたね、私が貴方たちのひいひいお婆ちゃんですよ」



 「嘘ぉ」「お前が?痛い!婆ちゃん殴らないで!」「淫魔、、、実在したのか」



 まあまあ、これくらいの歳の子ですから暴力はいけませんよ娘よ、それと最後チョット待ちなさい。竜の舌よ、貴方、自分の孫に母の事を何だと教えてるのかな?



 此奴、そっぽを向いたな。そう言う奴はこうじゃ!その口か!その口か!禄でもない事、子孫に吹き込んでいるのは!



 「いふぁい!何する!」



 「おお。すげぇひいひい婆ちゃん。長にあんなことしてる」「婆ちゃん怖いのに」「すげぇ淫魔すげぇ」



 こんなじゃれあいをするのも久ぶりですねぇ。都市の子は大人びているので、直ぐに遊んでくれなくなるのですよ。



 







 



 「久しいとはな白百合よ。息災であったな」



 「お久しぶりございます。お兄さま」



 子孫たちとの中々にデンジャラスなファーストコンタクトを果たした日から二日程あけ。私は霧の森の中心、懐かしき我が家に戻って参りました。相変わらずお兄さまは凛々しいですね。この百年、私の体を過ぎ去っていった男たちは、悪いですが誰もこの方には勝てません。よっしゃ!再会の一番やるか!



 「まて、落ち着け白百合。そんな事をしに戻って来たのではあるまい?お前は新しいエルフの導き手なのだ。落ち着きなさい。それと脱いだ服も着なさい」



 はーい。おやおや、お兄さまも随分と柔らかくなられましたね。百年前まであったピリピリとした雰囲気が無くなっております。これが険が取れたと言う事なのでしょうか?



 「百年と言う物は意外と長い物だ。先人たちに取っては如何と言う事ではないだろうが、私も子供達も、まだ千年も生きてはいない若木でしかない。お前が旅立ってからの百年でそれを理解できた。子育てとは存外に難しい物だな。考えれば、私は子供たちの事はお前に任せきりにしていた。お前が居ない間の時間はそれを思い知らされたよ」



 ご苦労があったんですね。そうですよ、なんだかんだ言って、お兄さまも私も、エルフ一番と二番の長生き

 ではありますが三百歳と二百歳ですもの、二万何千歳とか言う、ご先祖様に比べれば若者も若者、髭達磨の老人の方がよっぽど年上の可能性もあります。



 「霧の森も変わった。子供達も随分と増えている。竜の舌に聞いたが、お前は、玄孫に殺されかけたそうではないか。あの子は怒っていたが、私はその事を聞いて、悪いが笑ってしまったよ。しかし、臭いから燻そうとしたとは、、、クククッ、その光景を思うと、、、、ふふっ」



 あっ!笑ってますよ。本当にお兄さま、変わりましたね。百年前でしたら柳眉を逆立てて、子孫と言えど切に行った筈です。なんと言いますか、大人になられたと言いましょうか、お父さんになられたのですね。本来なら大家族主義を取るエルフは、数千年を生きた先達からで父や母となる導きを受けるのが普通なのです。



 人間さんに取ってもそれはごく当たり前の事。皆さまの世界の先進国の様に、核家族問題が起こる前までは集団のよる子育てが普通でしたでしょ?この世界でもそうです。私達にはそれが有りませんでした。



 導かなければ行けない義理の妹と二人、エルフからすれば百歳と言う若年で、大量の子供を背負うのはさぞ重荷だったのでしょう。問題の原因は殆ど私ですが、、、



 ですが、独り立ちした子供達に囲まれ、自分の孫や子孫を育てるのは、穏やかとは程遠いかもしれませんが、彼に良い影響を与えたのでしょう。良かった。なんだか安心しました。



 「すまん。笑って悪かった。では本題に入ろう。外の世界ではどの様な変化があったのだ?お前の事だ、人間たちをただ観察していただけではないのだろう?どう彼らの世界を引っ掻き回したのか聞かせて貰おう」



 引っ掻き回したとは随分な物言い、、、、引っ掻き回しました。それはもうバリバリと引っ掻きましたよ。障子紙に襲い掛かる猫の如く。ではお話致しましょう。



 「まずは帝都。今は聖都と名前を変えている。大樹の館について聞いて欲しいのですが、、、、、」



 穏やかな日の光指す故郷に置いて、私は長い話を愛する義理の兄に話始めました。

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