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第十一話 ゴミパンダエルフと犬人間

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 ようこそサメの巣亭へ!どうも若女将も板に付いて参りました、エルフ娘でございます。私が帝都を訪れてより、人間さん感覚では、随分と時間が経ちました。凡そ十六年位ですかね。初めて訪れた時には、整った私の鼻が曲がるかと思いました、都市の匂いも住めば都の言葉通り、どうにか慣れて参りました。



 皆さまには、何故にエルフが、敵の本拠地の一つで、悠長に店舗経営なんぞしているのかと、お思いかと存じますます。これには訳が有るのです。



 十六年前、私を襲おうとした水夫に逆襲し、心も体も支配しました後、私はサメの巣亭を制圧致しました。意外と簡単でしたよ。店主も店員も、私が男に騙されてこの店の専属娼婦に売られたと、思い込んでいましたので、一人ずつ例の防音室に誘い込み頂きました。占めて十人、今では私の忠実な手足として、裏通りに有った旧サメの巣亭と、此処サメの巣亭二号店 今ではここが本店ですが の経営を任せております。



 私、人間さんの都市に来て気づきました。森育ちのエルフが、人間さんの都市へ諜報や偵察等とても出来ないと。人間さんの密集する匂いと来たら、慣れた今でも時折、ウっと来る時もある位です。そこで思い立ちました。元より偵察の積りで入り込んだのですから、都市に適応したエルフ氏族を作ってしまおうと。



 此処は人類社会の最新の情報が手に入る一大港湾都市です、其処に潜伏する利益は計り知れません。隠れ住む場所は幾らでも有るのです。第一犠牲者の水夫の申します所、相次ぐ戦乱と生存権の縮小は、大都市へ恒常的な難民の流入を招き、スラム街が多くの大都市で問題化しているそうです。そこでは官憲の目の届かないコミュニティが幾つも乱立し、社会不安に拍車を掛けているそうなのです。これより浸透に適した場所は有りません。何よりもここは旧エルフ帝国の経済的中心地、人間さんの未だ把握していない空間も多く残されています。



 私が利用するのは、スラムと地下、帝都に広がるアンダーなワールドです。これから少し、今までの苦労話を聞いて頂きましょう。



 

 

 第一犠牲者である水夫君、そうそう、彼今では一端の船長なんですよ、ケチな悪党の割には出世した者です。私が少し、ご協力しましたが、彼より聞きだしました情報と、サメの巣亭を訪れる、お客様との世間話の情報を合わせますと、大まかな世の動きが分かってきました。



 九十年前、開拓村の皆さまが危惧した通り、各地の軍閥との内乱や、対立を始めた人間さん各国の戦争は、相当な物だったそうです。「大内乱」と今では呼称されている、この人類間の戦争は、つい十年前まで、短い戦間期を挟みながら継続し、人類圏は甚大な損害を受けたそうです。



 十年前、戦乱に疲れ果てた各陣営は自然的に休戦。各陣営共に、生存圏の維持は困難になり、荒れ地と化した地域が、結果的に非武装地帯の役目を果たしている為、現在は一応の平和を見ているそうです。ですが、荒れ果てた境界線に住む人々は荒々しい自然の前に農地を放棄、都市に流れ込みつつあるのが現状。



 この帝都を有する、帝国(笑い)も帝国とは名ばかりの都市国家へと落ち、辛うじて維持する周辺の農村地域と、海上交通網の要衝に有る有利で、どうにかこうにか国を維持している有様。本来の帝国構成地域は半独立状態、臣従の姿勢は見せている物の、中央の政治介入は頑として受け付けていないそうです。



 思ったより酷い状態ですね、エルフ的には最高なんですが。アレですね中途半端に文明化した反動が諸に出た感じです。帝都の様子を見ますに、建築物も。半壊したエルフ様式、比較的形を残す髭達磨式、新しくは有りますが粗雑な人間式とバラバラ。帝都各地に分署を要する衛兵隊を代表として、ある程度は整った官僚組織を有している様ですが、資金に人材不足で、ノウハウの継承が上手くいかない為、綻びが出ている様子。



 崩れかけの古代帝国か、ゴート戦争後のイタリア半島な感じがします。まあ、私の拙い分析ですが。これで国が崩れていないのは、目立った外敵がいないお陰でしょうね。エルフが行きますから、待っててね人間さん!



 人間さんの生情報が手に入った後は行動の時間です。私は、新たな氏族が隠れ住むに十分な土地を探して、その足を帝都地下に向けました。スラム街も港湾地区もある程度、自分で判断が出来る者が拠点にするならば良い場所ですが、安全な子育てにはねぇ。それと、オメデトウ、水夫君、もしくはサメの巣亭の従業員のご一同、貴方たちの誰かがパパよ♡。青い顔で気絶するな。



 



 「臭い、臭い、臭い、臭い!ここで良いのホントに!」



 思わず、声が出ます。臭いんだからしょうがないでしょ。ここは帝都の地下深く、エルフ帝国時代からある物と、髭達磨が、後から追加した物が合わさる大下水道網が作りだす、大迷宮の中です。



 エルフ的千里眼で大まかな位置は分かりますが、それでも現地に赴いてみると、いやあ入り組む入り組む。エルフ式下水は、岩盤を砕きながら伸びる、世界樹の子供の根に沿って有機的に建築されていましたし、髭は髭で、エルフ糞くらえな感じで、無理に自分たちの下水網を作るから、訳が分かりません。これで帝都が地盤沈下しないのは流石の腕前ですが、後の人の事を考えていないのは確実です。



 「本気で、人間さんが整備する事なんて、想定されていないんですよね。人間さんが高い技術を持つのが、そこまで嫌か?、アル中土竜共」



 帝都の人口は、現在凡そ、二十万程度。エルフ帝国時代の百万を考えれば少ないですが、それでも大都市で有る事に変わりありません。人間さんだけで良く持たしている物です。



 「ここを右、えー其処を渡るんですか?これ川でしょ!」



 しょうがない。ここは、Bボタンを押し込みダッーッシュ!ドボン!くせー!



 「もう嫌ぁ!エルフで無ければ、今頃、感染症で死んでますよ!誰ですか!これ作った奴!出てこい!」



 ああご先祖さまか、もう死んでますね。大樹の館陥落時に、包囲されたエルフと人間の奴隷たちは、世界樹の子供に火を放ち、燃える大樹と共に自決したそうです。嫌だなー焼死。まあ、エルフの皮を削ぐ奴が居たのが悪いんですが。髭よ、そこまで憎いか?エルフ・ドワーフ戦争の切っ掛けは、無礼を働いた使節の髭を剃って帰したのが始まりとは言え、捕虜の頭の皮を削ぐまでするか普通?



 「クーソ塗れ!ゴミ塗れー!私は可愛いゴミパンダー!」



 ヤケクソなので歌います。曲名、「アライグマな私」



 「ここですね。僅かに潮の匂い。海が近いのが分かります。矢張り、脱出を想定してましたね」



 おウンコに塗れてまで、私が探していたのは此処です。霧の森に残されていた文献に有った、大樹の館の、隠れ家の一つ。髭達磨に発見され、破壊されている事を覚悟していましたが、無事の様です。幾ら髭達磨が地下生活に特化していても、高貴な(笑い)エルフが地下に隠れ家を作っているとは、考えが及ばなかったのでしょう

 

 「地精さん。木の伴侶である、貴方の力で隠し物を見せて下さい。貴方の約束を守って下さい」



 地上に有った部分は根こそぎ燃やされるか、破壊されて持ちされていますが。未だに地下に残る、世界樹の子供の根に呼びかければ、あら不思議、隠された道が開けます。おーぷんざせさみ!くっきーだいすき!



 「では、お宅拝見と行きましょう。突撃せよ!今夜の晩御飯は君だ!、、、不毛ですね、、、誰か突っ込んで下さい」



 悲しくなってきましたが、長きに渡り隠されていた隠れ家は、良い物件でした。光キノコと、何処からか漏れ出る、僅かな太陽光が作り出す明かりに照らし出されたのは、広々とした空間でした。





 地下水で作り出された清流を湛える小川には魚が泳ぎ。外からは発見できぬよう、隠された入り江には朽ち掛けた船が横たわり、薬草園と思しき庭園には苔むした東屋。伝統建築である白金葺きの館が今もなお、エルフ帝国の偉容を誇っています。



 「良い仕事してますねぇ。さすがご先祖様。デデーン!新ロケーション発見!隠された波止場!」



 喜び勇んだ私は、汚水に塗れた服を脱ぎ去り、小川の注ぎ込む入り江に飛び込みました。探索は後!この染み付いた匂いはもう我慢できません!ああ、冷たい水が、気持ちいいんじゃ。



 そして、気づいた時には、武装した人間さんに囲まれていました。鼻が馬鹿になっていたので、覗き魔の接近に気づけませんでした。あれまぁ。死んだか?私?



 一瞬死を覚悟した私が、一か八か潜って逃げようとした所。入り江を包囲していた人間さん達は、私を見るや、跪いて号泣するではありませんか。拝んでいる者もいます。私の光輝く赤銅の肢体は魅力的かもしれませんが拝む程か?



 流石の私も、変質者たちの突然の奇行に呆然としましたが、代表であると名乗った女性が、話しかけて来た事で状況を理解しました。なんと彼ら、旧エルフ帝国の奴隷の末裔だそうです。



 「突然の事、驚かれたとは存じますが、お許し下さい、主様」



 代表の女性、仲間たちには執事長と呼ばれておりました女性は、隠れ家の館にて、訳を話されました。大樹の館が陥落した際、彼女らの先祖は、隠れ家に主人であったエルフと共に脱出したそうです。残念ながら主はそこで、戦傷が元で亡くなりましたが、先祖はその遺命に従い、この隠れ家の上に村を建て、生き残りのエルフが万一逃れて来た時の為に、隠れ家を維持していたと言うのです。



 はえー、律儀な事。大樹の館が攻め滅ぼされたのは。千年以上前の事ですよ。そこまで忠義を尽くさないでも良いでしょうに。



 「豆犬の忠義とお笑い下さい。ですが、我が一族は、主に数千年来お仕えし続けてきたのです。今更他の生き方を存じません。主の遺志は一族の使命なのです。其れは兎も角、こうしてエルフであられます、貴方さまのご帰還を仰ぎ、私の代で使命を果たせた事、嬉しい限りでございます。何なりとお申し付けください」



 そこまで言われると恥ずかしいですねぇ。この方の達の主は余程、良い主だったのでしょう。大きい声で言いますと、気を悪くすされるでしょうから言いませんが。エルフ帝国では人間さんの飼育がブームだった時があるそうです。良く見れば皆さん、悪いですが人間さんにしてはお顔も良く、体も大きくあります。この方たちの主は余程、名前の通ったブリーダーだったのでしょう。



 エルフに取って、数千年は犬を長く飼う位の感覚でしょうが、人間さんに取っては、先祖代々の主、ましてや品種改良まで数百代にわたって行われているのです。さぞや忠義なワンちゃんになっているのでしょう。元人間の感覚では、グロテスクとしか言いようが無いでが、利用させて頂きましょう、その忠義。



 彼らに案内され、秘密の通路から出ますと。帝都からやや離れた海岸沿いの村に出ました。何処まで伸びてたんですかねあの迷宮。



 私から、これまでの忠義に対する感謝を伝え、使いどころのなかった、袋一杯の葉銀を、下賜と言う事で渡しますと、彼らは快く協力を約束してくださいました。尊大なご主人様の演技は疲れますが、彼がそう望むなら、ご主人様役をしましょう。



 こうして、私は安全に子育て出来る場所と、住処を手にしたのです。長くなりましたので。今日の所はこれまでしましょう。ではまた後日。



 



 ご主人様命令です!其処のお前、夜伽をなさい。嫌?とても出来ない?こっちに来るんですよ!へへっ抵抗できまい。嫌よ嫌よと言っても体は正直ですねぇ。おらっそこのお前!お前も来い!子供たちの婿になるんだよ!ぐふふふ、これからこの村は、ワクワクエルフヴィレッジに成るんですよ!
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