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第六話 お別れと旅立ち 侵略的外来種を添えて

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  お別れとは何時でも悲しい物です。どうも、少し、しんみりと致しました、空気の中、エルフ娘がお送り致します。本日、霧の森、最後の人間さんが息を引き取りました。享年101歳人間の限界を超えた長寿でした。霧の森に人間さんをお招きしてから九十年の月日が流れました。



 森に漂う奇跡の力により、若さと活力を取り戻しました人間さん達が、とっても頑張ってくれましたおかげで、ここ霧の森エルフ村は、五百二十六人の人口を抱える、大きな物となりました。有り難う人間さん。



 子供たちに取っても、人間さんを看取る事は、良い教育に成りました。愛した妻、夫、母親、父親との、永遠の別れを体験する事は、定命と永遠と言う、超えられない壁の存在を意識し、生命への畏敬を新たにする事に繋がりました。狩猟採集で生きている私達ですので、獲物の死に付いては慣れっこですが、つい先ほどまで楽しく話していた相手が、永遠に居なくなるのは、体験しようとしてもなかなか出来る事では有りませんからね。これから起こるで有ろう事を考えますに、穏やかに、愛した者を送り出す事は、難しくなるかもしれませんから。



 人間さん達を見送り、森の人口も五百人を突破した今、遂に計画を発動する時が訪れました。エルフ復興計画第二弾、播種作戦です。これまで、霧の森を唯一の生活圏としてきたエルフでは有りますが、その生活圏を外に広げる事に、着手する時が訪れたのです。



 正直。断腸の思いではあります。野望に燃える私とて、一人の親。愛する我が子たちを荒野に追い出す様な真似、好き好んでやりたい訳では有りません。しかし、種族の復興は神様より命じられた使命、私の存在意義でもあります。野望と親の情、相反する気持ちが私の中には存在します。ですが、何時かは子供は親から巣立つ時が来るのです。辛いですが。これも運命と諦めましょう。



 



 母より、霧の森の至聖所、四季の庭園にある、大いなる方の幕屋に呼び出された者は、我ら兄弟の中でも、年長の十人であった。薄暗い幕屋の中で待っていた母は、何時もの何処までも陽気で明るい顔をしていなかった。其の表情は重苦しく、何か重大な事を伝える積りで有る事が声に出さずとも察せられた。



 「母よ、お呼び出しになった兄弟、全員揃いました。どの様な御用ですか?」



 私、第一子であり長男である、大鷹の瞳の言葉に答えた母の声は、重々しく悲しみを含んでいた。私は気付いた。別れの時が来たのだと。



 「有り難う、大鷹の瞳よ。お前たちに伝えなければいけない事があります。」



 何時もで有れば、鷹ちゃんとしか私の名前を呼ばない母が、正式な名前を呼んでいる。後ろで長女の春風の声と、次女の燃える火の輪が目を見ているのが分かる。そこまでか驚くか?驚くか、、、愛すべき母が我らの名前を正式に発音した事等数えるほどしかない。



 「可愛い子らよ、お前たちは旅立たねばなりません。この安息の地を出て、新しい一族を起こすのです。我れらは、未だ繁栄には程遠い存在。お前たちは一粒の種です、広い大地に蒔かれ、多くの実を結ぶ時が来たのです」



 母の口より出た言葉は私の予想通り、別れの時が来たことを告げるものだった。母は我らに子供たちを率いて、新しい一族を起こせと命じた。母の言葉、一言一言に痛みが込められているのが分かる。我らいや私も出来うる事なら、この地を離れたくはない。しかし、種族の繁栄は神のご意思でもある。涙を飲まねばならない。気づけば皆泣いていた。生まれて来てより百年以上一緒だった者と離れ離れになるのだ。涙を流して当然だろう。



 「あー。しんみりし過ぎましたか?こんな雰囲気で言いにくいんですが、補足説明があります。」



 ん?母の雰囲気が変わった。荘厳なエルフの王族ではなく、何時もの馬鹿で騒がしくて底抜けに明るい母の雰囲気だ。嫌な予感がして来た。妹たちは本気で別れを悲しんでいる。私もそうだが、此処でふざけると酷い事になるぞ母よ。



 「我が子らよ、これを授けましょう」



 母はゴソゴソと幕屋の奥、祭壇を探り、持って来たのは、新緑の色をした人の掌に収まるほどの種であった。



 「じゃーん!世界樹の種です、往時のエルフ帝国は、世界樹の若木と若木を魔法で繋ぎ、一瞬で遠隔地に移動していたと言います。既存の若木は焼き払われてしまいましたが、この種を、あなた達が腰を落ち着けた場所に植えれば。霧の森に有る世界樹の若木との門が開かれるでしょう。」



 「母よ、如何いう事だそれは?門?一瞬?」



 真っ赤に目を泣きはらした、長女の春風の声 が、訝し気に母に尋ねる。私の予想通りの品だったら、不味い事になるぞ。



 「難しいですか?簡単に言いますと、門を通して何時でも会えると言う事です。イヤーさすがエルフ帝国最盛期の魔法だけはありますねぇ。あれ?もしかして永久の別れと勘違いしました?私も一時とは言え子供を手放すのが辛いので思わず真剣になってしまいました。てへっ」



 私の眼前で、嵐の中に放り込まれた様に母がズタボロになっていく。この人は何時もこうだ。最後まで真面目には出来ない。まあそれがそれが良い。陰気な母など見たくはない。









 クソ痛ぇ。娘たち、この頃容赦と言う物がありません。ですがこれで良いのです。明るく楽しく騒がしくが新時代のエルフなのです。悲しい別れなどもってのほか。この先どんな苦難が巻き起こり、この母を置いて子供たちが先に逝く事もあるでしょう。ハーフエルフの子供たちなどは、確実に私より先に逝くのです。最後まで笑って送りましょう。たとえこの母が先に死ぬ事になったとしても、あんな馬鹿がいたなぁ位に思うのがちょうどいいのです。



 明日の明け方、子供たちは旅立ちます。子供たちは三十人程のグループに分かれ、私が目星をつけた土地、旧帝国が残した遺構が有る場所や、奇跡の力が漂い続ける土地に一族を打ち立てるのです。子供たちには、ああ言いましたが、世界樹の種が本当に芽吹いてくれるのか分からないのが実情。本当に今生の別れになるかもしれません。泣いては駄目。泣いては駄目です。



 ん?誰ですかそこに居るのは?ああオークのお姉さんでしたか。彼女は人間よりも長命なオークですから、若さの泉の効果もあり、今だ現役。水の上を歩ける程、神通力の巧みな五男、猛き狼のお嫁さんとして、十五人も産んだ女傑であります。彼女は五男と共に遥か北方、龍頭大地の大雪原に埋もれている、樹氷の都に向かって貰う予定です。彼の都がオークに滅ぼされて二千年程、今や都の存在を知る者は居ないでしょう。



 「何を望まれるのですか、エルフの母よ?何故私を故郷に戻そうと、お考えになったのですか?」



 オークのお姉さん、黒鉄の牙事、クロちゃんは出し抜けに聞いてきました。そうですよね不安ですよね。急に姑から出てけと言われたら。私だったらパロスペシャル決めてやるところです。目の前の彼女に老いは一切見られません、若さの泉の効果も有りますが、極地生存能力と戦闘力にガン振りしたオークは、人生の最後になるまで老化をしません。最後の最後まで生き残り戦い続ける強き生命、それがオークなのです。



 「貴方には望むのは最後まで、息子のよき伴侶でいてもらう事だけですよ。貴方に故郷に戻ってもらうのも、現地に明るい者が居て欲しいからです。心配はいりません。お義母さんを信じて下さい」



  私は出来るだけ優しく諭しました。



 「エルフの母、お義母さん、私は怖いのです。貴方がエルフが、こんな事はあの人には言えませんが、此処に無理矢理に連れて来られてから、私は何度も反抗しようとしました。ですが、どうでしょう。貴方方と暮らすうちに、私の心はいつの間にかあなた方を受け入れてしまいました。オークの私を此処まで従順にしてしまう貴方たちは、私の故郷で何をするつもりなのですか?」



 うーん、良い処に気づきましたね。さすが元女傭兵、凄い精神力です、黒鉄の牙の名は伊達では有りません。可哀そうですので教えてあげましょう。私なんて優しい姑何でしょうか、彼女は私の義理の娘で有ると同時に、義理のお姉さんでもあります。無下には出来ません。弟さんゴチに成りました!美味しかったです!子供は三人おります!内訳はエルフ二人、ハーフエルフ一人です!





 「クロちゃん、貴方悔しくないですか?自分を醜女扱いし迫害した同胞が?」



 「それは、そうですが、、、」



 「オークの価値観を変えて差し上げましょう!肌の色が何ですか!牙の大きさが何だと言うのですか!義母は断じて言います。家の嫁は全オーク一の美人で器量よしだと!」



 「一体何を仰りたいのですかお義母さん?」



 「オークを種族改良しようではないですか!私と貴方の子供達で!全オークを貴方と私の子孫に変えるのです!相争い、美的感覚の狂った彼らに血の鉄槌を下すのです。可愛い娘よ、貴方こそが新しいオークの祖に成るべき人、さあ自信を持ちなさい!」



 ジッと、義理の娘の目を覗き込み熱い視線を注ぎこみます。これぞ彼女や連れて来られた人間さんを従順にした秘密の一つ、他心通擬き、人の心を覗き込み、内なる思いを刺激し魅了する力。さあどうだ、可愛い義理の娘にしてお義姉さん!



 「そうでショウカ?そうかも?そうですよね!私、やります!故郷のオーク共を改良して見せます!有り難うお義母さん!不安が取れました!」



 熱い抱擁を交わし私たちは分かれました。そこの影に潜んで聞いている五男!お嫁さんのフォローアップ位ちゃんとしなさい。貴方がちゃんとお世話しないでどうするんですか!



 気配が消えました。聡い子ですので、すぐお嫁さんを慰めるでしょう。皆さんもお気づきでしょうが、お聞きの通り、今回の播種作戦には侵略の意味も有るのです。我が子たちは根付いた地に置いて、現地の知的生命体を苗床に増え続けるでしょう。其れも言い含めてあります。お嫁さんお婿さんは現地調達せよ!産めよ増やせよ地に満ちよ!これが現代エルフの戦争方法です!



 



 次の朝、愛する子供たちは、朝焼けの中、広い世界に旅立ちました。私思わず泣いてしまいました。いけませんねぇ。泣かないと思っていても、百五十歳も過ぎますと、涙脆くて。



 

 

 主人公の血族からなる新エルフの種族名
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