飽食戦線

ボンジャー

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キャンディー食べる?

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 空襲で国家は屈服しない。



 どんなに戦略爆撃の狂信者たちが騒ごうとも、これは真実である。



 最後は敵野戦軍を撃滅し、四面楚歌に追い込めなくては近代国家と言う物は降伏しないのだ。



 ではどんな状況が、近代国家の四面楚歌状態と言えるだろう。



 第一次大戦のドイツ第二帝国が好例であろう。



 カブラの冬。つまり国内で餓死者を出すレベルで物不足に追い込むのだ。



 史実に置ける、大日本帝国もそうだ。列島を機雷で封鎖し、工業と言う工業を爆撃で潰し、陸上海上の輸送を寸断する。



 だがその大日本帝国も、最後に無条件の降伏を選んだのは、ソ連の参戦で条件降伏の可能性を潰されたのが、決定的要因であるし、先に上げたドイツ第二帝国も野戦軍自体は戦える状態ではあった。



 世界中を敵に回してもこうなのだ。



 連合国の盟主であり、世界第一の生産力と、国内に膨大な資源を持つ合衆国を、包囲する事は可能で有ろうか?



 無理だ。東西二つの大洋への玄関口、陸では南北二つに友好国を持つ国家を、を四面楚歌に追い込む等無理である。



 しかも現在、合衆国の海洋戦力は大西洋側は無傷である。



 連合艦隊が幾つあっても無理であるし、帝国陸軍が何倍いても無理だろう。



 ではどうする?



 こうするのだ。





 



 ふわふわと幾つもの気球が空を飛んでいる。



 気球はジェット気流に乗り新大陸を目指している。



 これは何だろう?



 正体は兵器だ。



 風船爆弾。別世界の戦争で大日本帝国が投入した世界初の大陸間攻撃兵器だ。



 殆どの世界ではこの兵器は大した戦果を挙げていない。



 何処かの世界では、数十万トン送りつけて合衆国に悲鳴を上げさせたかも知れないが、概ね戦果は挙げていない。



 この世界ではどうであろうか?



 この世界での風船爆弾に何か特色はあるのだろうか?



 数?



 確かに数は多い。コンニャク芋なら幾らでも出せるので、糊には事欠かない。であるので、史実の三倍は飛ばしている。1945年4月の帝国陸軍はコンニャク業者を兼任している。



 だがこれでは足りない。



 たった数キロの焼夷弾を数トン大目に送り込んだ所で、大国は風呂場でゴキブリを見たくらいの驚きしかしないであろう。



 良く見れば、気球のは遥か高空で積み荷を破裂させている。



 失敗であろうか?この世界の風船爆弾は史実以上の失敗となるのか?



 違う。これが目的なのだ。



 爆発した積み荷。フェムトの砂は気流に乗り遥か新大陸へと運ばれて行く。



 そしてフェムトの砂が合衆国に到達した時、破滅は来た。







 「先生!これ拾った」



 1945年5月5日、オレゴン州ブライで、ピクニックに来ていたジュニアスクールの学生が拾ったのは一つにドロップ缶詰だった。



 缶には傷一つなく、工場直送と言った感じで、何で自分が雑貨屋でなく野っ原のど真ん中に居るのか不満だと言わんばかりに光っていた。



 「あら!何処で拾ったのこれ?ダメじゃない、こんな物拾っちゃ!貴方もラジオで聞いたでしょ、怪しい食べ物に触るなって。」



 子供達を引率していた女性教師は、拾ってきた子供を注意した。



 





 合衆国の戦況は思わしくない。旧大陸はアフリカを除き、枢軸が大手を振って歩いているし、二つの大洋では、水中で空中で激戦が繰り広げられている。



 五月に入り、遂に氷山に閉じ込められたオーストラリアは白旗を上げ、ガダルカナル方面も相次ぐ流氷被害に航路は途絶した。



 勿論、日本が完全優位とはいかない。東南アジア航路ではガトー級に変わり、新鋭のバラオ級潜水艦が輸送を脅かし、長足を生かして襲来するB29の攻撃では大被害がでている。直近では翔鶴級空母が護衛中に大破し、少なくとも一年はドックから出れないだろう。



 「正規空母まで敵は輸送任務に回している。我々も苦しいが敵はもっと苦しいのだ」



 今が我慢のしどころ。秘密兵器たるアレと、B29を超える超重爆に生産には目鼻が付いた。



 「もう少しだ。もう少し頑張れば勝てる!」



 幾ら日独連絡がなった所で、大車輪で生産される米国の兵器を止められるものではない。



 「くそ忌々しい食い物と共に地球上から消してくれる!」



 比喩や強がりではない。秘密兵器たるアレ、原子爆弾はもう数か月もすれば量産体制に入る。



 可能なのだ。このお菓子な戦争を再びひっくり返すことは。



 だが大日本帝国は押してきている。



 パラオ島守備隊が降り注ぐ糖蜜の前に根負けしたのを皮切りに、大日本帝国は、水上機による奇襲食い物爆弾で、取り返された拠点を無力化しつつある。



 上陸ではなく、無力化である。



 糖蜜や汁粉で沈んだ島を取っても復興は困難だ。



 米国もそれを理解してハワイ、ミッドウェー、アリューシャン方面では蟻も逃さぬ鉄壁の布陣で防御を固め、食い物爆弾に襲われそうな拠点からは撤退している。



 これを見た日本も太平洋上に散らばる兵員の回収を行い、損害を積み上げつつも一応の成功を見せている。

 



 どうやら向こうも同じ考え、合衆国の息切れか反戦運動の高まりを期待しているようだ。



 常識的に見ればそう誰もが考える。少なくとも合衆国上層はそう考えた。



 「ハッキリ言って無様であるが勝ちは勝ち。ここで耐えれば勝てるのだから、持久しよう。下手に手を出してまた罠に掛かる訳にはいかない」



 常識的に見ればそうだ。だが相手は非常識、常識が有ればクラッカージャックやポップコーンで戦おうとしない。



 

 



 「念のため、警察に渡しましょう。それを渡してくれる?」



  女性教師に言われた子供は渋々とドロップ缶を渡した。甘くて美味しそうなドロップ、戦争は長期化し、砂糖はアメリカ合衆国と言えども制限されている。子供が渡したくないのも当然だろう。



 「でもね先生、向こうに一杯落ちてるよ?一つ位なら持って行っても良いでしょ?」



 「?沢山おちてるの?どこに?」



 女性教師は今度こそ不審の度を上げた。一つならまあ、自分たちと同じくピクニックに来た誰かが落とした物と考えられる。だが大量と言うと事が穏やかではない。



 良識的で常識的な良きアメリカ国民たる彼女は迷わず最寄りの警察に連絡。



 始めは笑っていた警察も、「先生がご心配されるのでしたら」と現場に赴く。そして見たのは野原に散らばるドロップ缶の絨毯であった。



 さあ、大変だ。警察から軍に、軍の馬鹿垂れからマスコミにと情報は回り、片田舎の町は騒然となる。



 その日から全米各地で怪奇現象が発生し始める。



 お菓子の山が全米各地に現れたのだ。



 チョコ、キャラメル、妙にしょっぱいビスケット、何だか黒いゼリー菓子、それも持って行って下さいと言わんばかりに綺麗に耐水紙で包まれてだ。



 大人は戦慄し、子供は喜ぶ。



 子供たちは大人より早くお宝を発見しようと躍起になり、発見した菓子を隠匿し賞味する。



 大人も必死。毒かもしれんし、遂に食い物爆弾が本土を犯したと回収と焼却に走り回る事になる。



 そんな折、第二撃がきた。



 塩の雨だ。



 合衆国の農業を支えるグレートプレーンズに塩の雨が降ってきた。



 塩は大地を犯し水を汚染し、営々と築き上げてきたアメリカの農業を台無しにしていく。



 アイダホでジャガイモが枯れ、アイオワで麦が枯死し、コロラド川には腐敗した魚が流れていく。



 人々は絶叫した。



 「枢軸は我々を日干しにするつもりだ!」



 何もそこまで慌てる事はないはずなのだ。政府は戦時であるからキッチリ備蓄はしているし、溢れる程生産される工業品で南米から買い付けても良い。



 窮乏するだろう、辛いだろう、食料は配給され、贅沢品は商店から消え、束縛が大嫌いな州は大反発するだろう。だが頑張れる、まだ頑張れる。



 



 



 子供が内から弾けるのを親が黙って見ているならばだが。



 
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