10 / 10
勝者はいない敗者もいない優しい世界
しおりを挟む
1946年一月二十六日 第二次世界大戦は、一応の終わりを迎えた。
最後の最後まで抗っていた、大日本帝国との講和交渉がスイスのジュネーブに置いて行われたのだ。
開催国にスイスが選ばれたのは簡単な理由であった。どの国も開催地に選ばれる事を嫌ったからだ。アメリカすらだ。
それはそうだ。連合、枢軸どの国で行った所で、大量の文句を言いたい者が、会場になだれ込んで来る事は目に見えている。どの国も今や戦争どころでは無い。過去に置いて来たあらゆる問題が火を噴いて燃え上がっている。
これで東京湾に浮かべたミズーリーの上で降伏文書に署名させるなど出来ようもない。連合、枢軸共に、解放又は占領した地域から叩き出され、本国でさえ、一部では独立の旗が翻っている有様である。
交渉自体は簡単に済んだ。大日本帝国は、朝鮮半島を除くベルサイユ条約後の領土に戻り、その軍備を大幅に削減する事で了解。連合国側もさっさとこの不毛な争いに終止符を打ちたいからか、賠償金を額の大幅な削減を提案した。
席上に並んだ各国代表の顔は疲れ切っている。元気なのはイタリア代表位の物だろう。彼らは植民地の放棄を条件に、イタリアファシスト政権の存続を認めさせたのだから。
全ての陣営が多くの物を永遠に失い、そして得た。植民地と呼ばれた地域は、その殆どが実質的に独立し、回収は不可能、軍備と言う軍備は、今後役に立つのか分からないガラクタと玩具の集合体に変わっていた。
得た者は命だ。なにせ誰一人死んではいない。人口は各国共に大幅に増加、医療費はゼロ、年金だって今後はいらないだろう。今現在地球上にいる成人人口は、気まぐれな神が思いつきで行動しない限り、みーんな生産人口に勘定できるのだ。
世界は平和になったのだろうか?一応はそうだ。大威力の花火と化した原爆、お風呂のアヒルちゃんと同じ価値しかない大艦隊、人類が殺戮の為に生み出した全てが無用の長物とかしたのだから。
配備と生産を止める訳にはいかない。いつ何時、あの世からのお迎えが再開されるか人類には分からないのだから。だが縮小はされる、兵士は故郷に戻り、鉄鋼業は民間向けに生産を再開し、流通ネットワークは世界を再度結び付けるだろう。
戦争、戦争とはなんだったのだろうか?これまで人類が積み上げてきた歴史とはなんだったのだろうか?奪い、犯し、殺し、少しでも自己の属する勢力の拡大に努める行為に、意味はあったのか?
誰も彼もが無力感に苛まれている。なんだよ、俺たちの努力は何の為にあったんだ?人類が誕生し、骨と石を手にしてからの数万年と、文明を起こしてからの数千年の殺戮に意味が無いのか?
まああれだ。弱者は強者に踏みつぶされる物だよ人類の諸君。君達それを延々と繰り返し、歴史を紡いできた。それが盤上からの一手ではなく、盤外からの問答無用のひっくり返しにあっただけの話だ。
極論すればこの世界の人類は弱かったのだ。強者が全てを持って行くのが歴史ならば、絶対の強者たる、上位の存在の無茶苦茶も許容される。それが運命と言う物だ。
1983年 ???
「六回目の当選。第4次ファシスト政権誕生へ。ワイはやるで!ムッソリーニ氏大いに語る!」
「画家に復帰したヒトラー氏、丸の内美術館にて個展開催!物議を醸す彼の芸術の神髄の迫る!」
「来年度の大河映像作品、西郷隆盛と明治天皇に決定!主演は本人?それとも?明治大帝の特別出演はあるのか?」
「混乱続くアフリカ情勢、百万人の大殴りあい、勝者のいない戦いの結末は?」
「ソユーズ宇宙船、打ち上失敗!乗員はヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・ジュガシヴィリ氏!まあ大丈夫でしょう、彼慣れてますから、ロシア宇宙局見解を発表」
「やり過ぎ!元新選組局長近藤氏、今時の若者にスパルタ教育!教育評論家乃木氏、愛のない教育に苦言」
「今季国会はどうなる?伊藤氏の長期政権に挑むのは?野党の秘策は?」
「世界人口、遂に八十億を突破!少子化の流れもこれは止められない!」
「ソーマ流通に×!危ないあの世食品に迫る!今話題!黄泉戸喫減量法!」
「NCE皇帝ノートン1世陛下、十六度目の脱走!市街のバーで逮捕!玉座に強制送還!」
「うん。色々あったが上手く回っているようだ。流石我ら!」
「ボスぅ~、そんな気楽な事言っていいんですか?」
忙しい仕事の合間、下界の新聞をチェックしていた存在に、部下は苦言を呈した。
「まだシステムの復興は半分も来てないのですよ?如何するんですか?このまま人が増えて行けば、今度は地球がパンクしますよ?」
「問題ない。そしたら月を住める様にしてやるまでだ。それでもダメなら火星、その次は木星あたりでどうだ?衛星も多いし、丁度良いだろう。んんん、もう一つ星でも作るか」
「ボス!いい加減にして下さい!これ以上物理法則を無視してると人間が可愛そうでしょう!ただでさえ、ボスの存在に気付いて混乱してるのに!」
「良いんだよ。何を今更だ。最初からいると言っていたろうに。預言者や覚者の言う事を聞いてない方が悪いのだ」
「そんな~。これから如何するんです?」
「そうだな、いっそこのまま不老不死で言っちゃうか?神代に戻して、あの世との行き来をフリーパスにしてしまうのも良いな。システムの試験運転もしたいし。うんそうだ、それで行こう!そうさな、半世紀もしたら予告でもしてやるか」
「ボス~!あ~もう無茶苦茶だよ~!ごめんね人類の皆~」
神がいい加減だと全てがいい加減になっていく。人類の試練は終わらないようだ。でも案外と気楽かもしれない、なんせ誰も死なないのだから。
さあ、行きましょう。この世界には冷戦も破滅の恐怖も無い、お馬鹿な神の導きで、かき回される人類が何処までやれるか、彼に見せてやろうではないか。彼の元に怒鳴り込んで行けるその日まで。
最後の最後まで抗っていた、大日本帝国との講和交渉がスイスのジュネーブに置いて行われたのだ。
開催国にスイスが選ばれたのは簡単な理由であった。どの国も開催地に選ばれる事を嫌ったからだ。アメリカすらだ。
それはそうだ。連合、枢軸どの国で行った所で、大量の文句を言いたい者が、会場になだれ込んで来る事は目に見えている。どの国も今や戦争どころでは無い。過去に置いて来たあらゆる問題が火を噴いて燃え上がっている。
これで東京湾に浮かべたミズーリーの上で降伏文書に署名させるなど出来ようもない。連合、枢軸共に、解放又は占領した地域から叩き出され、本国でさえ、一部では独立の旗が翻っている有様である。
交渉自体は簡単に済んだ。大日本帝国は、朝鮮半島を除くベルサイユ条約後の領土に戻り、その軍備を大幅に削減する事で了解。連合国側もさっさとこの不毛な争いに終止符を打ちたいからか、賠償金を額の大幅な削減を提案した。
席上に並んだ各国代表の顔は疲れ切っている。元気なのはイタリア代表位の物だろう。彼らは植民地の放棄を条件に、イタリアファシスト政権の存続を認めさせたのだから。
全ての陣営が多くの物を永遠に失い、そして得た。植民地と呼ばれた地域は、その殆どが実質的に独立し、回収は不可能、軍備と言う軍備は、今後役に立つのか分からないガラクタと玩具の集合体に変わっていた。
得た者は命だ。なにせ誰一人死んではいない。人口は各国共に大幅に増加、医療費はゼロ、年金だって今後はいらないだろう。今現在地球上にいる成人人口は、気まぐれな神が思いつきで行動しない限り、みーんな生産人口に勘定できるのだ。
世界は平和になったのだろうか?一応はそうだ。大威力の花火と化した原爆、お風呂のアヒルちゃんと同じ価値しかない大艦隊、人類が殺戮の為に生み出した全てが無用の長物とかしたのだから。
配備と生産を止める訳にはいかない。いつ何時、あの世からのお迎えが再開されるか人類には分からないのだから。だが縮小はされる、兵士は故郷に戻り、鉄鋼業は民間向けに生産を再開し、流通ネットワークは世界を再度結び付けるだろう。
戦争、戦争とはなんだったのだろうか?これまで人類が積み上げてきた歴史とはなんだったのだろうか?奪い、犯し、殺し、少しでも自己の属する勢力の拡大に努める行為に、意味はあったのか?
誰も彼もが無力感に苛まれている。なんだよ、俺たちの努力は何の為にあったんだ?人類が誕生し、骨と石を手にしてからの数万年と、文明を起こしてからの数千年の殺戮に意味が無いのか?
まああれだ。弱者は強者に踏みつぶされる物だよ人類の諸君。君達それを延々と繰り返し、歴史を紡いできた。それが盤上からの一手ではなく、盤外からの問答無用のひっくり返しにあっただけの話だ。
極論すればこの世界の人類は弱かったのだ。強者が全てを持って行くのが歴史ならば、絶対の強者たる、上位の存在の無茶苦茶も許容される。それが運命と言う物だ。
1983年 ???
「六回目の当選。第4次ファシスト政権誕生へ。ワイはやるで!ムッソリーニ氏大いに語る!」
「画家に復帰したヒトラー氏、丸の内美術館にて個展開催!物議を醸す彼の芸術の神髄の迫る!」
「来年度の大河映像作品、西郷隆盛と明治天皇に決定!主演は本人?それとも?明治大帝の特別出演はあるのか?」
「混乱続くアフリカ情勢、百万人の大殴りあい、勝者のいない戦いの結末は?」
「ソユーズ宇宙船、打ち上失敗!乗員はヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・ジュガシヴィリ氏!まあ大丈夫でしょう、彼慣れてますから、ロシア宇宙局見解を発表」
「やり過ぎ!元新選組局長近藤氏、今時の若者にスパルタ教育!教育評論家乃木氏、愛のない教育に苦言」
「今季国会はどうなる?伊藤氏の長期政権に挑むのは?野党の秘策は?」
「世界人口、遂に八十億を突破!少子化の流れもこれは止められない!」
「ソーマ流通に×!危ないあの世食品に迫る!今話題!黄泉戸喫減量法!」
「NCE皇帝ノートン1世陛下、十六度目の脱走!市街のバーで逮捕!玉座に強制送還!」
「うん。色々あったが上手く回っているようだ。流石我ら!」
「ボスぅ~、そんな気楽な事言っていいんですか?」
忙しい仕事の合間、下界の新聞をチェックしていた存在に、部下は苦言を呈した。
「まだシステムの復興は半分も来てないのですよ?如何するんですか?このまま人が増えて行けば、今度は地球がパンクしますよ?」
「問題ない。そしたら月を住める様にしてやるまでだ。それでもダメなら火星、その次は木星あたりでどうだ?衛星も多いし、丁度良いだろう。んんん、もう一つ星でも作るか」
「ボス!いい加減にして下さい!これ以上物理法則を無視してると人間が可愛そうでしょう!ただでさえ、ボスの存在に気付いて混乱してるのに!」
「良いんだよ。何を今更だ。最初からいると言っていたろうに。預言者や覚者の言う事を聞いてない方が悪いのだ」
「そんな~。これから如何するんです?」
「そうだな、いっそこのまま不老不死で言っちゃうか?神代に戻して、あの世との行き来をフリーパスにしてしまうのも良いな。システムの試験運転もしたいし。うんそうだ、それで行こう!そうさな、半世紀もしたら予告でもしてやるか」
「ボス~!あ~もう無茶苦茶だよ~!ごめんね人類の皆~」
神がいい加減だと全てがいい加減になっていく。人類の試練は終わらないようだ。でも案外と気楽かもしれない、なんせ誰も死なないのだから。
さあ、行きましょう。この世界には冷戦も破滅の恐怖も無い、お馬鹿な神の導きで、かき回される人類が何処までやれるか、彼に見せてやろうではないか。彼の元に怒鳴り込んで行けるその日まで。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる